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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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85話 魔王の雑炊

「今後私がルリに料理を作れるよう、指導して欲しいのだ」

「はい、えーと・・」

魔王の言葉にファブレは途方に暮れる。料理を教えること自体はやぶさかでないが、魔王相手とは。

しかも味が分からない人が料理を作れるようになるのだろうか。

だが魔王の機嫌を損ねたら、傷んだ素材のようにファブレも分解されてしまうかも知れない・・。

「と、とりあえず今回作る卵雑炊の作り方を説明しますね。まず米を洗い、しばらく水に浸して米に水を吸わせます」

とボウルで何度か米を洗い、水を入れたボウルを置く。

「時間はどれくらいだ?」

「できれば1時間欲しいですが、今回は急ぎなので20分くらいでしょうか」

「ならいい方法がある。タイムタイド」

魔王が米を浸したボウルに魔法をかけると、ボウルの水位が少し下がり、米が白くなる。

「ボウルというのか、これの時間の流れを早くした。もう1時間たったのと同じだ」

「ええ?」

そんなことに時間の流れを変えるような強大な魔法を使うなど聞いたこともない。

「で、では米を炊きます。蓋のある鍋に米と水を入れて中火にします。蓋から泡が出たら沸騰した合図なので、火を弱めてこのまま10分くらい焚きます。水が無くなったら完成です」

鍋を開け、炊きあがった米を見せると魔王が大仰に頷く。

「うむ、分かった」

「次に鍋に水を張り、出汁を取るためにコンブを入れて火にかけます。こちらは水が沸騰する前にコンブを取り出します。本当はカツオブシもあるといいのですが、ちょっと特殊な材料なので今回は省きます」

「このコンブという物は何だ? 見たことがない」

魔王が鍋から上げたコンブをつまみ上げ、ズルズルと飲み込んでしまった。

ファブレは目を剥く。

「う、海の中にある草、海藻を干したものです」

「ほほう、そんなものを使うのか。これの味を水に移すのが出汁を取るという事だな」

魔王はなかなか飲み込みが早い。

「そうです。この出汁を取った鍋の中に、さっき炊いた米を入れます。少し煮たら溶いた卵を入れます。卵が固まったら鍋を軽く混ぜて塩や醤油で味を整えて深皿に移し、最後に刻んだネギを乗せれば完成です」

魔王が質問する。

「醤油というものはなんだ?」

「塩と同じく、調味料・・料理に味をつけるものです。これです」

ファブレが小皿に持ってきた醤油を少し注ぐ。魔王は上を向き皿を口に持ってきてひっくり返して飲む。一部が顔にかかるが気にもしない。

「どのようなものかは分かった。しかし我には味つけの調整ができない。どうすればよい?」

ファブレは考える。方法は一つしか思い浮かばない。

「では醤油がこの小さなスプーン一杯、塩は指でひとつまみとします」

「なるほど、その分量なら同じ味になるという訳か」

魔王が出来上がった卵雑炊を観察して頷く。

「よし、卵雑炊とやらは分かったぞ。召喚」

「えっ?」

ファブレが作った卵雑炊のすぐ横に、深皿ごと全く同じものが出現した。

「料理召喚・・」

ファブレは茫然とするが、冷静に考えれば魔王はもっと強大な魔法をいくつも使っている。

料理召喚程度のことができないはずがない。

「同じ味か見てくれ」

「は、はい・・」

ファブレは魔王が召喚した卵雑炊をスプーンで一口食べてみる。

「味はいいですがちょっとご飯が固いですね。もっとフワリとした感じの方が・・あっ」

ついいつもの調子で魔王が作った料理を批評してしまい、恐る恐る魔王の様子を見るファブレ。

魔王はファブレが作った卵雑炊をガッと器ごと持ち上げ、全て口へ流し込んだ。

「ひい!」

怯えるファブレ。だが魔王は無表情のまま咀嚼して飲み込んだだけだった。

「なるほど、食感も大事なのだな。ディスインテグレイト、召喚」

魔王が先に作った卵雑炊を消して新たなものを召喚する。口元に米粒がついたまま。

ファブレは味見しなくてはならない。

「・・これなら大丈夫です」

お世辞抜きで魔王が召喚したものは及第点と言えた。

魔王がニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。

「ククク、遂に我は成し遂げたぞ」

魔王はお盆に自分が召喚した卵雑炊とスプーンを乗せると、意気揚々と厨房を出て行った。

「はぁ、疲れた・・」

ファブレは厨房の床にへたり込んだ。


ファブレの厨房の片付けが終わり元の部屋に戻ると、ルリがベッドの上で魔王が作った卵雑炊を食べて絶賛していた。

「すっごく美味しいよマーくん!」

「ククク、それはよかった」

悪意はないのかも知れないが魔王の笑みは壮絶で邪悪さを感じる。

ヤマモトたちはすっかりくつろいでソファでお茶を飲んでいた。

「ファブレ、すまないな。魔王と二人きりにしてしまって。大変だったろう」

いつもの冷静さを取り戻したヤマモトがファブレに詫びる。

「いえ、大丈夫です。料理を教えただけですから」

他にも色々あったが、結果だけ簡易的に報告する。

「あれは本当に魔王が作ったのか? 味が分からないにしては良い出来のようだが」

「ボクの見本を食べて、魔王様・・魔王さん・・が召喚したんです」

ファブレは魔王の敬称をどうつければいいのか分からなかった。

「そうか、魔王も君と同じく料理召喚が使えるのか」

ヤマモトは納得したようだった。

「む、少年も料理を召喚できるのか。今回はなぜ使わなかったんだ?」

魔王が振り返りファブレに問いかける。

魔王に情報を話してもいいものだろうか、とヤマモトを見ると黙って頷いている。話しても構わないのだろう。

「ボクの料理召喚は一定時間経たないと使えないんです」

「なるほどな。ではこれをやろう」

魔王が指輪を外してテーブルに置く。金と銀の蛇が絡み合ったような細やかな意匠の指輪だ。

「無限召喚の指輪だ。いくらでも召喚術が使える。それに召喚術に限り魔力を消費しなくなる」

「はあ?」

「ええっ!」

「???」

スパークが固まり、ファーリセスは顎が外れそうなほど口を開けている。ミリアレフは理解が追い付かないのか指輪を見て目をパチパチしている。

ファブレは頭がクラクラした。効果といい魔王が装備していることといい、おそらく伝説級のアーティファクトだ。価値は計り知れない。そんなものをたかが料理の召喚のためにもらう訳にはいかなかった。

ファブレはありったけの勇気を振り絞り、何とか声を出す。

「いえ、結構です・・」

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