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3-2

「魔王を自称するからどんな相手かと思ったけど、ちょっと強いだけのオーガだったよ。楽勝楽勝」


帰ってきた聖女イリスはそう言って椅子に座った、返り血でベトベトだったのでシャワーを浴びて今は神官服を着ている。

ショートカットで活発な感じだがちょくちょく可愛くオシャレを入れている。

背中には鞘に入った剣を背負っている、極端に軽くて長い。その長さは聖女イリスの身長と殆ど変わらないくらいである。

集中すれば幽霊でも斬れるらしいがそれはこの剣の効果ではなく聖女イリスの力だそうだ。


ゴブリンの王国に攻め込んだ聖女は聖女イリスである。


「あのゴブリンキングが魔王を自称しているではないかと懸念していたのだけれど、その心配は無かったようね」


聖女マルガリータの言葉に聖女イリスが視線を落とす。


「ボクもそうなんじゃないかと思っていた、ゴブリンの王国に居たゴブリンの王、全てのゴブリンに対する絶対命令権を持つ上位モンスター」


「ゴブリンキング……高い知能を持った人類の天敵ね、全世界の為、全人類の為、戦わなければ……!」

聖女マルガリータの目には使命感が浮かんでいた。


「強かったよ、勝ったけど結局逃げられちゃったし、追撃部隊もまかれちゃったし」


「どんな感じだったの?」


「剣と鎧とオーラ型バリアを装備して戦ったボク相手に向こうは生身で格闘戦、それでほぼ互角。戦いの途中で片腕を切り落とすことに成功したけど瞬時に自己再生した時は驚いたよ」


「腕の再生なら聖女アプリコットが怪我している人に使っていた魔法とは違うもの?」


「両方とも近くで見たからわかるけど、全く同じ魔法だね。違うのは術者の力量だけだよ」


「ええっと確か腕を失った場合に生え変わらせる魔法というのは1年くらいかけて骨とか筋肉の形を変えさせて少しずつ生えかわるようにして、完全に生え変わってから更に何年もかけてリハビリして、それでも完全に元通り動くようになる人は半分くらいなんだっけ?」


「日常生活を送れる程度という視点でみれば誰でも元通りになっているし、これでも神の奇跡だなんて言われているようなとんでもない魔法なんだけどね……戦闘中に勢いよく腕を生え変わらせて新しく生えてきた腕で戦闘を続行する、しかも生えてきた腕を今まで通り使っていた。あの時は驚いたよ、勝ったけど」


聖女マルガリータには聖女イリスが勝ったことに拘っているのが謎だった、どこかゴブリンキングに対する恐れや恐怖のようなものがあってそれを払拭するように自分が勝ったということをあえて声に出して言っているように感じられた。


もしゴブリンキングが聖女アプリコットを上回る回復魔法を使えるのならばゴブリンキングと100体を超えるゴブリンロードが無傷で何処かに潜伏しているはずである。

ゴブリンキングもそうだがゴブリンロードも侮れない、あれは高い指揮能力を持つ。

1匹でも居れば無数に居る下級ゴブリンが完璧に統率された軍隊に変わってしまう。

ゴブリンキングは仲間を呼ぶだろう、その呼び声がかなり遠くまで届くはずだ。

軍団が巨大化しないようにゴブリン討伐をおしすすめてはいるが油断はできない。


ここにはきていない聖女アプリコットの見立てではこれだけを討伐をおしすすめてもゴブリンキングの周辺には100のゴブリンロードと、900のなんらかの特殊技能を持つ上位のゴブリンが集まり、1000の軍団を作っているだろうと予測していた。

鵜呑みにするわけではないが聖女アプリコットのこういう予測が外れたことはない。


ゴブリンキングは常に1匹しかいない唯一無二のモンスターである。あれの息の根を止められていれば少なくとも次のゴブリンキングの出現まではゴブリンの勢力はかなり落ちただろうが確実に健在であると予想される。

何故ならゴブリンキングを倒せる人間や亜人やモンスターが少なくともこの大陸では確認されていないからだ、もしゴブリンキングが何者かに討ち取られたというのならばゴブリンキングより更に強力な何者かが現れたということになってしまう。


追撃部隊もまかれてしまい、何処に居るかは不明、この状態は果たして勝ったと言えるのだろうか。


「そうだ、ゴブリンで思い出したけど。自称魔王の城の中にゴブリンは一体たりとも居なかったな」


「ゴブリンが居なかった、ゴブリンキングが集めているとか?」


「憶測に過ぎないけど、そうなったら近いうちにまた戦うことになるかもしれないね。領地を取り返そうとするだろうし、腕を切り落としたボクのことを覚えているだろうから。その時はサポートよろしくね」


「私がファイヤーボールで蹴散らしたところに聖女イリスが突撃する何時もの戦法ね、わかったわ」


「聖女マルガリータのファイヤーボールが直撃すればゴブリンキングもイチコロだよ、実際に戦ってみてわかった、100メートル離れたところで爆発しても致命傷を与えられそうだ」


「上手く決まってくれればいいんだけどね」


聖女マルガリータのどこか弱気な発言に聖女イリスは苦笑いをした。

ファイヤーボールは聖女マルガリータの手の平に火の玉現れ、そこから軽く投げるような速度で飛んでいく。

あれが大爆発すると知っていれば手のひらに火の玉が現れた時点で全力ダッシュで逃げればなんとかなってしまう。

近くで爆発すれば聖女マルガリータ本人まで燃えてしまう。


これだけ派手に、色々なところで爆発させているのだからその弱点は既に知れ渡っている。

今回のような何も考えないで突撃してくるモンスターの群れが相手なら有効なのだが……。


そこに伝令がきた。


「聖女マルガリータ様と聖女イリス様に、聖女アプリコット様より急ぎの伝令があります。例の大森林に異変を察知。緊急性が高いと判断し騎士見習いと傭兵を雇い偵察に送ったとのこと、なお騎士見習い派遣をしたところ独断で聖女候補のデイジー様がついていってしまったとのことです」


聖女候補、それは聖女が3人しか居ないと色々と不便なのでもう少し増やそうかということで選んだ素質のありそうな少女たちのことである。

聖女候補は神殿の中で修行をしているので常人離れした能力を有するが、降臨の間でハイミルから直接力を授かった3人の聖女や大司祭のような人類の範疇を大きく逸脱した超常的な力を有しているわけではない。


「騎士見習いは何人行ってるのかしら?」


「新人が3人、聖女アプリコット様が私費で雇った傭兵は50人程です」


「騎士が少なすぎる、聖女アプリコットのやつ誰一人として帰ってこない前提で偵察にだしたわね」


そう言うと聖女マルガリータは両手で顔を覆った。


「……伝令はそれだけ? なら下がっていいわよ」


「はい」


伝令は慌ててその場から立ち去った。


「……」


聖女マルガリータは顔を手で覆って黙り込んでしまった。

聖女イリスが声をかける。


「あの、ショック受けてる?」


「聖女が聞いて呆れるわ、だって私、3人の新人くんと50人の傭兵の皆さんの尊い命より聖女候補を1人失うかもしれないとというそのことばかり心配してしまったのだもの」


「ああ、そのことなら気にしなくていいと思うよ、聖女候補のデイジーと比べたらしっかり聖女しているから。それに偵察でしょ? なら無事に帰ってこれる可能性のほうが高いんじゃないかな」

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