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傭兵団長カキンが部下と話している。
何やら深刻な顔をしている。
聖女候補デイジーは馬車の中で寝ている。
騎士見習いが聞いてきた。
「どうかしたのか?」
「予定外の自体だ、食料が尽きる」
「何故だ? 近くに下半身がヘビの亜人の村があるだろ、畑もある。両替もして亜人達が使っている通貨もある」
「ラミア共は俺達には売らねえってさ」
「何故だ」
「亜人を殺しまくってるハイミル教の旗掲げてるからだろ」
「ムムッ、ではどうするのだ」
「選択肢は2つある、飢えて死ぬか殺して奪うかだ……どっちも嫌だってんならこの辺りに生息している毒カエルでも食べて死ぬか?でかいカエルだ、ゴブリンの好物だぜ」
もう1人の騎士見習いが出てきた。
「その亜人共の食料はちゃんと食べられるんだろうな?」
傭兵団長カキンはもう皆殺しにした後のこと考えてやがる、こいつらヤバイ、亜人もヤバイしとっとと帰りたいと思った。
「味は保証しないが毒じゃない、それも保証する。だがやるんなら早めにやったほうがいいぜ。総攻撃仕掛けて全滅しそうになったら食料を焼かれるかもしれない。それで別の村を見つけられなかったら俺達は飢え死にする」
「素早くやらねばならんな、のろまな傭兵団で包囲してたら焼かれそうだ。聖女候補デイジー様にやってもらおう」
「結構大きい村だ、ラミア共は500は居るぞ。隠密移動できる奴が食料庫の場所を探り当ててるから、荷台持ちと切り込み担当の突撃部隊を編成して食料庫に一直線というのを考えてたんだが……ただの村だし、防衛のことを考えて作られてないっぽいしな」
「それが成功する確率はどれくらいだ?」
「半々だな、切り込み担当が押し負けたら終わりだ。地の利は向こうにあって数はこっちの5倍だ」
「それで半々とはなかなかの自信だな」
「こういう村で農業してるタイプの亜人は知能が高くて戦闘以外を担当しているのが大勢居る。純粋な戦闘員は少ない。数が500といっても戦闘員の数ならこっちより少ないだろう、だがそれでも成功率は半々だ」
「それでも半々か、聖女候補デイジー様を呼んでくる。村の簡単な見取り図を用意してくれ、それと食料庫へ突撃する荷台持ちを用意しろ。切り込み担当は聖女候補デイジー様と我々2人が行う」
「たった3人で切り込むのか?」
「そうだ、傭兵たちでは足手まといにしかならん。言っておくが俺は神聖騎士団の中では見習いで、戦闘力は下の下だがそれでもお前たち傭兵100人が完全武装で襲いかかってきても勝つ自信がある、それにこれは大森林で我々が聖女候補デイジー様はサポートできるかどうかの最終確認でもある」
5分後、聖女候補デイジーがやってきた。
相変わらず大き過ぎるメガネを片手で直しながら、もう片方の手で錫杖を持っている。
「とりあえず私が突っ込んで中にいる悪いモンスターを撲殺すればいい……ってことですかあ? 燃えると不味いのでファイヤーボールは無しで」
「はい、我々2人もサポートしますので、時間がありません。早速やりましょう」
騎士見習いは頷き、颯爽と動き出した。
聖女候補デイジーは見取り図を確認してなかったが騎士見習いの2人が確認していたから大丈夫だろう。
3人がラミアの村に突撃していく。
傭兵団長カキンは予定通り荷台持ち部隊を突撃させる、万が一あの3人がやられていた時の為に戦闘員も一緒に行く。
村の中は撲殺されたと思われるラミアが一面に倒れていた。
「遅かったな」
騎士見習いの1人が現れた。
「もう片付いたのか?」
「聖女候補デイジー様が撲殺したのだ、さあ荷台持ち達よ。急いで食料を詰めるのだ」
やや遠くで悪いモンスター達はぶっ殺しますまよーという叫び声のような声が響いた。
どこか鬼気迫る何かを含んでいる。
「聖女候補デイジー様はかつて弟をヴァンパイアに噛まれ、死鬼と化した弟を殺さねばならなくなったことがあったのだ、聖女候補として認められた日、家に帰るとそこには死鬼と化した弟が襲いかかってきて、殺さなければならなくなったという、それがトラウマになっているのだろう。亜人相手に一度戦いが始まるとああなる」
「唐突にヘビーな話が出てきたな」
傭兵団長カキンが複数人で周囲を見まわると隠れていたっぽい、ラミラが撲殺されて死んでいる。
死体の山。
この村だけでも弟の話は釣り合いが取れているような気がするが、遠くから聞こえる奇声を聞く限り気が収まることはないのだろう、やれやれ。
元の住民であるラミアはほぼ討伐できた、よってここは空き家ばかりとなる。
そこでラミアの死体を一箇所に集めてこの村で寝ることにした。
そのうちラミアの死体が腐って色々と大変なことになるだろうがその前に村を出発するので問題はない。
これも傭兵をしていればよくあることだ。




