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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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91話 勇者の帰還

翌朝、魔王の居室で皆で朝食を取る。ルリが久しぶりにパンが食べたいと言い、

パンと目玉焼きとミルク、デザートの組み合わせだ。

ルリはホットミルクにパンをつけて食べている。

「お姉ちゃん、また目玉焼きに醤油かけてるの?」

ルリは塩コショウ派のようだ。

「醤油が一番いいのだ。卵かけご飯だって醤油だろう」

「卵かけご飯と目玉焼きは違うって。それにパンに醤油味は合わないじゃない」

「そんなことないぞ。パンに醤油をかけてもいいくらいだ」

「えー、それは絶対ないよ!」

ルリもヤマモトも本気ではなく笑顔でじゃれあっている。

魔王は無表情にパンをかじっている。

「ふむ、姉妹でも好みが違うのか」

「人によって好みはありますね。かなり好き嫌いの分かれる料理もあります。納豆とか・・」

「ああ、あの腐った豆か」

「腐ってないぞ、失礼な」

「私も納豆はちょっとパス」

ヤマモトが憤慨するが、ルリも納豆は苦手のようだ。


朝食が終わるとヤマモトが転移したときの服に着替えて、皆ソワソワしだす。もうすぐヤマモトが帰還する時間になるのだ。

たわいもない事を話ながら時間を過ごすと、やがて部屋の中央に光が集まり始め、女神が顕現する。

「使命を果たした勇者よ、帰還の時となりました。あなたを元の世界へ戻しましょう」

「元の世界では時間は経過していないんだな?」

「はい、そうなります。ただ記憶だけは残ります。できれば他言無用で・・」

「ああ分かっている。どうせ誰も信じないさ」

ヤマモトが魔王とルリに向き直る。

「ではな。くれぐれもルリの事を頼んだぞ」

魔王は頷く。

「任せておけ」

「お姉ちゃん、元気でね。お父さんとお母さんによろしくね」

「正直、どう伝えればいいのか迷ったものだが・・」

ヤマモトが苦笑する。

ヤマモトがミリアレフに振り返り、両手を取る。

「ミリアレフ、君のおかげで何度命を救われたか分からない。本当にありがとう」

「勇者様、もったいないお言葉です・・ううっ、どうかお元気で」

ミリアレフは涙でぐしゃぐしゃの顔でヤマモトの手を握り返す。

「スパーク、無理ばかり言ってすまなかったな」

「いいさ、俺も貰うもん貰ったしな。勇者印のパン屋の上納金はなしでいいよな?」

「フフ、ああ構わんぞ」

ヤマモトとスパークは軽く拳を合わせる。

「ファーリセス、バーログやレッドドラゴンを倒せたのは君の魔法のおかげだ。助かったよ」

「勇者様、元気でね!」

ファーリセスは会った時と同じように、ヤマモトの手にちょこんと手を触れる。

そしてヤマモトがファブレに向き直る。

「ファブレ、長い間世話になったな。君のおかげで私は異世界でも孤独を感じずに済んだ。心から感謝しているよ」

ファブレは涙をこらえようとしていたが、やはり目から涙が溢れてしまう。

「ヤマモト様・・ボク、ヤマモト様のこと絶対に忘れません。いつでもヤマモト様の夢が叶うように願っています」

「ありがとう。君が応援してくれていると思えば、私はくじけそうになっても頑張れるだろう」

ヤマモトはかがんでファブレを優しく抱きしめ、額にキスをした。

そして立ち上がり、女神が開いた時空の扉へ向かう。開いた扉の向こうには夜空と星のようなものが見える。

「ではな」

ヤマモトは笑顔で一度だけ皆を振り返ったあと、躊躇うことなく時空の扉を抜ける。

扉を抜けたヤマモトの姿が消える。そしてゆっくりと扉が閉まり、時空の扉も宙に溶けるように消えていった。

「ヤマモト様・・ううっ・・」

ファブレが床に泣き崩れる。

「泣くな小僧。勇者が使命を果たしたんだ。めでたいことじゃないか」

ファブレがスパークを見上げる。しかしスパークも何かに耐えているように見える。

「それにお前にはまだ使命があるだろう。しっかりするんだ」

ファブレはヤマモトの装備を元の持ち主に返して欲しいと、従者としての最後の使命を受けたのだ。

「・・そうですね。すみません」

ファブレは涙を拭いてよろよろと立ち上がる。

女神が皆を見渡して告げる。

「では私もこれで・・くれぐれもルリさんの事故の件は秘密に。天罰が下りますよ」

物騒な言葉を残して女神は消えて行った。


「行ってしまったな・・だが君らにはまだやることがあるのだろう。馬は城の入り口につないである。吊り橋も直しておいた。この魔除けがあれば魔物は馬や君たちを認識できない。効果は一日しかないがな」

魔王が人数分の札のようなものをテーブルに置く。

「そりゃ助かる。今から出れば夕方までに砦まで行けるな」

「ありがとうございます」

各自札を懐にしまう。

「魔王様とルリさんはずっとここに?」

「いや、討伐されたはずの魔王が居座る訳にもいくまい。しばらくルリの療養をしたら、ルリの希望に合う場所を探してそこで生活しようと思う」

「私ずっと湖畔の森の傍に住みたかったの!」

「そうでしたか」

「何か君の力を借りることがあるかも知れん。その時は連絡しよう」

「分かりました。二人ともお元気で」

ファブレは魔王と握手する。魔王の鋭かったであろう爪は丁寧に丸められていた。

スパークたちが魔王とルリに別れを告げる。

「じゃあ行くか。世話になったな」

「二人の未来に幸あらんことを・・」

「おみやげありがとね!」

ルリは笑顔で手を振っている。

魔王の笑顔はまだ邪悪さが残るが、少し表情が和らいだようにも見える。

一行は魔王の居室を後にした。

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