93話 帰路
村長がロアスタッドへ素材を売りに行く村人やその護衛も同行したいと提案し、
3人では心細かったスパークもそれを受け入れ、ロアスタッドまでの道中は大人数となった。
村長や多くの村人に見送られてサイハテを出発する。
ファーリセスはベッドで行ってらっしゃいと言っただけで、また寝てしまい見送りにも来ない。
「小僧と一緒なら食糧が不要だからな。ちゃっかりした村長だぜ」
「ジャヒーラさんっていつからサイハテの村長なんですか?」
しかし村人でもずいぶん前からだという事しか分からないようだった。
馬車の御者をしたままスパークがファブレだけに聞こえるように話す。
「俺が見るに、村長は王国の上部かギルマス辺りと繋がりがあるな」
「そうなんですか?」
「そうさ。サイハテにはファーリセスみたいな魔術師や、王国を追われた騎士、冒険者崩れ、犯罪者なんかも流れてくる。それを監視もなく自治で任されてるんだ。普通ならありえない」
「なるほど。でも悪いことじゃなさそうですね」
「まぁな。サイハテは居心地がいい。奴は有能だ」
ロアスタッドに近づくと護衛の一人が馬で先触れに行き、一行が到着する頃には魔王を倒した従者を一目見ようと、西門には大勢の人だかりができていた。
「魔王を倒した従者様のお帰りだ!」
「よくやったぞ!」
「勇者様バンザイ! 従者様バンザイ!」
衛兵がずらりと門に沿って並んで敬礼し、行きの時に会った衛兵隊長と、領主も門の前で一行を迎える。
「お役目ご苦労様でした。これでもう魔物に襲われる心配もなくなり、この街に平和が戻るでしょう。本当にありがとうございます」
衛兵隊長が深々と頭を下げる。領主が何度も頷く。
「よくやったな! 今日は我が屋敷でゆっくりしてくれ」
スパークがファブレとミリアレフを見る。
「お言葉に甘えさせてもらうか」
「そうですね、宿屋ではちょっと・・無理そうですね」
ミリアレフが前の握手攻めを思い返す。おそらく宿屋では市民が押し掛けてくるだろう。
「領主様、奥様はお元気ですか?」
ファブレの問いに領主は満面の笑みで答える。
「ああ、もう立ち上がれるようになった。その際は世話になったな。腕輪は役に立ったかね?」
「はい。とても」
「それは良かった。では屋敷へ行こうか」
3人はサイハテの村人たちに別れを告げ、周りの市民に手を振って領主の馬車に乗り換える。
屋敷では一人一部屋を充てがわれ、女性の使用人までついている。
ファブレは使用人に何かをさせるなど全く未経験だ。
「お荷物をお運びします」
「いえ女性に持たせるわけには・・大丈夫です、自分でやります」
「お風呂の準備ができました。背中をお流しします」
薄着になった女性からファブレは目を逸らす。
「結構です! 自分で洗えますから!」
女性はなんでも自分でやろうとするファブレに困惑するばかりだった。
みな風呂で長旅の垢を落としたあと、晩餐となった。
領主夫人はすっかり顔色がよくなり、体もふっくらとしてきたようだ。改めてファブレに礼を言う。
「お酒とこのお料理のおかげで、すっかり良くなりましたわ」
出てきた料理はファブレが料理人に食べさせた、ロアスタッドステーキを改良したものだ。
「この料理はどの客にも好評でな。いいものを教えてもらったよ」
「肉と同じくらいの薄切りのジャガイモを巻いたんですか? 凄い技術ですね」
「とっても美味しいです!」
「これがドラゴンステーキの代わりの料理か、なるほどこりゃいいな」
ファブレ達の感想に、料理人もほっとした表情だ。
「ありがとうございます。このメニューはレストランごとに中に入れる、巻くものを替えて出すことにしました」
「店ごとで違うものを出させて競争させるのか。上手い手だな」
「どんなのが出るかワクワクしますね」
料理は常に日進月歩だ。
奇跡の料理人だの勇者の従者だのに胡坐をかいていては、すぐに過去の人になってしまうだろう。
ファブレは気を引き締めて残りの料理を味わい、料理人と意見交換した。
翌朝も使用人がファブレの部屋に来たが、
ファブレにはやはり他人に着替えを手伝わせたり、髪を梳いてもらったりするのは無理だった。
今までそれは自分の役目だったのだ。使用人は困惑した顔で立っているだけだった。
皆の準備が整い、領主夫妻に礼を言うと馬車で東門へ送られる。そこには既に領主の護衛隊が出発の準備を整えていた。
東門での見送りにも、昨日と同じ大勢の人だかりができている。
「行ってらっしゃい! 気を付けてー!」
「名物料理作ってくれたんだってな! また来てくれよな!」
「割引するからまた来てね!」
スパークが露出の高い女性たちに見送られてデレデレしていた。
また夜中に命の洗濯とやらに行ったのだろうか。
「不潔です! ファーリセスさんに言いつけますからね!」
ミリアレフがスパークを杖でゴンゴンと殴っている。
完全武装の護衛をつけ、ロアスタッド領主の旗がなびく馬車を襲う盗賊などいない。
ファブレは馬車の御者をしながら、これからの事に思いを馳せる。
ひとまず王への謁見、詳細をギルマスやミハエル王子に報告、ミリアレフと共に神殿にも行かねばならない。
ヤマモトが借りた指輪をセジュール家に返し、リンや街の面々と会い、魔法研究所にファーリセスが来ることも伝える必要がある。
そしてハヤミに装備を返し、目の治療をする重要な使命がある。
だがその後は特に目標がない。決まっているのは料理を続けるということだけだ。
やはり料理人なら自分のレストランを持つというのが普通の目標だろうか。だがどんな店にしたいのか全く決まっていない。どこか好条件の募集があればそこで専属として腕を振るうのもありだろうか。料理人ギルドに登録して色々なところの手助け兼修行をするのもいいかもしれない。
ファブレはふと気づいてスパークに質問する。
「スパークさん、本当に王都にパン屋を出す気なんですか?」
「おう、もちろんだ。資金も当てが出来たしな」
「その時はボクにも商品の開発をさせて下さい」
「そう言ってくれると思ったぜ。こりゃ成功したも同然だな!」
スパークは御者をするファブレの両肩を後ろから掴んで揉む。
「わっ、危ないです」




