76話 砦へ
翌朝、日の出とともに皆が装備の確認を済ませ、馬へ荷物を載せていると村長や村人が声を掛けてくる。
「とうとう魔王討伐に行くのか」
「ああ世話になった。早朝なのに騒がしくてすまんな」
「いや構わない。無事と健闘を祈る」
「勇者様の勝利を願ってます」
「無事に帰ってこいよ!」
村人たちの声援を背に、サイハテの村を出る一行。
道が整備されていないため、馬車は村に置いて全員が一頭ずつ馬に乗る。
「サイハテの西側には深く大きな河がある。そこが魔物と人間の境界線のようなもんだ。河に沿って一日も遡上すれば流れが緩やかになって、馬でも渡れるようになる。もちろん魔物も渡ってこれるんだがな。昔は砦を築いて守っていたんだが、魔物に破壊され放棄されている。今日はその砦跡まで行こう」
とスパークが河が遠目に見えるくらいの距離を先導していく。
ファーリセスがスパークに尋ねる。
「もっと河沿いを行かないの?」
「蛇行してる部分もあるし、水棲や飛行の魔物が襲って来る可能性もあるからな」
そういえば村を襲っていたのはリザードマンとハーピーだったとファブレは思い返す。
しばらくは順調に進むが、日が高くなってきた頃には足元がぬかるみ出し、前に巨大な池が見えてくる。
「むう、前はこんなのは無かったが・・蛇行した河が池として残ったのかも知れん。迂回するしかないが河を見失うと困る。ファーリセス、ちょっと偵察できるか?」
「任せて!」
「では少し早いが偵察が終わったら昼食にしようか。昼は・・カツサンドでいいかな」
「分かりました」
「わぁ、嬉しいです」
カツサンドが好物のミリアレフが笑顔で馬を降り、伸びをする。
ファーリセスが鳥の目で周囲を偵察し、スパークが地図に池と河の場所を書き込んでいく。
「よし、こっちは終わった。じゃあ休憩にするか」
「カツサンドって何?」
「説明するより見た方が早かろう。ファブレ頼む」
「はい、では・・料理召喚!」
地面に広げたシートの上に、いくつものバスケットと水差し、コップなどが現れる。
「まるでピクニックだな」
ヤマモトが苦笑してバスケットを開けると、そこには綺麗に切りそろえられたカツサンドが並んでいる。
「ふむ、ヒレカツにロースカツ、これはカツカレー風味か? どれも美味そうだが・・ちょっと多くないか?」
一行は5人なのに、バスケットは10個も並んでいる。
「食糧をほとんど持って来ていませんから、念のための予備です。夜中には消えちゃいますけど」
「なるほどな。では頂こうか」
「はい!」
「これがカツサンド・・」
ヤマモトが手を合わせ、ミリアレフは笑顔でかぶりつき、ファーリセスは断面を覗き込んで匂いを嗅いでいる。
「こうやって手で持って齧る。簡単だろ? うん、美味いな」
スパークがファーリセスに見本を見せ、ファーリセスが目をつぶってカツサンドを頬張る。
何度か咀嚼すると猫耳がピクピクと震え、尻尾が逆立つ。
「美味しい!」
「気に入って頂いて何よりです」
ファブレは初めて作ったカツカレーサンドを食べてみる。パンはしっとりとしており、中のカツとかかっているカレーもほんのりと温かい。口に近づけるとまずスパイシーな香りが先に来て、口に含むとカレーの濃厚な味が口に広がる。咀嚼するとカリッとした衣の歯ごたえと肉の旨味、キャベツの香り、パンの風味がカレーに交じり合う。いい出来だった。
「おいなんでこっちを見るんだよ。自分の分を食えよ」
スパークの分がファーリセスに狙われているようだ。
「お代わりもありますし、見た目より結構多いですよ」
「このカレー風味のは初めてですね。とっても美味しいです。はっ、いけない!」
ミリアレフは頬を抑えながら笑顔で食べていたが、重要な使命の最中だと思い出して顔を引き締めて周りを見渡す。
「食事くらいゆっくり取ってもよかろう。決戦に向けて充分に英気を養うのだ。うむ、どちらも美味い」
「ヤマモト様、行儀が悪いですよ・・」
ヤマモトは両手にそれぞれ違うカツサンドを持って、交互に食べていた。
湖を迂回して進み、また河の近くまで戻ってくると、遠目にも河の幅が小さくなってきているのが分かる。
また河の向こう岸に、時折魔物らしき影が見えることも増えてきた。
「まだこのへんは深くて渡れないと思うが・・いちおう警戒しといてくれよ」
「ああ」
「分かりました」
慎重に進む一行。やがて夕暮れとなり、丘の上に人工の崩れかけた建物が見えてくる。
「あれが砦跡だ。ファーリセス、どうだ?」
「上からは何もいないように見える」
鳥の目で砦を観察したファーリセスが答える。
「よし、俺もちょっと見てくる。なに、敵がいたらすぐ逃げるさ」
スパークが馬に飛び乗って砦に向かう。
緊張して待つ一行だが、スパークはすぐに戻って来た。
「どうも魔物が一匹だけウロウロしているようだ。餌でも探しているのか・・。そいつさえ倒せば砦で安全に休めるだろう」
「分かった。皆行くぞ」
「はい」
皆武器を握り締めて砦に向かい、砦の厩跡に馬を留めて降りる。
スパークが小声だが皆に聞こえる声で話す。
「馬の足音に気づいたのか、魔物は息を潜めて隠れているようだ」
「まぁ一匹なら物の数じゃない」
「はい、行きましょう!」
ヤマモトとミリアレフは武器を構えて壁の崩れた個所から大胆に砦内に入って行く。
「おいおい・・ってまぁ勇者なら大丈夫か」
スパーク、ファーリセス、ファブレも後に続く。
抜き身の剣をかついだヤマモトと、油断なく杖を構えたミリアレフが先を進み、
中央はファーリセスとファブレ、クロスボウを構えたスパークが殿となり、砦の中央通路を進む。
「前だな」
スパークの小声にヤマモトとミリアレフが正面の建物に向けて武器を構えると、建物の壊れた扉から小さな影がまろび出る。
緑色の肌で髪はなく、ボロボロの粗末な服で鎌を持ち、吊り上がった耳と目・・ゴブリンだ。
ミリアレフが杖を振り上げるがヤマモトがそれを制する。
「待て、様子がおかしい」
ゴブリンはヤマモトたちを見ると、持っていた粗末な鎌を放り投げる。
「戦ワナイ、食イ物クレ」
ファーリセスが息を飲んだ。
「魔物がしゃべった・・?」




