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聖女アプリコットの私室に聖女3人が集まっていた。
「それで、負傷したら自動でテレポートでここに戻ってくるようにしたわけね」
「仮にゴブリンキングが居ても打撃しか使わないらしいし、デイジーなら格闘戦もできるから確実に生きて帰ってこれるはずよ」
聖女マルガリータと聖女アプリコットの2人がどこがトゲのあるもの言いで会話を交わしている。
間に聖女イリスが入る。
「2人共落ち着いて、デイジーだって保護者に守られているべき子供じゃないし判断力だってあるし、戦闘力だって聖女候補の中じゃ抜きん出てる、降臨したハイミル教の神、ハイミル様から直接絶大な力を貰ったボク達を抜かせば人類の中じゃ最強クラスだよ」
だから大丈夫。
と、繋げようとしたが2人の視線が痛いので黙ってしまった。
聖女マルガリータが息を吐いた。
「ええ、そうね。ごめんなさい、本当、ごめんなさい」
さっきまでピリピリしてた聖女マルガリータが今度は泣き出した。
聖女アプリコットは相変わらず澄まし顔でいる。
聖女アプリコットにはどころか無感動なところがあった。
普段は何が起きても笑わないし、喜ばないし、悲しまないし、恐れないし、絶望しないし、憂鬱にならないし、無気力にならないし、ショックを受けないし、血沸き肉踊る欲望もないし、怒ることもない。
周りからは不自然がられるがこればかりは生まれつきなのでしょうがない。
しかし、その鋭い目には確かに正義の心が宿っていた。
聖女アプリコットは無感動だが無感情ではない。
感情が無いわけではないのだ、ただなかなか感情が動かないだけでありちゃんと感情がある人間である。
聖女アプリコットは大泣きしている聖女マルガリータにハンカチを手渡した。
「これで涙を拭きなさい、メイクが崩れているわよ。というかなんでそこまで大泣きしてんのよ」
「だって、なんか酷いこと言っちゃったかなって思ってえ、そう思ったらアっちゃんから嫌われちゃうかもって思ってえ、そしたら涙が止まん無くなっちゃってえ」
「アっちゃん呼び止めてっていってるでしょうが……別にそれくらいのことで嫌いにならないから、ほら涙をふいて」
「メイク、崩れちゃった。アっちゃんなんでメイクしないの?」
「私は何もしなくても美人だから必要ないのよ、毎日身体を清めて、清潔にしていればそれで十分」
全くこんな調子で、デイジーの死体がテレポートで送られてきたらどうなっちゃうのよ?
なんとなくそう思った瞬間、部屋の中央の魔法陣の上に何かがテレポートで送られてきた。
それは斬首されたデイジーだった、転がった首についている目は正面を見ている。
胴体から血が沢山流れ出てるわね、殺されたてかしら、切断面は鋭利な刃物ね、ゴブリンキングは素手でしか戦わないというかららこれができる相手は聖女イリスくらい、でも聖女イリスはここに居るから別の何者かか、誰だ?
聖女アプリコットが聖女候補デイジーの死体を見ながらそこまで考えたところで聖女マルガリータの方を見た。
「うわああああああああああああああああああああああああ」
聖女マルガリータは一瞬、ボーッと聖女候補デイジーの死体を見て止まってたが大声で叫びだした。
そして大声を出しながらその場で膝をついた。
「うっっう」
そして今度は盛大にゲロを吐いた。
聖女イリスは最初は聖女候補デイジーを見ていたが視線が聖女マリガリータの方に移っていた。
「聖女イリス、人を呼んできなさい」
「ああ、わかった」
聖女アプリコットはそう言うと聖女マルガリータの襟を掴んで強引に起き上がらせる。
聖女マルガリータは膝立ちしている状態になった。
「落ち着きなさい聖女マリガリータ」
「だって、だって」
そこでパンというキレの良い音が響いた。
聖女アプリコットが聖女マルガリータにビンタしたのである。
顔に手のあとがつくくらい威力のあるビンタだった。
「痛い?」
「い、痛い」
「じゃああんたはまだ生きてる!」
聖女アプリコットが普段より少しだけ大きい声を出した、聖女マルガリータは長い付き合いだが棒読みみたいな声以外を出す聖女アプリコットをはじめてみた。
聖女アプリコットは続ける。
「痛いのは生きているという証拠、デイジーは死んだ、あなたは生きてる、生きてるんなら立ちなさい」
何時も通りの棒読み口調に戻っているがいつもより若干優しそうだった。
聖女アプリコットは聖女マルガリータの両肩を掴んだ。
「1人で立てないなら私を頼りなさい、私の力が及ぶ限り立ち上がる手伝いをするわ」
そう言うと強引に立たせた。
そのまま聖女マルガリータは立ってる。
「なによ、1人で立てるじゃない、心配させないでよね」
聖女マルガリータは聖女アプリコットの胸に顔をうずめてまた泣き出した。
胸に顔をうずめられるとなんかエロい気分になって困るけど、流石にこの状況でそれは言えないので黙っておく。
最近、感情が動くことが増えてきたような気がする。これは良いことなのか悪いことなのかは自分でもよくわからない。
いつの日か自分も恋とかする日が来るのだろうか?
そんな中、聖女イリスが沢山の人を連れてきた。
室内は再び大騒ぎになった。




