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水曜日 怪しみ

「拓氏先輩が帰ってきた」


皆、その足音で感づいた。


「とにかくさっきまでの一連は忘れよう、この命令は捨てます。これはなかったってことで」


高須のその発言のタイミングで拓氏先輩が部室に入ってきた。

「戻りました~」すごい楽しそうな声を上げてくる。


部室の空気は正直変な感じになっている。なのに拓氏先輩はそれを読めずに場違いな発言を言ってくる。


「で、命令文章は何だったの?俺に見せてよ!」


今のテンションの拓氏先輩が嫌なようで高須は、苦い顔をして嫌そうに拓氏先輩に声を吐き捨てる。


「いや、もう捨てましたから、とにかく効果は分かったんでもういいですから」


そう言って拓氏先輩をあしらうとやっと場の空気を感じたのか、拓氏先輩はちょっと控えめな態度になって申し訳なさそうな態度で答えてきた。


「え!ああ、捨てた?・・・ああ・・・はいわかりました」


すべて一瞬で冷めた。しかし、高須はめげないような表情をしている。


「とにかく、仕切り直しましょうか!今日はあかねちゃんもいることだし、これから本番って形で楽しんでいこうか」


そう言って雰囲気の切り替えを図ったのだった。


「はい、これが例の鉛筆ね」


そう言ってあかねちゃんに鉛筆を渡した。


「え!いいの?」


唐突の出来事にあかねちゃんは驚きの発言をもらす。


「恭介先輩が乗り気じゃないし、とにかく登録者として交換する感じかな!」


高須はそう言って速攻であかねちゃんと恭介先輩を交換して新登録者含め6人で鉛筆遊びが始まった。


「じゃあ、かして貸して」


あかねちゃんが早速鉛筆を使いたそうにねだってくる。

それに対し高須はすんなりと鉛筆を貸してしまった。


「ちょっと待ってよ、ほんとにいいのか?もうちょっと他の皆に回してからでも!」


拓氏先輩が言うがあかねちゃんは、「いいから私に貸してよ」というような顔をして俺たちを見てくる。その顔を見ると「ああ、いいよ」と結局先輩ですら了解する始末である。


このサークルの男どもはつくづく女に弱いやつらだ。


「ありがとう、じゃあ早速使わせてもらうね。」


そう言って高須から借りたメモ用紙を使って命令を書き始めた。

(高須 佳悟 私にアイスをおごる約束をする。)

(国原 拓氏 この鉛筆を神奈恭介に触らせる。)

(高須 佳悟 所有権を私に譲ると発言する。)

サラサラとまるで手慣れたようにメモ帳にこの命令を書き綴った。


「はい、ありがとう佳悟君、メモ帳返すね。」


あかねちゃんはそう言って自分で書いた一枚を破って高須にメモ帳を返した。


「あかねちゃん飲み込み早いね。これは楽しくなりそうだよ、なんか熱くなってきたから後でアイスでもおごってあげようか?」


高須が言う、拓氏先輩があかねちゃんに「次は俺ね。」と声をかけて勝手に鉛筆を取ろうとした。

だが、うまく取れなかった鉛筆はあかねちゃんの手から落ちて床に音を立てて転がっていった。

「あ!」、声を上げた拓氏先輩は、転がっていった鉛筆を目で追って止まった先を見て恭介先輩に声をかける。


「恭介先輩、そっちに鉛筆転がっていったんで取ってもらっていいですか?」


今、自分で言ったその言葉を拓氏先輩はふと思い返したような表情をした後に「あ!」そう声を上げた。


当然である。恭介先輩が鉛筆を取ったらまた、所有権交代の取引が始まるのである。しかしそれがあかねちゃんの差し金など皆知る由もなく「アホ、なぜそんな声をかけた。」と拓氏先輩に罵声が飛ぶ。


そんな中で恭介先輩は普通に鉛筆を取ってしまった。


「あーあ、先輩なぜ取っちゃうんですか!参加しないって言ってたのに」


高須はめんどくさそうな顔で声をかけた。


「しょうがねーだろ、声かけられたからとっさに取っちまったんだよ、いいから早くどうするかお前決めろ!」


半ば強制的に参加させられたような感じになった恭介先輩は、若干キレ顔で高須にすり寄りながら声を上げている。


「お前さ、この間から若干調子に乗ってねーか?たいがいにしないとマジギレれするからなオイ」


恭介先輩が高須に鉛筆をぐりぐり押し付けながら怒り始めた。

恭介先輩の激怒な顔にビビった高須は鉛筆を受け取って「すいません」と怯えながら言った。


黙って高須から引いて行った恭介先輩は再びパソコンに向かって作業をし始めた。


「今の恭介先輩の顔はマジだった。きをつけないと俺が本気で怒られそうだから皆できるだけ静かにやろうぜ!先輩、気が立ってるみたいだからさ」


「で!所有権どうするんだよ、恭介先輩は自由にしろって言ってるんだからさっさと決めて!」


せかすように拓氏先輩が言ってきた。


「ああ、じゃあまずはこの状況だしあかねちゃんに所有権を譲ってちょっと遊んでみる?」


高須は簡単に決めつけた。

すると、あかねちゃんがゲラゲラ笑いながらメモを渡してきた。皆がそのメモを見て唖然とした。


「え!あかねちゃんの仕業?なんでこんな事できるの知ってんの?」


高須は問い詰めた。


「だって説明書見れば何となくだけどわかるじゃない?」


あかねちゃんのその発言に対して俺はどう考えてもおかしいと思った。

だけど、ほかの皆はそれに対して何も疑いもなく「あかねちゃん、案外頭の回転早いんだね。」そう口をそろえて発言する。

だが、皆がさらに唖然としたのがメモの最後に(寺山 あかね 次の命令を拒否する)と書いてあった。


昨日今日でやっとわかってきたようなルールを彼女は説明書を見ただけで把握して、一回のメモだけでそこまでの命令を書いたのだ、頭の回転が速いだけではすまない事をしているような気がした。


俺はあかねちゃんがあまり頭脳明晰で無いことは知っている。

どちらかといえば、天然な思考を持っているようなタイプだ、だからこそ俺はあかねちゃんを疑った。すでに鉛筆の使い方を知っているような感覚で鉛筆を使いこなしたからだ、きっと何かある。


俺はそうにらんだ、そして、あかねちゃんは鉛筆を使い終わると拓氏先輩に鉛筆を渡してあげた。


「あとは自由に使っていいですよ、私もう楽しんだから大丈夫です。」


本当に満足したような顔で満面の笑みでこちらを見ている。

そんなあかねちゃんを見ていた拓氏先輩は、鉛筆を渡されたにも関わらず少しフリーズしていた。


少したって「ありがとう」と、あかねちゃんに声をかけると拓氏先輩は命令を書き始めた。

(菊池 一平 あかねちゃんを口説き始める。)

(高須 佳悟 あかねちゃんへの命令を書く)

すると、しびれを切らしていたかのように一平さんがあかねちゃんに近づいてきて話しかけ始めた。


「ほんと、あかねちゃんって笑ってる顔かわいいよね!今日は一緒に帰らない?ねえねえ」


「ごめんなさい、私修ちゃんと帰る約束してるから」


あかねちゃんは速攻でその発言に拒否をしてきた。


「なんで香山となんだよ、いいから俺と」


しつこく食い下がるがあかねちゃんはそれに物おじせずに同じ言葉を繰り返す。


「修ちゃんと帰る約束しているから」


「ん?そんな約束はした覚えはないが?」


俺はあかねちゃんの発言にそう思いつつ彼女の気を察して何も反応せずにいた。


「また変な命令書いたんですか?拓氏先輩、次俺に書かせて下さい」


高須はそう言って鉛筆を奪い取る。

(寺山 あかね 香山修介に告白)

(寺山 あかね 高須佳悟に所有権を譲ると発言する)

とメモにそそくさと命令を書くとまた拓氏先輩が鉛筆を奪って命令を書こうとしていた。


「そうだ、私もう鉛筆楽しんだしあと帰るね!だから佳悟くんに所有権譲るよ、じゃあ帰ろ修ちゃん!」


そう言って俺の腕を引っ張ってきた。


「え!ちょっと俺まだ」


唐突な出来事に焦った俺はそう言葉を漏らしていた。

しかし、あかねちゃんの強引な力で俺は部室の扉に引きずられていく、「ばいばーい」と皆に声をかけて俺とあかねちゃんは帰ることになった。


その強引さを見ていたメンバーは「あらら」と思いながらもその後も少しだけ鉛筆で遊んでいたらしい、俺はあかねちゃんと帰ることになり久しぶりに、中学での出来事を会話の話題にして懐かしみながらも家に帰って行った。


その間、俺はあかねちゃんを怪しみながらも、鉛筆の事については質問しないでおこうと思っていた。

何か核心があるわけではなかったからだ、そんな中であかねちゃんからいきなり「ねえ、今日泊まっていい?」と言われたが「それは出来ない」そう即答して、家に上がらせる事はしなかった。


彼女の気持ちに何かあったのであろうが、俺には関係ない!

あかねちゃんは可愛いとは思うが、恋愛の対象外なのだ、中学の時から知っているとはいえあの性格は好きにはなれない、ただ俺は今のあかねちゃんが何かしら鉛筆にかかわっているのではという疑いの気持ちでしか見れないでいる。

だから、たとえそんな言葉をかけられても、今の気持ちでは何も揺らぎようがないのである。


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