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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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82話 真ドラゴンステーキ

「何を言っているんですかヤマモト様。ドラゴンの肉は食べちゃいけないのはご存じでしょう」

ファブレは当然の意見を言う。がヤマモトは譲らない。

「その問題は解決したろう。後で解呪を使えば問題ない」

ロアスタッドの領主の件で、一度ドラゴン肉を食べるとどうしてもまたドラゴン肉を食べたくなるのは呪いによるものだと判明した。

だがもしかしたら他に問題があるかも知れない・・食べないに越したことはないはずだ。

「でも・・スパークさん、どうでしょう?」

ウキウキとドラゴンの死体を確認しているスパークが上の空で答える。

「あ? いいんじゃないか? やっぱり牙は欲しいよな!」

「ちゃんと聞いてください」

ファブレが呆れる。

「昼食にリクエストしなかった分の不満があったみたいだ。ドラゴンの肉を食べないと勇者の力がガタ落ちして魔王に負けてしまうかも知れん。ああ世界がピンチだなー」

ヤマモトがわざとらしく口を尖らせる。

ヤマモトにそう言われてしまうとファブレに取る道は一つしかなかった。

「はぁ、分かりました。どうなっても知りませんからね」

「うわぁ、私もドラゴンの肉は初めて!」

ファーリセスも食べる気満々だ。

「サーロインは背中、腰当たりだったか? 肩ロースも取るか」

ヤマモトがドラゴンの背中に上って、聖剣でドラゴンをズバズバと切り裂いて肉を切り取っていく。

ファブレはそんな使われ方をする聖剣と、ドラゴンが少し憐れになった。

「じゃあ頼む」

ヤマモトからシートを引いた地面に肉塊をドンと置く。

「ここまで来たらしょうがないですね・・道具が少ないからシンプルなステーキにします」

ドラゴンの肉は外皮と鱗に近い部分は包丁も通らなかったが、内部になるにつれ肉が柔らかくなり、包丁で切り分けることができた。

小型のフライパンを強火で加熱し、脂身を乗せる。

肉はなるべく血や水分を拭きとり、厚さを均等にし、塩コショウを振ってすぐにフライパンに乗せる。

ジュワッ!と肉の焼ける音と煙があがり、広場に香ばしい香りが漂い出す。

「おお、食欲をそそるいい匂いだ」

「こりゃたまらんな」

「あの、私にも頂けますか?」

ミリアレフがおずおずと手を上げる。結局みんな食べるようだ。

片面を強火で短時間焼いたあと、ひっくり返してすぐに火を弱くして蓋をする。

生で食べられるかどうかわからないため、じっくりと焼くことにした。

焼きあがったところに醤油とスパークの持っていた酒、刻みニンニクも混ぜてソースも一緒に作る。

ほぼ完成だが、まさか初見のものを味見もせずに出す訳にはいかない。

肉を切り取って断面を見る。生の部分はないようだ。そしてファブレは目をつぶって味見してみる。

「!」

ドラゴンステーキの味はファブレの予想を超えていた。強火であぶった外側は香ばしく、噛み絞めると熱が通っただけの内側からは肉汁が染み出してくる。それに適度な歯ごたえ、噛めば噛み絞めるほどに湧き上がる肉の旨み。簡易的なソースも上手く肉の旨みを引き出している。

どんな食通をも唸らせる完璧な肉料理だと思えた。

「できました、どうぞ」

ファブレが切り分けたステーキ肉の乗った皿をヤマモトに差し出す。

「これは期待できそうだな。ではいただこう」

ヤマモトが背負い袋から愛用のハシを取り出し、手を合わせる。

皆が見守る中、ヤマモトがハシで肉を一切れつまみ、口へ運ぶ。一噛みしたところで目が見開かれ、

咀嚼するごとに口元が緩んでいく。

「う・・美味い・・美味すぎるぞこれは」

すぐに次の一切れをハシで突き刺して口へ運び、目を閉じて味わう。

「うーむ美味い・・なんて味だ。こんな美味いものが存在するとは・・」

痺れを切らしたスパークが目にもとまらぬ早業でヤマモトの皿から一切れ取って口へ運ぶ。

「う・・うめぇ・・なんだこりゃ」

スパークは一口咀嚼して茫然となっている。

「人の食い物を盗むんじゃない。ファーリセスとミリアレフも食べてみろ」

ヤマモトが皿を置いて、ファーリセスとミリアレフがそれぞれフォークを突き立て、口へ運ぶ。

ミリアレフは頬を抑えて立ち上がる。

「なんて美味しいんでしょう! 神よ、こんな美味しいものを食べさせていただいて感謝します!」

「!!」

ファーリセスは言葉にならない声を上げて文字通り飛び上がった。

「すまんがファブレ、どんどん焼いてくれ。これなら塩コショウだけでいいんじゃないか」

「そうですね。フライパン一つしかないのでソースが手間ですし」

ファブレは肉を焼いては切り分けて皿に置き、塩コショウを振る。そうすると皆が一斉に手を伸ばしてあっという間に肉は無くなる。それを何度も何度も繰り返す。

ファブレも切り分ける時に自分の分は確保して、肉を食べながらひたすら肉を焼き続ける。


「ふぅ・・さすがに満腹だな」

「うーん、もう食えねえ」

ヤマモトが腹をさすり、スパークがゴロリと仰向けに寝転がる。

「もう夕食いらないくらいですね。あ、みなさんに呪いがついてます! って私も呪われてます!」

ミリアレフが慌てた声を出す。

「忘れずに解呪ポーションを飲んで下さいね、満腹で苦しい場合は活性化ポーションも」

ファブレが調理道具を簡単に洗って片付ける。

「これも美味しい」

ファーリセスはポーションの味が気に入ったようだ。

ファブレも解呪ポーションを飲むと、ドラゴン肉に熱中していた気分が嘘のように晴れてくる。

ヤマモトが立ち上がって告げる。

「さあ、もう魔王は目と鼻の先だ。気を引き締めて行こう」

「へいへい・・ってドラゴンの素材は?」

「そんな物をのんびり拾っている余裕はない。行くぞ」

「いやのんびり食事してただろ。おいマジかよ、せめて牙だけでも・・チェッ」

ヤマモトが歩き出したので、スパークは慌てて後を追いかける。

ファブレはチラリとドラゴンの死骸を振り返り、皆の後に続いた。

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