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シェル第2婦人とカタリーナ姫が謁見の間に現れた、ゴブリンの王と2人を見つけてきた天使アイリーンの両名が両脇に居る。
シェル第2婦人はいかにも王族でもとでも言わんばかりのお姉さんという外見だった、何歳なのかは不明だが血色もよく若々しく色気もある。
何か特別な方法で25歳で老化を止めてますと言われても不思議ではない。
逃亡生活中はボロボロの服を着ていたらしいが謁見の間に来るということで鞄に詰め込んでいた王族っぽいドレスに着替えたとのことだった。
しっかりメイクしているがそれでも顔色が悪い、連日の逃亡生活で、というよりこの場に居てビビっているという感じがする。
社会の裏商会の風見鶏と比べてもビビってる。
よく考えれば風見鶏は商談をまとめてくるという自信があって自分からここにきたわけで、それであれだけビビってたのだから天使アイリーンが見つけてきただけのシェル第2婦人がビビらないわけがない。
カタリーナ姫の方もいかにも姫様ですという格好に着替えている。
天使アイリーン情報によると娘のほうは病弱で身体も心も弱く、長距離歩いたり精神的にショックを受けたりすればすぐに高熱を出して寝込んでしまうとのこと。
100メートルを全力で走ると息切れして倒れてしまうという。
シェル第2婦人のようにビビってるというレベルではなくなんかもう死にそうな顔している。
年齢のほうは18歳くらいだろうか、シェル第2婦人が何歳なのかいよいよわからなくなる。
その場を静寂が支配している。
誰も話し出さない。
ここは俺が何か言うべきだろうか?
いかにここが俺の神殿とはいえ、相手は王族なんだし椅子でも用意したほうがいいだろうか。
そんな中、ゴブリンの王が言った。
「人間よ、注意して発言せよ。ここにおられるヒロト様の機嫌をほんの少しでも損ねれば命はない、私でもそれは止められぬ」
「ええ、そうね。ヒロトが殺すというのなら私も守れないかな、連れてきた私が言うのもなんだけど」
ゴブリンの王と天使アイリーンが俺に視線を移しながら言った。
ひょっとしてこの2人は俺が何も言わないから殺すつもりなんじゃないかと思ったのか?
王族と聞いて困惑しているだけなんだって。
「……では改めて名前を聞こうか」
「シェルと申します、かつて王様の第2婦人でした、今日はこうして謁見していただき……」
結構長い口上が続くがそんなに意味のないことを言っている。
「さあ、カタリーナ、やりなさい」
その言葉で一瞬固まったカタリーナが話し始めた。
「私は……カタリーナです、後はええっと、人間です」
自己紹介で自分のことを人間ですっていう人のことをはじめてみたかもしれない。
そこで一瞬、カタリーナ姫の左目が輝いた。
これは……魅了の魔眼か。
俺には効かない上に天使アイリーンがなに余計なことをしてんだ殺されるぞフォローできなくなったらどうすんだとでも言いたげな顔をしている。
ふーむこれが魅了の魔眼か、俺も使ってみるか。
俺は全く同じ効果の魔法をこっそりカタリーナ姫に発動する。
しっかり手応えがあったが外見上ガタリーナ姫に変化はない。
どんな風に効果があるんだ、これ?
とりあえず2人共衰弱している。
俺が回復魔法を使ってもいいが凄く魔法が使えそうなやつがこの前、仲間になったばかりだから彼に任せてみよう。
「大暗黒神官ビクトリアを呼んでくるのだ」
「わかったわ」
天使アイリーンが答えると控えているゴブリンが走って何処かに行く。
大暗黒神官ビクトリアはすぐにやってきた。
「ここまでだよ、ここからは謁見の間なんだから」
「はーい」
暗黒神官デイジーの声もする、離れようとしたところで暗黒神官デイジーがシェル第2婦人を見つける。
「あっれー!!! パキラ! パキラじゃん! デイジーだよ! 覚えている!?」
「えっ」
シェル第二夫人が暗黒神官デイジーを見る。
慌てて視線をそらす。
「暗黒神官デイジー、知ってる?」
「もちろん知ってるよ……ね?」
「ええ、まあ」
シェル第二夫人はなんと言っていいのかわからないような顔をしている。
「暗黒神官デイジーはどこでシェル第二夫人と? パキラというのは?」
暗黒神官デイジーで自信満々に言った。
「プリムローズの一番人気だったんですよ! もうすっごい人気でお店にきていた王様の第二夫人にまで上りつめちゃったんですから」
「ほう、あの大きな店で一番人気とはそれは凄いな」
シェル第二夫人が驚いたように言った。
「ヒロト様、プリムローズを知っているのですか?」
「ああ、先日行ってきた、この格好では目立つので着替えてな」
俺はそう言うと兜を取る。
俺の顔を見たカタリーナ姫が小さくあっ、と声を出して顔を赤くする。
「そうですか、王様や貴族だけではなく闇の新興宗教団体の教祖様も、男の人はあのお店にくるんですね」
「ああ、いいお店だからね」
「ええ、そうですよね! そうですよね!」
何故かシェル第二夫人が嬉しそうに言った。
「この教団の話を王国で聞いていたからどんな危険なところなのかと思っていましたが、安心しました」
「ああ、そうだな。王様だろうが教祖様だろうが所詮は男、そういう面では女性には勝てない……大暗黒神官ビクトリアよ、2人に疲労回復の魔法をかけやってくれ」
「はい、本当の回復魔法は使えませんので生命力吸収の魔法を応用して、私の生命力を贈ろうと思います、それでよろしいでしょうか?」
「もちろん、大暗黒神官ビクトリア自身の生命力は大丈夫か、渡してしまって」
「問題ありません、私の生命力は極めて高いので」
シェル第二夫人とカタリーナ姫の2人が闇に包まれる、急速に生命力が回復していく。
本来ならこの速度で他人の生命力を吸収する、と考えるとなかなか恐ろしい魔法である。
人間以外にも使えるらしいので近所の沼でとれる有毒魚を生け捕りにして生命力タンクとして水槽に入れてる。
有毒で食べられないくせにやたらと生命力があって繁殖しまくる厄介な魚だがこの方法なら食す? ことができる。
闇が収まる、外見上の変化は殆どないがなんとなく力強くなったような感じがする。




