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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第七章 アメリカン・ロビン=フッド㊤
291/565

第一話 包囲構築⑦

◆◇◆



 松ヶ崎市の中心市街に散弾銃を持った男女二人組が現れてから、はや三日。

 その間、街は警察が動き回り、ひっそりとした警戒塗れの空気を纏っていたけれど、とうとう何も起こる事は無かった。

 男女の消息は(よう)として知れず、新規の目撃情報も一切出て来ず、不気味なほどの静けさだけが過ぎて行ったのである。

「……こんな状況で学校再開ってマジかよ。事が起こってからじゃ遅いってのに」

「仕方ないって。学校側からしてみたらこれ以上の授業の遅れは看過できないんだろ。ただでさえ、今年度は休校が多いしな」

「先生たちからしてみれば、教えておきたい範囲が教えきれないのは確かに困る事なんだろうけどさ……」

 それで万が一でも起これば、責任を問われるのは学校側である。

 拭えない不安を抱えつつ玄関で靴を履きながら大きな欠伸をする護の肩に、背後から彼の父である真之の手が乗せられた。

「小学校に関してはまだ休校中だ。再開するのは中学と高校だし、その辺の歳にもなればある程度は危機を察する事は出来るだろって判断なんだろうさ。それに、この三日間何も起こらなかったってのは、人の警戒心を緩ませるには充分なんだろう」

「ネットだと幻覚か何かじゃないのか、みたいな話まで出て来てるもんな。そんな状況じゃ文句言ったって無駄か……」

 普通に考えたら、散弾銃を持った人間が三日間も一切の目撃証言すらなく過ごす事が出来るとは考え辛い。

 それこそ、ここ最近の松ヶ崎は一般的に見れば奇怪な事件が連発して、動員されている警察官の数も普段より多いのだから。

「オーバンも魔力反応には目を光らせている。何かあったらすぐに連絡するから、お前は学生としての本分を果たしてこい」

「んなこと言われても、こんな状況で集中できるわけねえだろ。自転車だって綾音に貸したままだってのに……行ってきます」

「おう、行ってらっしゃい。気を付けてな。何なら車で送ってやるが」

「良いよ別に。ありがと」

 背後から掛けられる真之の言葉にひらりと手だけを振り返した護は、玄関の戸を開けて出発する。

 そのまま庭を歩き、敷地と一般道を隔てる百鬼家の古めかしい門、その脇戸を潜る。

 そこを出れば、後は見慣れた付近の住宅街と我が家の塀をぐるっと囲う水濠(みずぼり)という、彼にとっていつもの光景が視界に広がるばかりで――。

「おはよう、護」

「……綾音!?」

 出し抜けに聞き慣れた少女の声が聞こえて、護は目を白黒させつつそちらに目を向ける。

 するとそこにいたのはやはり古い馴染みの顔で、彼女――美才治(びさいじ) 綾音は自転車を手で押しながら護へ近付いて来るのだった。

「うん、この前振りだね。この前はこの自転車貸してくれてありがと。それに、弁償とか訳分からない事を言って新しい自転車まで買って送ってくれたし」

「別に、感謝されるような事じゃない。いきなり自転車が壊れて可哀想だなって思っただけだから」

 事の起こりはつい五日前。つまり散弾銃を持った男女二人組が中心市街に姿を見せたあの日よりも、一日前。

 その日の朝、護と綾音はまた別件の能力者と遭遇して、綾音が気付かぬ内に彼女の自転車が大破してしまったのだ。

 仕方ないので護は自分の自転車を彼女に貸し、彼は学校を休んで襲撃を掛けて来た能力者を迎撃して……。

 それから、何やかんやあって護は今まで彼女には自転車を貸しっぱなしにしていた。だから今日の護は普段より圧倒的に早く出て、徒歩で登校しようと思っていたのだが。

「何の用だよ綾音、こんな早い時間に」

「自転車を返しに来たんだってば。新しい自転車まで送ってくれたのに、いつまでもこれを借りている訳にもいかないでしょ? 貸してくれてさんきゅ」

「……どういたしまして」

 自転車の、ハンドルを渡してくる綾音にそう応じながら自転車を受け取った護は、礼を述べつつも彼女から視線を逸らす。

 そのせいか、二人の間に流れる空気は余計にぎこちなくて、気まずい空気が充満する。これが半年前であったならこんな事にはならなかった筈なのに、たった半年経っただけでこんなにも空気が重くなってしまうなんて、護にしてみれば思いもしないものだった。

「あ、あのさ、護……」

「何?」

「その、自転車も返したし今日は私と一緒に登校しようよ。ほら、また物騒だし不安だなって」

「悪い、そりゃ無理だ。綾音も行きと帰りは気を付けるんだぞ。じゃ、俺はこれで失礼。学校に行かなきゃだし」

「護!」

 伸ばされた綾音の手も言葉も、護に届く事は無かった。

 彼女はただ、遠退いていく護の背中を見ている事しか出来なかったのである。

「自転車なんだから、こんな早い時間に学校行かなくてもいい筈なのに……」

 立ち尽くした彼女はそれだけ呟いてから、制服スカートのポケットに手を突っ込んで、そしてその中でクシャリとした感覚に眉根を寄せる。

 試しにポケットの中からそのクシャクシャになった紙きれらしきものを取り出してみれば、どうやら何かのメモらしい。

「……これって」

 そこに書かれていた電話番号と名前を目にして、綾音はつい数日前の出来事を、何を言われたのかを思い出していた。



『ふーん、そっか。じゃあその隠し事、知りたくない?』


『もし君が知りたいと思うなら、君があの子について知っている事と引き換えに私からも教えてあげよう』


『そんなに焦らなくても良い。気が向いた時に、松ヶ崎警察署に来てくれればそれで良いよ。そうだな……もし署まで来てくれる事があったなら、こいつを職員に渡して榮森課長を呼んでくれって伝えてくれ。もし私が署にいたら、すぐ応対するから。電話でも良いけどね』



 彼女の視線は既に、遠退く護の背中ではなく手元のメモに釘付けとなっていた。



◆◇◆



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