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弱すぎる、話にならない。
それが天使アイリーンの感想だった。
夜があけると魔王系モンスターが山程倒されていた。
今回出てきた全ての魔王系モンスターは戦闘不能になると消滅してしまって捕獲ができない。
1体たりとも逃さず完全に殲滅したのはちょっとまずかったかもしれないが死に物狂いで襲いかかってきて捕獲できないとなるとこうなっちゃうのはしょうがないよね?
「さーて、手がかりがまた無くなってしまった」
町の不穏な魔王系モンスターは殲滅したと思うのでもう大丈夫だろう、何が大丈夫なのかは謎だが。
でもまあこうして町をウロウロしてたらモンスターが来たことだし、また手がかりのタネは向こうからきてくれるはず。
そう思い、また町中をウロウロし始めるのだった。
そして3日が経過した。
何も起きなかった。
今日も収穫無しかと思いながら、夕日を背に木製の高台に登って時事ネタを読み上げる人の近くに置いてある椅子に座って近くで近くで「安全に飲める水」を買ってのんびりしていた。
ここでいうところの「安全に飲める水」というのは度数の低い酒のことである。
菌が繁殖しているところにアルコールをかけて消毒するとなると高い度数が必要になるが元々が綺麗な酒だとその中で菌が繁殖していくのは抑えられる。
よって安全に飲める水というのは度数の低い酒のことをいうのである。
天使アイリーンは瓶に入った酒を文字通り水のように飲んでいる。
手元には一緒に売っているイノシシ肉を塩漬けにした硬い食べ物がある、カリカリしてなおかつ塩辛い。
酒にあう。
時事ネタを読み上げる人の前に置かれた椅子には普段、何をやっているんだか不明な人がいっぱいいる。
暇なのだろう。
文字が読めないかもしくは読めるけど3行以上の文字を読むのはダルいか、時事ネタについて話す時にはそういう人が集まる。
勿論、こんなところで出てくるニュースなんかどうせ大したネタじゃないだろうと思いつつ酒とイノシシ肉目当てできている天使アイリーンのような者も居る。
「それにしてもあれだねえ、イノシシやブタってのはなんでこんな美味しく生まれてきたんかねえ」
などと言いながら天使アイリーンは酒も飲む、水の代わりに飲まれているというだけあって本当に水と変わらない。
ひょっとしたらアルコール度数0.01%くらいになるまで井戸水で水増しされているんじゃないかと思う。
あらかた食べ終わってから人が高台に登る、今日はいつもの人じゃない。なんか立派な制服をきている。
あれは確か王国軍の下っ端が着る礼服だったっけ? と天使アイリーンが思ったところで制服を着た人が高台に登っていった。
ひとしきりの挨拶をしてから本題と思われる事柄を切り出した。
「我が王国は亜人とモンスターが大量に住み着いている危険地帯とされる土地に進軍し、昨今、町を騒がせている危険な闇の教団の討伐を行うということが決定した。ハイミル教の神聖騎士団の全面協力と人類を守護する決戦存在である『聖女』が参加することが決まっている。人類は今日まで様々なモンスターと戦ってきた。王国軍は志願兵を求めている、志願兵には一生、毎年年始めに1年暮らせるだけのお金が支給される、一生遊んで暮らせるだろう、志願したいものは……」
話はまだまだ続いていく。
何処かで今回はやたらと待遇良いじゃねえのとか、どうせ一番死にやすいところに配置するんだろとか、何が一生遊んで暮らせるだよどうせ生きて帰ってこれねえんだろとか、前に傭兵100人が行って1人も帰ってきて無いじゃないかとか、そんな声が上がっている。
その中で人生一発逆転を目論んでいそうな、いかにも貧乏そうな人が周囲の様子を伺っていた。
志願兵は一生遊んで暮らせるか……ヒロトが趣味で作ってるお笑い軍隊みたいな集団って志願すると何か貰えるんだっけ? と思ったが確か何も無い、食事にはありつけるらしいが無料で住める居住区でも食事は出るし、集めたお笑い軍隊で志願兵を出してくれた村を守るとか言っているが100人も集まってない寄せ集め集団があの広大な土地に点々とある村を守るとか不可能だと思う。
集まっているやつはなんで集まっているんだろうか?
謎だ、全世界の全ての謎が解き明かされてもこの謎は解き明かされないだろう。
天使アイリーンは水みたいな酒を更に一口飲んだ。
それにしても神聖騎士団や聖女は人間にしてはやたらと強いらしいが、なんで強いんだろうか?
1級神ハイミルから力を貰っているとは聞くが本当に1級神から直接力を貰っているにしては弱すぎる。
神でもなんでもない自分ですら普通に勝てそうというのはどういうことなんだろうか、魔王系モンスターからして雑魚しか居ないことを考えると十分な戦力なのかもしれない。
過剰な戦力を与えるとよからぬことに使われるかもしれないとかだろうか。
それでもヒロトのお笑い軍隊や王国兵士と比べると神聖騎士団や聖女は強い、かなり強い。
聖女アプリコットが使ってたテレポートも便利だし、ちなみにこのテレポートは帰るのはそこまで難しくないが馴染みのない場所に行くのはかなり難しい。
自分ですらここまで制御できないんなら聖女アプリコットでも長距離で馴染みのない場所に行くのは不可能だと思う。
全く馴染みのないどころか見たことも聞いたこともないようなところに長距離テレポートで移動してみせたヒロトは別格だ、同じことができると思われたら困る。
そもそもヒロトは聖女アプリコットから儀式でテレポート能力を共有する前からテレポート使えたみたいだし。
ちなみに今使っているテレポートは聖女アプリコットとヒロトが儀式で共有したものをヒロトと天使アイリーンが儀式で共有して貰ったものである。
元々ヒロトが使ってるテレポートも儀式で共有して持っているけど制御が難しくてとても使えたものではない。
前に聖女の部屋にいった時は目の前でテレポートを使ってくれたので猿真似すれば良かったけど、いまから同じことをやるのは多分無理だ。
できないことはないけど成功率は低い、今飲んでるこの酒のアルコール度数くらい低い。
それにしてもなぜ神聖騎士団と聖女は強い?
ハイミルから力を貰っているというがどうやって貰ってる?
うちの儀式みたいな何かが思うんだけどうちとは大分違うようだ、そもそも能力を共有しているように見えない。
この能力の正体でも探ってみようか、しかしどうやって探る?
どう考えても強さの秘密は最大級の秘密だろうし。
やることが多い、使える助手が欲しい。
ゴブリンやリザードマンがこの町の中に居たら目立ちすぎるから人間がいい、しかし討伐対象の邪教に協力してくれる人間はどうやってみるければいいのか?
誰でもいいわけじゃない、足手まといにならない程度には強い方がいい。となるとヒロトに頼んで冒涜的な闇の儀式でガッツリとセックスしてもらって能力共有して貰うのがいいだろう。
そうなると美人じゃないと駄目だろう。
前にゴブリンの王がメスゴブリンをヒロトに献上した際はフザケンナと突き返したらしい、メスで人型してればゴブリンやリザードマンでもいいのかと思ったが駄目らしい。
冒涜的な闇の儀式で男役で力を行使できるのはヒロトしか居ないのでそれなりに強いオスゴブリンに任せることもできないし。
天使アイリーンが視線を向ける。
その視線の先にはハイミル教の総本山があった。




