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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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99話 お菓子の家

「ただいま戻りました。いつも家の警備ありがとうございます」

家に戻ったファブレが玄関に立つ衛兵に挨拶する。

「従者様お帰りなさいませ。今日はお客様がたくさんいらっしゃいましたよ。ほとんどが従者様にコックとして働いて欲しいというレストランや、貴族様からのお誘いでした」

衛兵は紙の束をファブレに渡す。来た客の事を書き留めてくれたようだ。

ファブレは礼を言って紙の束を受け取り、家に入る。

ファブレは来た客の確認をする。一流レストランや上流貴族の名もあるようだ。自分を評価してくれることは嬉しいが、ぜひここで働きたいという所は見つからなかった。

ひとまずやる事を済ませてからだ。それまでに何かやりたいことが見つかるかも知れない。

ファブレは最近召喚ばかりなのを思い出し、夕食は久しぶりに家で料理を作って衛兵にもおすそ分けした。衛兵は恐縮しきりだった。


翌朝、また衛兵に留守を頼み、今度は孤児院へ向かう。

子供たちはファブレが来るのを待ち構えていたようで、総出で迎えられる。

「ファブレ兄ちゃんお帰り!」

「キレイな勇者様は帰っちゃったの?」

「魔王倒したんでしょ? スゲー!」

「今日のおみやげは?」

「勇者様と魔王の戦いを聞かせてよ!」

子供たちは遠慮がない。

「ちょ、ちょっと・・先にシスターと話すから、その後でね」

何とか院長室へと入る。

「ファブレ、よくやり遂げましたね。貴方は本当に強い子です」

シスターが笑顔で頭を撫でてくれる。気恥ずかしいが悪い気分ではない。

「ありがとうございます。王様から魔王討伐の褒美を頂いたので、孤児院で使ってもらえればと」

とファブレは金貨の入った袋をテーブルに置く。シスターの目が丸くなる。

「まぁ、貴方個人がもらったものなのに・・」

「ボクには特に使い道もないので。それにこれが全部という訳じゃないですから」

「ファブレ、ありがとう。お前は本当に優しい子ね。このお金はクッキーを作る設備に使わせてもらいましょう」

シスターが大事そうに袋を金庫にしまう。

「クッキーは順調なんですか?」

孤児院の子供たちが街のみやげとしてクッキーを作って売っているのだ。

「売れてはいるんだけど、カマドが一つしかないし小麦粉も少ししか仕入れられなくて、数があんまり作れなくてねぇ。これでもっと多くクッキーを焼けるようになりそうよ」

「それはよかったです」

「さ、みんなのところへ行っておあげ」

「はい」

ファブレが院長室を出ると、待ち構えてた子供たちにもみくちゃにされる。


何とか子供たちを落ち着かせて、魔王城のことやレッドドラゴンとの闘いの話をする。

みな固唾を飲み、興奮して聞き入っている。

そのうち誰かのお腹がグーと鳴るのが聞こえ、話がひと段落したところで昼食を取ることにした。

「今日もドーナツにするの?」

「今日はちょっとやってみたいことがあるんだ」

ファブレは外に出る。子供たちもついてくる。

なるべく平らなところに向けて、ファブレが料理を召喚する。

「料理召喚!」

現れたのはファブレの住んでる家を小さく模倣したものだった。だが屋根がケーキ、壁がパンで、窓が砂糖菓子でできている。

「うわぁ、凄い!」

「お菓子の家だ!」

「これ全部食べれるの!?」

「ああ、全部食べれるよ」

「わーい!」

子供たちは早速家に群がり、壁や窓や屋根を手でちぎっては食べている。

「美味しい!」

「あまーい!」

「うわぁ、これも食べれるんだ」

窓ガラスのように見える部分も飴でできていて食べられる。

ファブレも壁の一部をちぎって食べてみる。ごく普通のパンだ。だがお菓子の家という高揚感からだろうか、いつもよりも甘く美味しく感じられる。

しかし普段あまり自分の家の観察などしないためか、厳しい目で見ると窓や屋根の造形が稚拙だ。それに使っている素材も単調に思える。次回はもっと凝ったものを作れそうだ。

子供たちは獲物に襲い掛かるアリのごとくお菓子の家を蝕み続け、家は半壊してしまった。

「ふーもうお腹いっぱい」

「とっても楽しかったね!」

「ファブレ兄ちゃん、また作ってね!」

「ああ、もちろん」

ファブレは皆に約束して家を消し、皆に見送られて孤児院を後にする。


帰りに料理人ギルドへ顔を出す。受付もリン以外に何人かいて、訪問者も増えているようだ。

手の空いたリンがファブレに気づいて手を振る。

「ファブレくん、来てくれたんだ」

「ちょっと様子を見に来ただけです。だいぶ利用者も増えたみたいですね」

「ギルド長! ファブレくんが来てますよー!」

リンが奥に向かって声をかける。すぐにドアが開いてカンディルが出てくる。

「おお、よく来てくれたな。ここで働いてくれるのかい?」

「いえ今日は様子を見に来ただけで・・すみません」

「謝ることはないさ。立ち話も何だしこっちへ。リンも来るといい」

3人でギルド長室へ入る。リンがお茶を入れてくれる。

「今はカンディルさんがギルド長なんですか?」

「ああ、パッサールは篝火亭の拡大に夢中でな。結局俺がやることになった」

「そうでしたか。資金の方は順調ですか?」

カンディルが腕を組む。

「篝火亭は支店を増やしつつあるが、まだこっちに利益を回せるほどの余裕はない。しばらくは厳しいだろうな」

「それなら、これを使ってもらえれば」

ファブレは金貨の入った袋をテーブルに置き、カンディルが目を剥く。

「おいおい、こんな大金を理由なくもらう訳にはいかないよ」

「いえ、これはヤマモト様からの依頼なんです。料理人ギルドはしばらく運営が厳しいだろうから、魔王討伐の報酬の一部を渡してやってくれと言われました」

「さすがヤマモトさんは何でもお見通しだね!」

リンがうんうんと頷く。

「だが・・」

躊躇するカンディルにファブレが手紙を差し出す。

「ヤマモト様から預かった手紙です。ボクも中身は見てません」

カンディルが手紙を開く。そこには条件としてファブレを料理人ギルドの相談役という役職につけろ、この金はリンのためでもあるから遠慮なく受け取れ、浮気なんかしたらどうなるか分かっているだろうな、と書かれていた。

カンディルは苦笑いして手紙を見せる。

「まだヤマモトさんに監視されてるみたいだな・・ではこの金はありがたく使わせてもらおう。君を料理人ギルドの相談役として任命する。今は肩書だけだが、これからもよろしくな」

「はい、よろしくお願いします」

ファブレとカンディルが握手する。


夕方家に帰ると、やはり衛兵が何枚もの紙の束を渡してくる。昨日より多い。

「無礼なことかも知れませんが、従者様は昼間は家にいらっしゃらない方がいいと思いますよ。貴族の使いが従者様をお訪ねの場合、留守でなければ私はお通ししなければなりません。ひっきりなしに来客があるので、従者様が対応をされたらそれだけで一日が終わってしまうと思います」

「そうですか・・ありがとうございます」

ファブレは途方に暮れる。自分の家なのにゆっくりすることもできないとは。

今は毎日用事で出かけているが、用事が無くなったら昼間はどこにいればよいのだろう。

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