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第4話 妹は、未経験を理由に混乱し、口走る。 ①






 アタシの姉はつくづく変わっていると思う。

 せっかくの休日に、アタシがのんびりゲームを楽しんでいると、階下の玄関がバカみたいな音を立てた。

 突然の騒音に、クッションの上で、思わず小さく飛び上がる。


 「あわわ」


 とっさにコントローラーを取り落としてしまいそうになり、……いやはや、口から心臓が飛び出すかと思った

 曾祖父の建てた築50年を超える木造二階建て。この辺でも有名な年代物の我が家である。そんなボロ家の戸を力任せに閉めれば、どうなるかはお察しで。

 続いて、母の怒鳴り声。あぁ、多分玄関扉が外れたな。

 間髪入れずに、母の制止を振り切るかのように、ドスドスと階段を駆け上がる音が聞こえてくる。

 どうやら姉が帰ってきたらしい。

 だけど壁掛け時計を見て、おや? アタシは首をかしげてしまう。

 なにせまだ、午後三時を少し過ぎたくらい。

 いやはや珍しいこともあるものだ。今日は休日。それも日曜だから、いつもなら、夕方過ぎまで兄ちゃんとふたりきり。隣の家で、相も変わらずイチャイチャとしているはずなのに。

 となると、――アタシは、姉がその時間を特に大切にしているのは知っているから、皆まで言うなとピンときた。心当たりは一つしか無い。


 ――やれやれまたか。


 お腹の底から溜息が出る。せっかくの静かな昼下がりなのに、ゲームの時間が台無しになるかもしれない。

 イヤだイヤだとため息をついていると、力一杯、部屋の襖が開け放たれた。そして、


 「どーしよ-!! 」


 IQの低そうな雄叫びを上げながら、予想通り、我が姉登場である。

 ダボダボのパーカーにヨレヨレのハーフパンツといった女子力が行方をくらませた出で立ち。せっかくのサラサラ髪なのに、何をどうしたのかボサボサで。これで、巷では美少女ともてはやされているのだから、世の中の男どもの見る目のなさには呆れてしまう。

 がさつでわがままで泣き虫。これが姉の正体だというのに。


 「うるさい! 」


 とりあえず、アタシは近くにあったクッションを投げつけた。決して姉のペースには乗らない。これが、この家のセオリーなのだ。


 「わぷっ」


 我ながら、ナイスコントロール。吸い込まれるように姉の顔面へとクッションは飛んでいき、息の詰まるような声を上げ彼女の動きを止めることに成功した。


 「もう! なにすん――」


 「――兄ちゃんと何かあったんでしょ」


 「ぅぐう……」


 間髪入れずにアタシは確信を突いた。弱点はまっすぐにえぐるように打つべし、である。

 そして、姉の態度から見て取るに、図星だな。

 アタシのふかふかクッションを尻に、姉はゆっくりと腰を下ろした。

 それにしても、この姉。顔が真っ赤である。いや、真っ赤っ赤。完熟トマトも裸足で逃げ出すほどの深紅。

 なにやら、唇をとがらせたまま、自室の畳に『 の 』の字をモジモジと書いているし、正直気持ち悪い。

 周囲から、どれだけ美人だと言われていようと、姉妹というフィルターを通して見れば、目の前にいるのはだらしない格好をした挙動不審な顔の赤い女。いわゆる不審者である。

 しかも、チラチラとこっちに目線を送ってくるのだからたまらない。

 アタシにはわかる。生まれてから14年。長きにわたり妹をしてきたのだから、この行動が意味するところは、


 「……別に、アタシ興味ないから」


 「もう! 意地悪しないで聞いてよ~! 」


 そう。姉特有の話を聞いてほしいサインなのだ。

 だが、こちとら聞くつもりなんて毛頭無い。こんなに早く帰ってきたのだから、どうせ隣の兄ちゃんと犬も喰わないようなケンカでもしたのだ。

 でも、こんなことは日常茶飯事。

 やっかいなことに、うちの姉は意地っ張りだから絶対に謝らない。それでいて、どう育ったらこうなるのか。傍若無人で自己中心的なワガママ生物である。

 アタシならこんなヤツ、一にも二にも真っ先に、ひっぱたいてやろうかこのやろう。それくらいは思うのだけど、それでもあの兄ちゃんだからさ、最終的には自分から謝って。


 ……きっと、お互いに、そんなところも好きなんだろうね。


 なんせ、この姉ときたら、さっきまでプリプリと腹を立てていたクセに、あっという間に手ひら返し。もう見てるこっちが恥ずかしいくらいにデレデレしながら許す。このパターンがお決まりで。

 常日頃、姉のワガママを、なんだかんだと許してしまう兄ちゃんにも言いたい事は多々あるけれど、まぁ、そこが兄ちゃんの良さでもあるからね。とにもかくにも、毎回毎回そんな小芝居にも似た痴話喧嘩を、間近で見せられる身としては、他所でやれと石のひとつくらい投げたくなる。

 なのでアタシの答えなんてはじめから決まっている。


 「絶対にヤ」


 お母さんに聞いてもらいなよと、にべもなく言い捨てると、アタシはコントローラーを握り直し、姉の恨めしそうな声を背にゲームを再開することにした。

 せっかくテストを頑張って、買ってもらったゲームなのだ。お父さんは頑張ったら買ってあげると言ってたけど、話を聞きつけた母がバグった点数を要求するもんだから、寝ずに勉強したのだ。

 なにが「可愛いだけじゃダメよ。勉強出来なきゃね」なのか。アンタの長女を見てものを言え。

 なんだアイツは、巷では美少女だともてはやされているし、勉強も恐ろしいほど出来るが、ものの見事に立派なアホだぞ。と、言いたくて仕方が無かったのを覚えている。

 なので、そんな姉の与太話を聞くより、努力で勝ち取ったゲームをする事の方が、一億倍有意義なのである。しかもちょうど今、いいところで中断していたのだ。

 ボスを目前での、レベル上げの真っ最中。


 「……ねぇねぇ」


 だから、姉の手がアタシの服を引っ張ろうとも、気にしない。ボスの弱点武器がいよいよ完成なのだから。


 「……げぇ、あんた枝毛あるわよ。女の子なんだからちゃんとしなさいよね」


 姉が自分の事を棚に上げて、人の髪の毛をいじってきても、気にしない。ようやくボス部屋への鍵を手に入れたのだから。


 「……うわぁ、あんた中二にもなってペッタンコじゃない」


 だから、姉が背後からアタシの胸をまさぐってきたとしても、アタシは……


 「無いなぁとは思ってたけど、これじゃ更地よ更地。なだらかな地平線じゃないの」


 たとえ姉のそのふくよかな胸を背中に感じたとしても、アタシは、アタシは……


 「――きっと胸はお父さんに似たのね」


 「うっぜぇぇぇぇ!!」


 アタシはボスを目前に、コントローラーを投げ捨てた。衝撃で画面がフリーズしたが、今日という今日はホントに頭にきた。なんだ! 胸が大きいのが偉いのか!! こいつはアタシの逆鱗に触れたのだ。


 「はぁ? 大小以前に、アンタ無いじゃないの? 」


 「もう許さん!! 」


 本当に許さん。涙が出てきた。アタシが陰でなんて言われていると思う?


 『――胸があれば完璧』


 無いアタシは不良品なの!? どいつもこいつも、なんなんだ! 一体全体なんなんだ!!


 もう、その胸むしり取ってやると、恨み半分八つ当たり半分で、アタシは姉に掴みかかった。







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