ただ、剣聖が強かったって話
「えっ! ちょっ! 聞いてたより強――」
これが最期の言葉になるとは……もっとこう、かっこいいセリフが言いたかった。『オレは永遠に死ぬことはない、また、戦おう……』とか。
目が覚めると、真っ白な空間にいた。死後の世界か?
「あ! 魔王さま、こちらですよ!」
え!? なんで魔王幹部がそろっているんだ?
真っ白な空間でこたつに四人が入ってる姿がとてもシュールなんだけど。
「急に勇者パーティーが攻めて来るとか予想外でしたね」
リッチが、大して気にしていない様子で言う。
「ここってどこなんだ」
「おそらく死後の世界では? 望んだものがこの空間に現れるんですよ」
なるほど、それでこたつとみかんが……ってお前ら、こたつとみかんしか望んでないの?
「あのよぉ、さっきから言ってるしごって何だ? 食い物ならみかんでお腹いっぱいだからいらないぜ」
リザードマンキングは、死のショックで混乱しているらしい。
「馬鹿のことは放っておいて、魔王もこたつに入れよ」
バンパイヤロードにそう勧められる。あ、どもっス……じゃねぇよ。タメ口やめろ。
「なんで、オレ達だけなんだ? 他の仲間は……」
「何言ってるんですか? 戦争を仕掛ける計画段階で配下といえばスライムくらいでしたよ」
計画段階で制圧されるってしょぼかったな。
「魔王さまも揃ったところで反省会をしませんか?」
死んでるから意味ないだろ。
「おいおい、俺様に反省することなんてないぜ?」
お前、見張り台で居眠りしてたけど?
「ぎゃっはっはっは! はんせいって何だよ! はんぺんだぞ!」
リザードマンキングはまだ混乱しているようだ。
「いいじゃない、どうせすることがないんだから」
最後の幹部、悪魔がそう言うと、
「「反省会(はんぺん会)しましょう!」」
待て待て、幹部のパワーバランスがおかしい。
「死んでるんだから、反省会する意味ないだろ」
「うるせぇ、今決まったんだ! 悪魔ちゃんがするって言ったんだ!」
だから、タメ口やめろ。
「悪魔ちゃんがするって言うなら頑張ってはんぺん食うぜ!」
君、生前からこんなに馬鹿だったっけ?
「可愛いは正義ってことですね……」
リッチは怒っていい。
「まずは、門の防衛を任されていた、バンパイヤロードさんと悪魔さんからお願いします」
「俺様が勇者パーティーを陽動して悪魔ちゃんが『死のキス』で殺す作戦だったんだが……」
「だって私、初キスは好きな人って決めているので」
「「それなら、仕方ないかぁー」」
確かにその即死スキルはキスをして発動するが、『じゃあ、仕方ない』とはならないだろ。
「通路の防衛を任されていたのは僕とリザードマンキングさんですね。」
「おう! 最初、剣聖に斧を振るったけど、あいつピンピンしてた。で、気付いたらここにいた」
子供みたいな報告だが要するに……
「リザードマンキングさんの攻撃を防御もせず無傷ですか!?」
バケモノか。
「僕は最上級魔法を放ったのですが、賢者が剣聖を盾に使い、カウンターの魔法を食らってしまいました……」
外道か。
「剣聖は倒せたのか?」
「いえ、ピンピンしてました」
バケモノを軽く超えた。
「魔王さまはどうでしたか?」
「さすがのオレでも三人の相手は難しくてな。相打ちだったよ」
「さすがですね! 魔王さま!」
オレには言えない、こんなに目を輝かせるリッチに『勇者一人に瞬殺された』なんて言えない。
「そういや、お前たち、履歴書を詐称してただろ」
お金に余裕がなかったから、四人とも採用したけど明らかに実際と違い過ぎる。
「そ、そそそんなわけないだろ、俺様が嘘をつくとでも!?」
声が上ずってる。
「おう?」
リザードマンキングに関しては何を言ってるのか理解できてない。
「私は、別に嘘なんて書いてないけど」
白々しいし、目が泳いでる。
「すみません! 履歴書に嘘を書いて、魔王さまの好感度を上げれば、いずれ高い地位につけるかと!」
素直に言って良いことと、悪いことがあるぞ。
「死んでるからどうにかしてやるとかではないが、確認だ。まずバンパイヤロードの自己紹介にあった、眷属の数だ」
「嘘なんて書いてないぞ!」
「魔獣、約百体。人間、約五百人。と書いている。……お前に眷属なんかいないだろ」
「血なんてまずくて飲みたくないんだよ」
開き直るな。
「次に、リザードマンキングだ。学歴に魔族の名門校の名前が書かれているが、絶対に嘘だろ」
「おう! ママがこう書けって」
リザードマンキングのお母さん……
「悪魔とリッチは何を詐称したのか、わからないのだが」
この二人が詐称してるとは思わなかった。
「ごめんなさい、自己紹介にスリーサイズを書いたけどちょっとだけ見栄を張ったの」
それは割とどうでもいい。
「僕は学歴、特技、資格、志望動機、職歴、生年月日を詐称しました」
ほとんどじゃねぇか! 生年月日は何で詐称したんだよ。
「うふふっ、私たちって似てるのね!」
「ですね!」
「俺たち魔王軍幹部は最強だぁー!」
図に乗るな。
「そもそも何で、人間の国への侵略を計画したんでしたっけ?」
お前たちはどんな気持ちで勇者パーティーと戦ったんだよ。
「俺様の美しさを全人類に見せつけるためだろ」
全人類に見せつけて、お前はどうしたいんだよ。
「何言ってるのよ?」
おお、悪魔は計画した理由を憶えていてくれたのか。
「私の美しさを全人類に見せつけるためよ」
お前たち二人は全人類をどうしたいんだよ。
「食糧問題を武力で解決しようとしたんだ」
「そんな理由があったとは……人間をはく製にするためではなかったんですね」
リッチにオレはどう見えてるんだ?
「食糧問題ならあなたの弟がジャガイモを発見して解決したじゃない」
オレの苦労は何だったのだろう。
「そ、そういえば、金庫はあまり使いませんでしたね」
リッチが、悲しむオレに気を利かせて話を変えてくれた。
オレの好感度を上げるためにしていることだと思うと、今後どんな顔をすればいいのだろうか。
「お金がないどころか、借金までしてたしなぁー。俺様トラップ作るの頑張ったのに」
あんな、あからさまな落とし穴のトラップに引っかかるやついるか?
「落ちた先に色んなのを設置したぜ。溶岩とか毒とか」
それに引っかかれば、さすがの剣聖でも……案外、生きてそうだな。
「僕は、高そうな剣を引っこ抜くと発動するトラップを作りました!」
「ずいぶん大掛かりなトラップを作ったな。ん? まさか、それを作る費用で借金してたんじゃ?」
「だいぶ話がそれましたが、まとめると、ただ、剣聖が強かったってことですね」
否定しろよ!
「強かったっていうか、頑丈だったなぁ」
頑丈のレベルじゃなかったけどな。
「おれっち、お腹すいた」
みかんでお腹いっぱいだったじゃねぇか。
「これからどうしましょうか?」
「しばらくはのんびりしてようぜ!」
「そうね」
和やかな雰囲気になっているが、借金のことを後でリッチに問い詰めようと思う。
勇者パーティー視点の『剣聖だけ何故そんなに大怪我なんじゃ?』も書いてます!