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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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83話 玉座の間にて

ドラゴンの後は魔物と会うこともなく、一行は埃が積もって蜘蛛の巣だらけの通路を進み、

やがて隠し通路の出口、玉座の間の下まで辿り着いた。

壁際に階段があり、その天井が扉になっている。扉は高度な魔法で偽装されており、階上から足元の扉や通路に気づくことはないとハヤミから説明されていた。

「あそこが出口だ。ちょっと見てくる」

スパークが階段を登り、慎重に天井の扉から階上の様子を伺う。

「うへえ、マズいな。玉座の間は厳重に警備されてるぞ。今までこんなことは無かったのにな」

「隠し通路を通って来たのに、なぜバレたんだ?」

ヤマモトの言葉にファブレは指摘せずにいられない。

「関所を爆破したり橋を落としたからじゃないでしょうか・・」

「まぁそれもあるか」

ヤマモトが頷く。

「それ以外に何かあるの?」

ヤマモトはファーリセスの質問をスルーする。

「玉座の間に魔王はいないんだろう? だったらバーログと同じ戦法で行こう。サンクチュアリで雑魚を押しのけて司令官を倒す。司令官を倒せばみんな逃げるはずだ。ミリアレフ頼めるか?」

「出番ですね! 燃えてきました!」

ミリアレフが杖をブンブンと振り回す。だがスパークには不安要素がいくつも浮かぶ。

「どの魔物が司令官か分からんぜ。それに魔王から直接の命令なら司令官を倒しても魔物が逃げないかも知れん。戦闘中に魔王が出てくるってことも・・」

「しゃべれる奴が司令官だ。魔王は今更出てきたりしないだろう。では行くぞ」

「おい、作戦はそれだけか? 何か焦ってないか?」

スパークはヤマモトの様子を訝しむ。付き合いの長いファブレには、ヤマモトの態度の理由が思い当たった。

ヤマモトは堂々と天井の扉を開けて、階上の玉座の間へと階段を上がっていく。

「出たとこ勝負かよ」

「勇者様に任せれば大丈夫です!」

他の皆も階段を駆け上がり、玉座の間へとなだれ込む。

最後尾のファブレが階段を上がると、先に出たヤマモトたちは重装備で槍を構えたリザードマンの衛兵、筋骨隆々で棍棒を担いだサイクロプス、低空で浮かぶガーゴイルなどに幾重にも取り囲まれていた。

その中で平然と、ヤマモトが体についた埃や蜘蛛の糸などを払い、手櫛で髪を直している。

「ファブレ、タオルをくれ」

ファブレが渡したタオルで顔をゴシゴシとこするヤマモト。

「ふぅ、やっと少しマシになった」

「はぁ、やっぱり・・」

ファブレの予想通り、ヤマモトは埃や蜘蛛の巣だらけの通路に我慢できなくなって飛び出しただけだった。


魔物の一匹が包囲から前に出て、怒りに震える声で告げる。

「私も知らぬ通路だと? 関所を破ったのも貴様らだな・・この魔王軍防衛隊長アドラメーク、このままでは魔王様に顔向けできぬ。この選りすぐりの親衛隊は突破できまい。勇者よ、ここが貴様の墓場だ!」

その魔物は牛かヤギのような顔からねじくれたツノが生えており、金色に輝く豪華な鎧をつけ、同じく金色に輝く剣を持っている。その背後には極彩色の孔雀の羽が放射状に延びている。

ファブレはこんなに派手な魔物を見たのは初めてだった。

「・・コイツで間違いな」

「ミリアレフ、やってくれ」

スパークとヤマモトが司令官を断定する。

「分かりました、神よ、その御業にて我らを害さんとする者からその身を守り給え、サンクチュアリ!」

ミリアレフが杖を立てて床を叩くと、そこから発生した光の波にアドラメーク以外の魔物は壁際まで吹き飛ばされ、立ち上った光の柱の中にはアドラメークとヤマモトたちだけが残る。

アドラメークが慌てた声を上げる。

「ど、どうしたお前ら! 勇者を倒せ! いやワシを守れ!」

だが魔物たちは円柱の中には入れない。

「じゃあさよならだ、防衛隊長」

ヤマモトに一瞬で距離を詰められたアドラメークが反射的に体の前に金色の剣をかざす。だがヤマモトの聖剣はアドラメークの剣、鎧、そして中身を全て袈裟懸けに切り裂いた。

「ぐわ・・」

斜めに割かれたアドラメークの上半身がゆっくりと床にずり落ちる。

一瞬遅れて立ったまま残っている下半身から血が吹き上がり、ヒラヒラと孔雀の羽が舞う。

円柱の外の魔物たちは顔を見合わすと、脱兎のごとく玉座の間から逃げ出した。

玉座の間から完全に魔物がいなくなったことを確認し、ミリアレフが魔法を解く。

「上手くいきましたね」

「無駄に派手な奴だったな」

「魔王がいるのはあっち」

ファーリセスが広間の奥、空位の赤い玉座の後ろにある扉を指さす。

その時、広間に声が響く。男とも女とも、老人とも若人ともつかないが朗々たる声で告げる。

「よく来たな勇者よ・・お前が来るのを待ちかねていた」

「魔王・・」

ファブレはその声から発せられる圧力で体が固まってしまう。

声だけで分かる余りに圧倒的な力。人の手に負えるものではないと理解できる。

周りの皆も顔が蒼ざめて俯いている。勝気なミリアレフも。そしてヤマモトも押し黙っている。

絶望を感じながらファブレは魔王の次の言葉を待つ。決着をつけようと言うのだろうか。

「さぁ、その扉をくぐるがよい。そして料理を作るのだ」

一瞬の沈黙。

「ん?」

「えっ?」

「なんで?」

「今料理って言ったか?」

「私の聞き間違えでしょうか?」

ファブレの聞き間違いではなく、魔王は確かに料理を作れと言ったようだ。

そしてそれから魔王の言葉は無い。

「なんだかよく分からんが、先に進むしかなさそうだな」

ヤマモトは深呼吸して気持ちを落ち着かせると、玉座の奥の扉に手をかけた。

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