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火曜日 深読みなルール

日が明けた。鉛筆を受け取って二日目である。

いつもと変わらず講義をこなしサークルに向かう、今日はいつもと雰囲気が違う、高須がイライラしながら椅子に座っていた。


「よお修介、お前遅かったな!昼に食堂でも見かけないし、今日はお前に会いたくてウズウズしてたんだぞ!」


出合頭にそんなことを言われてもただ気持ち悪いだけだ、俺には鉛筆に用事があることは分かっていたが言い回しが酷くて顔が崩れる。


「なんだよ、これだろ!ほら」そう言いながら鉛筆を高須に渡した。


「素直だな、サンキューな!実は試したいことがあってさ」そう言って高須は鉛筆を振りながらニヤニヤと笑顔に変えた。


そのかたわらで正蔵君はパソコンをいじりながらこちらを見ていた。


「香山先輩お疲れ様です。昨日のカラオケ楽しかったですねー」


昨日の事をまるで高須に自慢するかのようにあえて言ってきた。

だが、高須はあまりそれを気にするような態度など取らなかった。


「昨日はあの後カラオケ行ったのか!良かったな、俺はさ、ちょっと考え事があったから先に帰っちゃったけど、そのおかげでいい案が浮かんで良かったよ」


終始ニヤニヤしながら話している。

そんなやり取りをしていると、拓氏先輩、一平さん、恭介先輩が部室に入ってくる。


「今日もあの鉛筆で遊ぶのか?サークル活動は中止ってことで?」


そう言いながら恭介先輩が歩いてくる。


「お疲れ様です恭介先輩!昨日はあの後どうだったんですか?」


正蔵君が間髪入れずに聞いてくる。それに対してなぜか一平さんが答えてきた。


「昨日は二人で居酒屋三昧だったらしいよ!」そう言って恭介先輩に話しかける。


「俺も行きたかったですよー、お酒飲みたかったなー!・・・かわいい子さそったんですか?」と、女の子と絡みたかったアピールをしてくる。


恭介先輩はちょっと嫌そうな顔でその会話をたしなめる。


「かわいい子はいないよー!結局、真人と二人で飲んでたしぃー」そう言って受け流した。


そんな会話をかたわらで聞いていた高須はちょっとムスッとした顔をしていた。


「とーにーかーくー!鉛筆で遊んでみませんか?俺いい事思いついたんすよ、実戦してみたくてみんな集まるまで待ってたんですよ!」


そう言う高須はさらに顔がウキウキしている。


「鉛筆で遊ぶのね。じゃあ今日は活動中止でいきましょう!」


気を利かせた先輩がそういってくれた。かく言う先輩も遊びたいことは目に見えてわかっていた。

ダルそうな雰囲気でやる気が見えない、きっと昨日の真人先輩との出来事で気持ちを持っていかれてしまったのだろう、恭介先輩は真人先輩の事が大好きだから、久しぶりに会うと次の日はいつもこうなのだ、一日真人先輩の事を考えてしまうらしい!

そう言うが恭介先輩はホモではない、友達として、親友として真人先輩が大好きなのだ、これだけは理解してほしい、それがあるからこそ、刺激が欲しいのだ!忘れたいのだろう。


サークルメンバーが皆そろい、今日は高須が仕切って鉛筆で遊ぶらしい、高須を見るとだいぶ鉛筆の能力に依存し始めているのがわかる。それを考えると、この鉛筆に対して何か怪しい匂いがプンプンしてならない、昨日の最後に所有権が剥奪されてからはある意味では鉛筆に対して第三者の面で見ていた。


考えてみれば怪しい浮浪者から鉛筆をもらい、それを使ったら不思議なことに人の行動を操ることが出来た。・・・考えれば考えるほど何かの策略じゃないかとしか思えないのだ、だが今はその先には進めない、そこまで考えうる信憑性が見えないからだ、だからこそ今日からまた鉛筆を使う機会があるなら何かが見えると思っていた。


だが、自分では使いたくなかった。何かがそうさせなかった。

俺のプライドなのかもしれない、とにかく俺は鉛筆の真相を知りたくてたまらなかった。


「じゃあ、俺命令書きますね。今回は結果が出るまで皆見ないで下さい」


そう高須が言った。

高須が鉛筆を走らせている音を室内に響かせる。カリカリと鳴る音の中でメンバー皆黙り込みその姿をまじまじと見ている。

どういう命令が下るかわからない緊張感で皆若干顔がこわばっている。


静寂が少し続き高須が命令を書き終えると声を上げた。


「そんな、緊張しないで下さいよ変な命令を書いたわけでもないんだから、ひどい影響はないですよ」高須はそう言って皆をなだめる。


「ところで高須先輩!昨日考えてた事って今書いた命令なんですか?それともまた違う事なんですか?」正蔵君がそう言う。


「今、書いてる事だよ!いろいろ考えてね。よくよく考えたら単純な事だったのがわかったけどね。まあ、結果が出たらちゃんと説明するよ!」


高須はあいまいに返事を返す、正蔵君は何か感づいていたのだと思う、高須から何かしらのヒントを得ようとしていたのだろう。

すると、高須は正蔵君に話を振り出した。


「ちなみに、二兎君は昨日自分で所有権を得たのに何でまた修介に鉛筆渡しちゃうのさ、もったいないじゃん、理由は聞いてたけど俺は理解できないよ、もっと利用すべきだよ!」


「確かにそうだよねどうせだったら自分に有利な命令を他の皆に振るとかね。正蔵君は鉛筆に欲がなさすぎなんだと思うよ!だったら僕に所有権頂戴よ!僕がいいようにつかってやるからさ!」


拓氏先輩がそう切り返してきた。


「僕、昨日から登録した時以外まだ一度も鉛筆触ってないし!命令書かせてよ」


ここぞとばかりにアピールしてくる。

最初は乗り気ではなかったのに、ここにきて面白くなってきたのだろう、まだ命令を書いてないという状況が鉛筆に対しての欲望に代わっていた。


「確かに、拓氏先輩はまだ命令書いてないんですね。そりゃあそうなりますよね!みんなで遊ぼうって言ったのに参加してるような感じしないですもんね。」


二兎君はそう言うと高須が持っていた鉛筆をさっと取って拓氏先輩に持たせてあげた。


「僕は所有権いらないし、修介先輩も実際は所有権はいらなくてもいいみたいだし、だったら拓氏先輩に所有権譲ってもいいんじゃないかなって思うけど、どうしよっか?七人目の人が来てくれたら変えれるんでけどね。」


正蔵君がそういうと、高須がその話に突っかかってきた。


「え!正蔵君、今なんていったの?」


「拓氏先輩に、所有権を譲るって!」


その会話を終えて高須はさっき書いたメモを取り出す。

(二兎 正蔵 自分の所有権はいらないので国原 拓氏に所有権を譲ると発言する。)

「それは無理だろ!お前、この鉛筆のルールわかって言ってんのか?」

その文章を見て皆が一斉にそう突っ込んできた。

実際のルールではこうだ


7.所有者は登録された時点で所有権を解除することは出来ない、所有権を捨てる場合は七人目の登録者が現れ所有権を誰かに譲る取引をしない限りは不可能、ただし例外もある。


高須がこのルールを理解しているなら、そんな無理な命令を書かないはずである。

しかし、高須はこれをいとも簡単に納得する言い回しで言いくるめ、皆の固定概念を覆したのである。


「確かに、説明書にはそう書いてあるけど、なんで俺がそんな命令を書いたのか説明しますよ」


そう言いながらメモ帳に書き取ったそのルールに赤鉛筆でなぞりながら説明をし始めた。


「そもそも、説明書の文章“例外”ってのが引っかかってた。これは昨日正蔵君も言ってたから皆引っかかってたと思う、次に“所有者は登録された時点で所有権を解除することは出来ない”っていう最初の文章、この文章では所有権を解除する事しか言ってないんだよ、だから交換したり譲ることに関しては触れてないんだ!

これを踏まえるともうすでに俺が書いた命令は繁栄されると思いがちになる。

そうすると、所有者の意志で自由に所有権が交代されることになっちゃう、だけど違うんだ!文章をよく見て考えてみると所有者は登録された時点で解除に等しい行為を自分の意志ではできないことになってるんだよ、だから“自分の意志”で交換することは不可能なわけ、じゃあなんで命令されたものならいいんだよってなると思うけど、考えてみると“命令”はこちらからの介入された意識であって、本人の意思ではないんだよ、つまりこっちからそういう命令を書きこめば簡単に所有権を交換することが出来るわけ!

これが、説明書で書かれてた文章の最後にあった“例外”につながるんだよきっと!」


高須の熱い説明が終わり、メンバーはそれを聞いて唖然としていた。


「なるほどね。僕も昨日はそういうの考えてみたけど、そこまで考えつかなかったわ!すごいですね高須先輩」正蔵君が高須のその理論を絶賛する。


すると、高須はしてやったりといった表情で俺たちをぐるっと見てきた。


「面白い事発想したみたいだけど、これってちゃんと鉛筆のルールに反映されるわけ?もともと無いルールなわけじゃん?説明書には“例外”って書いてあるけど、本当に高須が考えたそれが反映されのかね?今の所有権は拓氏先輩になってるのかな?」


一平さんが疑問を投げかける。だが、それに正蔵君が答える。


「つまり“例外”って言うのはその説明以外の事を指していて、所有者交代の意味で書かれた命令なら“例外”として通じるわけですよ。だから、説明の文章に何かしら触れていない文章なら、ルール的には反映されてしまうわけです。」


「なるほど、じゃあ俺は今ちゃんと所有者になっているわけなのか!」


正蔵君と、一平さんの会話を受けて拓氏先輩はやっと自分の立場を理解した。


「そういう事なんだから拓氏先輩、何か命令書いてみたら!せっかく所有者になったわけだし」そう言って高須は拓氏先輩に鉛筆を渡した。


「いいね。なんか今まで影薄かったから、やっと主役になった気分だわ」


拓氏先輩のテンションが上がってきたようだ、今までちょっとだけ張りつめていた空気は消え去り、一気に周りの空気は和やかになってきた。


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