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2-5


「ゴブリンの群れ発見! その数1000を超えるわね」


天使アイリーンは偵察ウサギと視覚を共有できるらしい。


「ゴブリンロードが少なくとも100は居るわね、これはゴブリンキングが居るかも……居た、キングだ」


天使アイリーンが襟をただして話し始める。


「我はネフロレピス様の使いの者なり、ゴブリンの王よ何故上位種ばかりで森をさまよっている? ……やはりハイミル教によって迫害されたか、大多数を占めるはずの下級ゴブリンを一掃したのは聖女か? ……その怒り、ネフロレピス様への信仰に変え共にハイミル教と戦おうではないか、神殿にて待つ、道案内はウサギの後をついてくればよい」


天使アイリーンはこっちを見て言った。


「というわけでゴブリンキングが来ます、是非とも部下にしましょう」


「部下になってくれるのかな」


しばらくしてゴブリンの群れが現れた。

その中に1体、他のゴブリンとは明らかに違う個体が居た。


一般ゴブリンは腰に布を巻いているだけだがそのゴブリンはピチピチのビキニパンツをはいっている。

体つきは大きく、2メートルを超えるだろう。ボディビルダーのような筋肉だ。

頭には大きな王冠をかぶり、赤いマントをつけている。


ビキニパンツ、王冠、赤いマント以外は何も着ておらず圧倒的な筋肉をアピールしている。


その後ろにも何体かのゴブリンがついてきている。2体くらいはメスゴブリンなのかな? という体つきをしている。だが完全にゴブリンであり色気がない。

ゴブリンからしたら美人なのかもしれないが。


ある程度近くまでくるとゴブリンキングは片膝をついて頭を下げた。


「私はゴブリンの王、全てのゴブリンの頂点に立ち全てのゴブリンへの絶対命令権を有する唯一無二の存在。こうして向かい合ってみればわかる、貴方は圧倒的な力を持つ。どうか匿っては貰えないでしょうか」


ゴブリンの王は額を地面に擦り付けるような勢いで頭を下げてきた。

これでは帰れとは言えない。

言ってもいいんだろうが言えない。

ゴブリンの王からは誠意のようなものを感じるからだ。


「ああ、わかった。匿おう。それにしてもどうしてこんなところで彷徨っていたんだい?」


ゴブリンの王はおもむろに語りだした。


「我々は危険な種族である人間との関わりを一切避け、渓谷の奥の奥に隠れ里を作りそこをゴブリンの王国として2万のゴブリンと共に静かに暮らしていました、畑を作り、豚や牛を育て、池で食用の魚を育て、飢饉に備えて保存食も作っておりました。しかしある日人間の軍隊、その数5000程でありましょうか、が襲ってきました。我々には鉄製の武具がありましたが数は無く、殆どのゴブリンは農業用具や投石で迎撃しました。地の利を活かして籠城戦を続けましたがハイミル教の聖女の出現により一気に押されゴブリンの王国を捨ててこの森へと逃げてまいりました」


「それは大変だったね」


「はい、私にはわからないことがいくつかあります。何故人間たちは我々を襲ったのでしょうか。ゴブリンの王国があったのは渓谷の奥の奥です。人間との関わり合いの無い場所ですし、人間に危害を加えることもありませんでした」


「奪わされたゴブリンの王国は今どうなってるの?」


「逃亡しながら斥候を走らせたところ、リグリア帝国の旗が立っておりました。我々が作っていた野菜は肥料にされ人間が好んで食べる野菜に植え替えられ、家屋は解体と改修をすすめて人が住むのに適した形になり、牛や豚や池の魚はそのままでした。住んでいるのは一般市民という感じの者達ではなく軍人と思われる者達で、砦のようなものを築いておりました。」


「それだけ聞くと襲われた理由は……」


ゴブリンの王はこっちをじっと見ている、熱苦しいのでやめてもらいたいがまあいいか。


「領地が欲しかったんじゃない、それほど被害を出さずに獲得できそうだと判断されたんだと思う。そのうえ相手が交流が一切無いゴブリンだったというのも大きいと思う」


「我々が弱かったのが悪いのでしょうか?」


「それもあるんだろうけど、弱いなら弱いなりに根回しというか親善大使を送るとかそういうのが必要だったかもしれない。ただ渓谷の奥の奥にすぐに生活基盤になりそうな場所があってそこを元に開拓して農地や牧場などの生産拠点を増やしていけるというのはリグリア帝国にとって魅力的な存在だったのかもしれない」


「私利私欲の為に我が王国は滅ぼされた、か……」


ゴブリンの王が遠い目をしている。


「大丈夫?」


「いえ、我々も私利私欲の為に木を切り倒し、魚を絞め殺し食べています。倫理を振りかざして人間を攻撃するつもりはありませんがいずれ力をつけゴブリンの王国を取り戻さなくてはならないと考えております」


こうして話しているとなんとなくわかるがこのゴブリンの王はなかなか頭が良いように感じる。


「これまでどうやって暮らしていたの?」


「はい、川を見つけましたので布と砂で作った浄水器で美味しく飲めるようにして、飲水を確保。あとは魚釣りやジャイアントトードなどの食用に適したモンスターを狩って暮らしていました。定住するところが見つかれば井戸を掘ったり畑を作ったりできるのですが」


俺はそっと天使アンリーンに小声で聞いた。


「俺の配下になるならこの近くに住んでもいいよね?」


「ええ、問題ないわ。ただネフロレピス教の信者になるかどうかだけ確認して」


俺はゴブリンの王の方を向き直った。


「ゴブリンの王よ、ネフロレピスを神として崇める新興宗教ネフロレピス教の信者になるつまりはあるかい? 一応ここはその神殿なんだけど」


「正直に申しますとゴブリンは神に祈りません、よって人間からは祈らざるものと呼ばれることもあります。そんな我々が信仰を持つとしたら使えるものならば赤でも黒でも使おうという打算によるものでしかありません。それでも良いというのであれば信者になりましょう」


俺は天使アイリーンに聞いた。


「打算でも大丈夫」


「問題ないわ、打算で信仰している人を除外したら人間なんか殆ど無神論者になっちゃうわよ、信仰してれば死後神様が優遇してくれるかもしれないとかそういうのも打算扱いね、死んでから優遇されなきゃ信仰しないってことだし、辛い現実から目をそむけたいというのも打算、宗教で精神的安定が欲しいというのも打算」


「ということだ、問題ないな」


こうしてゴブリン達が仲間になった。


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