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月曜 チュートリアル

いつもと同じ登校風景をいつもと同じように音楽を聴きながら歩く、空は快晴、足取りは軽い・・・そんな妄想をしながら歩く俺は小説家志望の大学生である。

名前は香山 修介、埼玉にある広応大学という所に通っている。

道はいつもと変わらなかった。しかし、奇妙な人が路肩に立っていた。


「こっち見てるし」


そう思いながら避けるように歩いていた。だが、その人は俺に近寄ってきた。よく見ると浮浪者のような風貌である。

「うわ」と声をあげて走って逃げようとしたのだが食い下がるように追ってきた。


「待ってくれ!!」


その人の声は真っ直ぐ俺の耳に進み、なんの雑音もなくクリアに入ってきた。

逃げたかったがその声で不思議とピタリと足が止まってしまい、

後ろを振り返ると浮浪者らしき人物がテクテクと近づいてきた。


「突然悪いな、お前にやりたいものがあるんだ、この鉛筆を受け取れ!」


何の説明も無しに唐突にそう言いながら浮浪者は手に持った鉛筆を俺に突き付けてきた。

僕は怖かった「そんなもんいるかい!」そう心に思いながらも、いかにもな苦い顔をして「いやっいいですから!!」そう言ってさっさと学校に行こうとしたが、その人はしつこく食い下がってきた。


「お前なりに考えて使ってみろ!煮るなり焼くなりどう使ってもいいから、はいっこれ説明書ね!じゃよろしく!!」


その人は鉛筆をぐいぐい手に押し込め半ば強引に僕に受け取らせた。


「いらないですから!」


そう言おうと思っていたのだが、その人は俺に鉛筆を押しつけると、脱兎の如く猛スピードで走り去っていき、もうすでに俺の前からいなくなっていた。


「鉛筆ってなんだよ!っていうか説明書?なに?どういうこと?」


突然の出来事、無理矢理渡された得体の知れない鉛筆と説明書、それを見つめ「気持ち悪いな!!」そう思いながらもらそこらへんにありがちな大学ノートの切れ端に書かれた説明書を読み上げてみた。


「えーと、なになに・・・

1.この鉛筆を一番最初に触れたものが所有者として取り扱うこととなる。


2.この鉛筆の残り五面に登録した者の名前を紙に書き、行動内容を書くことにより人を思いのままに動かすことができる。

ただし、人間が実現できうる範囲内でしか動かすことはできない


3.命令は所有者以外、登録者でも行うことができる。


4.所有者は登録者からの命令に対し5回まで拒否できる。


5.所有者に動かされた者はその行動を拒否することは出来ない


6.命令は一人一日三回までが限度になっている。


7.所有者は登録された時点で所有権を解除することは出来ない、所有権を捨てる場合は七人目の登録者が現れ

所有権を誰かに譲る取引をしない限りは不可能、ただし例外もある。


8.所有者以外の者はその鉛筆に触れた時点で登録者になることができるが、登録権を破棄することは自分の意志ではできない

登録権を取り消すことができるのは所有者のみ、また七人目の取引が行われた際に自己申告すれば抜けることができる。

ただし、その時点で命令が残っている場合、一日分の命令は実行される。


・・・なんのこっちゃ?」


どうやらこの鉛筆を使うと登録した人物であれば自由に操れるらしい説明書を読み終え、もう一度鉛筆をながめる。


「・・・操れる?そんなバカな!!まあ、いいや鉛筆ならあれば役立つし、もらうだけもらっとこ!一本分儲けだな」


正直、気味悪かったが気にしてもしょうがないと考え改めた僕はその鉛筆を鞄にしまい学校へと登校した。

講義中はあまり鉛筆に関心はなく、自前のシャープペンでノートをとる。

もらった鉛筆はカバンの中に無造作に放り投げていたため、その存在を完全に忘れていた。


そんな講義時間が終わり、昼休みになった。

食堂に行き、いつもの場所に俺は座る。そして、俺の隣にはサークルの仲間の一人がいつものように座ってきた。

いつものようにくだらない話をしながらカバンの中から母親の作った弁当を取り出す。

鉛筆がカバンの中に転がっていた。


正直、くだらないと思っていた。あんな説明書と一緒に渡されたって、信憑性なんて全然ないし、まして渡してきたのは小汚い浮浪者ともわからない怪しい人物。

それをふまえて俺にこの鉛筆の能力を信じろと?

馬鹿げてる。


そんなもんただのイタズラに決まっている。

そう思っていた。だから忘れかけてた。

だが、不意に現れた鉛筆になぜか意識を持っていかれた俺はその鉛筆を取り、隣にいた友人に「ちょっとつまんでみて」と声をかけて鉛筆に触れてもらった。

友人は不思議がっていた。


「どういうことよ?」


まあ、そんな反応になるのは当たり前だと思う。

そして俺は、友人と話をし、弁当を食べながら傍らで紙に友人に対しての命令を書いてみた。


(高須 佳悟 くしゃみをしてしまう)

高須佳悟は彼の名前である。弁当を食べている時にくしゃみ、本当にやってしまったらまあ大惨事であろう、そう思いつつ本当にこんな生理現象を操れるのか?

そう思っていた。


「ヘブシッ」


高須と修介は一瞬凍りつく、高須はやっちまったとも言えるなんとも切ない顔をしていた。

修介は、「えっ!まじで」という気持ちで固まってしまったのだ。


「これ本物?」修介は、一瞬本当に鉛筆の仕業か?と思ったが「いやいや、偶然でしょ」と自分に言い聞かせた。


「おいおい、大丈夫かよ高須!」


慰めの言葉をかける。


「うるせえよコノヤロー、弁当ぐちゃぐちゃだわ、見んな!こっち見んな!!」


高須はそう言いながら弁当をそそくさと片付ける。テーブルの上に飛散した米粒やらおかずのカケラをティッシュでかき集めていた。

そんな状況だが俺は高須に問いただした。


「なあ、高須これ信じるか?」


そう言いながら説明書と鉛筆、さっきのメモを見せた。

ちょっと嫌な顔をしながらも一式を受け取った高須は「これって、さっきの鉛筆か?」そう言うと、メモを見てから説明書を熟読した。


「・・・うっそだー、そんなわけねーじゃん」


当然の反応だと思う、だからこそ俺もこう返した。


「俺もそう思うんだ、偶然だし、そんなわけないって」


「とにかくよ」そう言いながら高須はさっきのメモの下にこう書いた。


(香山 修介 誰かに殴られる。)

俺はちょっと「ムカッ」とした。


「それはなんだ、偶然であれ俺に対する仕返しのつもりで書いたのか?」


そう言われながらも高須は「へへへ、まさかぁー」と言いつつ2,3分の時間が過ぎる。


しばらくの沈黙が続き高須は「なんで?・・・結局は偶然なのか?」


そう言っていたが、修介はそのメモに関して気付いたことがあった。


「高須さあこれ、一見俺に対しての命令に見えるけどさ、他人に対しての命令になってんだよ、鉛筆の説明だと登録されている者の行動を操るんだぞ、殴られるじゃ意味が違ってくるだろうよ!!」


「・・・そうか確かに、まあでもさあ、どっちみちこんなもん本当に操れるわけじゃないんだから別にいいじゃん、ははは!!」


そんな、一連のなかで高須はまたもやメモの下に命令を書いていた。


(香山 修介 高須 佳悟にコーラをおごる)


「でさ、ちなみにさっきは偶然であれ俺が悪い事したようなもんだから高須!好きなジュースおごってやるけど、何がいい?」


「!!」高須は一瞬行動が止まった。


「えっ!今、なんて?」


「だからさ、ジュースおごるけど何がいいんだって!!」


「コッコーラでいいよ・・・」


高須は思う(偶然?・・・いやいや、本物じゃないの?)ならば、と高須はもう一つ命令を書いてみた。

(香山 修介 コーラを振って高須 佳悟に渡そうとするが、誤って自分でふたを開けてしまい破裂させてしまう)


「はいよ、コーラな」修介から普通にコーラを渡された。


(やっぱり違うのかな?)そう思った高須の目の前で修介が悲鳴を上げた。


「ぐわあ、やっちまった、渡すコーラ間違えた。」


修介は、悲鳴の勢いで自分の持っていたコーラを高須に渡すことをつい発言してしまった。


状況を一瞬で把握した高須は「どういうことだよ、俺にそのコーラを渡す予定だったって!」そう切り返して修介の心理を探った。


「ごめん、実は弁当飛散プラスでコーラがブシャーとか面白いかなとか思ってさあ、仕掛けようとしてたんだよね・・・」


高須は無言でメモを渡す。


「お前の心境がどうであれ、この鉛筆は本物っぽいぞ」


続けてそう返した。

修介はメモを見ながら固まる。


「・・・」無言になる。


鉛筆を渡された一連から今までの時間を思い出す。

信憑性がなさすぎる出来事だが今、目の前で起きたこの真実はこの鉛筆の能力を信じざる負えないものである。

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