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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第七章 アメリカン・ロビン=フッド㊤
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第一話 包囲構築⑥

◆◇◆


「……解せない」

「ああ、あれですか? 今、署内が大騒ぎの散弾銃らしきもの持った男女二人組の件」

「いや、そんな事はどうでも良い」

「どうでも良くはないのでは……?」

 松ヶ崎警察署にある刑事課、その一角のデスクに座す壮年の男性刑事――吉門(よしかど) 海斗係長は、部下の言葉を素っ気なく斬り捨てて思考する。

(やかま)しいぞ。それよりも今は考えなくちゃいけない事があるんだ。ここで新しい出来事について考えていたら、片付くものも片付きやしない」

「はあ……それで、考えなくちゃいけない事っておっしゃるのは何ですか?」

 部下の釈然とし無さそうな問い掛けに、彼は椅子の背凭れに体を預けながら答えた。

「この前の留置所での件だ。あの日は俺達の理解の埒外(らちがい)にある事ばかりが起こったからな」

「ああ、あの時の。まだ気にしてたんですか? あんな訳わかんないの、考え出したら(きり)がなくて発狂しちゃいますよ?」

 やれやれ、と言わんばかりに肩を竦めて見せる部下だが、そんな露骨な態度を目にしても吉門は真剣な雰囲気を一切崩さなかった。

「そう言うがな月夜野(つきよの)、俺はあの時の出来事を、この街で頻発する怪事件の一端だと捕えているんだ。何か、重大な手掛かりをこの目に焼き付けたんじゃないかってな」

「あんな訳わかんないものを目にしてそんな考えに至れるなんて……課長、やっぱ寝た方が良いんじゃ」

「だから! 別に寝不足で頭おかしくなった訳じゃねえっての!」

 心配そうな目を向けてくる部下――月夜野 和馬巡査の視線を手で払いながら、吉門は重い気顔を引き攣らせていたのだった。

「ったく、お前らは……上司相手によくそんなこと言えるな! 俺らが巡査の時に警部補へそんなこと言ってたら、今頃ぶっ殺されてんぞ?」

「時代の流れって奴ですね。諸行無常(しょぎょうむじょう)海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)……」

長久命(ちょうきゅうめい)長介(ちょうすけ)をやってんじゃねんだよ」

 突然の部下の奇行染みた発言へ即座にツッコミを入れた彼は、しかしそこで咳ばらいをしてから話題を引き戻す。

「とにかく、それだけ俺はあの件を重要視してるって事だ。実際、月夜野は何か変なものを見たんだろ? いきなり訳の分からない風が吹き荒れるあの場で」

「ええ、あの(やじり)のようなものが空中に形成されていく様子は確かに、この目で見てます。しかもそれが発射された途端、岩石の壁が破壊されて……」

 理解出来ない、理解を拒むとでも言わんばかりに顔を(しか)めた月夜野は、そこで言葉を途切れさせていた。

「俺からすれば強風が吹いたかと思ったら唐突に壁が破られた感じだったがな。お前の言う(やじり)のようなものなんて、どこを見渡しても見つからなかった」

「あの件について、自分は嘘を言っているつもりはありませんよ。本当にこの目で見たんです。と言ってもまあ、小さい頃からこういう事を言って信じてくれた人は誰もいませんでしたが」

 自嘲するように漏らしたその呟きを、しかし吉門(よしかど)は聞き逃さない。そして、部下のそれを否定するどころか肯定するように、真っ直ぐ目を向けて言うのである。

「いや、俺は信じるとも。既にあの時点で、訳の分からん事が起こって俺の靴の先っちょは消滅しているし、留置所も破壊されまくってたんだからな。まるで人智を越えた何かが暴虐の限りを尽くしているみたいだった」

「あれも何か、霧みたいなのが風に乗って拡散していく感じでしたよ。で、その霧に包まれた所が一瞬で消滅した、的な感じです。空間を食べてるって表現するのが一番しっくりきます」

「その霧ってのが、俺には全く見えなかった。だからお前が制止してくれたお陰で、あの時は靴の先っちょを消し飛ばされるだけで済んだんだろうな。あの後も、死傷者が出なかったのが奇跡だぜ」

 当時を思い出してブルリと身震いをした吉門の顔は、若干青い。もしも自分の体の一部、もしくは全身が呑まれていたらと想像したのだろう。

「にしても、月夜野(つきよの)のその変なものが視える力は何なんだ? 霊感って奴かね?」

「そうなのかも、しれません。小さい頃から自分だけ見えて他の人は見えない、みたいな場面は結構ありましたから」

 それは、良い記憶と結び付かないのだろう。部下の表情だけで何となく吉門は察して、彼は深く訪ねるのを止めていた。

「霊感か……ってなると、じゃああの時俺達が留置所で見た数々の非現実的な光景は、霊能力者バトルだったって言う全く許容しがたい結論が自然と導き出されるんだが……これで良いんだろうか?」

「良くはない、でしょうね。だって訳わかんないですもん」

 月夜野自身からして見ても、それは不自然極まりないのだろう。受け入れられないと言わんばかりに吉門の顔を見て苦笑を浮かべていた。

 そしてそれは、吉門自身もまた同様であって。

「だよなあ。仮にそうだったとしても納得できない事だらけだ。今まで頻発していた理解不能な事件の数々は超能力によるものでした、で結論付けた調書を上へ提出した日には……な」

「精神病院に行くなら、係長一人で行って下さいね」

「行く訳ねーだろ! お前、俺のこと舐めてるよな?」

 そろそろ限界だと、吉門の右手が月夜野(つきよの)の首を鷲掴みにする。一方、確保された月夜野はと言えば呑気な顔をして言った。

「あ、係長の体から霧みたいなのが漏れ出して……」

「嘘吐け」

「バレちゃいました?」

「そんな都合よく人間が特殊能力に目覚めるかっての。ったく、冗談も御伽噺(おとぎばなし)の中だけにして欲しいもんだ」

「そ、そうです、ね……あの、係長、そろそろ、首絞めるの、止めて、もらって、良いですか? 限界、限界が……」

 自分で口に出しても馬鹿げていると、この状況でも吉門は思う。自分が狂ってしまったのではないかと、彼としても懸念せずにはいられないのである。

「やはり、あの銀髪三白眼の男……アーベントとか言ったか? それに彼を引き連れていた榮森(えいもり)課長が深い事情を知っている以外にはあり得ないだろうな。署内へ戻ってきたタイミングで、じっくりと聞き出さねば……」

「か、係長……自分、もう、限界、ですっ……」

 どんどんと顔から血の気を失っていく部下を余所(よそ)に、吉門は思考の海へと沈んでいくのだった。



◆◇◆



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