75話 豚汁
昼食の野兎のシチューを食べ終わり、
ヤマモトが皿を舐めているファーリセスに話しかける。
「そういえばまだ君の能力を詳しく聞いていなかったな、説明してくれないか?」
「うん、えっとね、無属性魔法と憑依魔法。あと魔法知識」
ファブレもお茶を配りながら聞いているがどれ一つとして分からない。
スパークが補足してくれる。
「無属性魔法は昨日のマジックミサイルのような、火や水などの精霊を使わないタイプの魔法だ。
憑依魔法は動物などと感覚を同化する、今日見たやつだな。ほとんど使い手はいないはずだ。魔法知識は・・そのままだな。魔法に関する知識。こう見えてもコイツは魔法研究所の次席研究員だったんだ。エリートだぞ」
「ほう、じゃラプターの同僚か」
「アイツは陰気だからキライ」
ファーリセスに言い切られてヤマモトが苦笑する。
「じゃあこちらも簡単に説明しようか。スパークは分かるな? ミリアレフを聖女と知っているならこちらも分かるだろう」
自己紹介しようと立ち上がったミリアレフがキョロキョロしてまた椅子に座る。
「ファブレは私専属の料理人だ。戦闘力はないが、彼の料理がないと私の本気が出せないのだ」
「デバフ?」
ファーリセスの問いにヤマモトが感心する。
「ほう、よくわかったな。さすが元研究員だな」
「勇者様の能力は?」
「簡単に言うと、全ての戦闘スキルが99、人を説得しやすい、彼の料理がないと弱体するの3つだな」
「それだけ? 魔法は使えないの?」
ファーリセスが意外そうな顔をする。
「ああ、そうだが?」
「勇者様、弱い?」
ファーリセスの呟きに場が凍る。
「な・・」
「何を言うんですか!」
ミリアレフがバンと机を叩いて立ち上がり、ファーリセスに食ってかかる。
「ひーん、大声出さないでぇ」
「ミリアレフ落ち着け。弱いとはどういうことかな?」
ヤマモトはミリアレフを抑える。ファーリセスはフードをかぶって顔を逸らして話す。
「だってそうでしょ? レベル99と言っても魔法が使えないなら強い戦士と変わらない。しかもデバフ付き。説得は便利そうだけど戦闘には関係ない。怒ったならゴメン・・」
ミリアレフはファーリセスを睨むがヤマモトは動じない。
「ふーむ、やはりそう思うか」
「「えっ?」」
ファブレとミリアレフの声が重なる。スパークは腕を組んだままで無言だ。
「私は歴代の勇者と比べて戦闘能力はかなり弱いと感じる。しかし研究所で綿密にスキルの調査はしているから、これ以上私に隠されたスキルなどがあるとは思えない。今あるカードで勝負するしかないんだ」
「ヤマモト様・・」
ファブレはヤマモトの自己評価に愕然とした。
自信満々に魔王など楽勝だと言うのをすっかり信じ込んでいた。
「大丈夫です! 私が勇者様をお助けしますから!」
ミリアレフはヤマモトを見上げ、手を握る。
ヤマモトは頷き、周りを見渡して皆に告げる。
「私は勇者としては頼りないが、君たちと一緒なら魔王退治は成せると信じている。力を貸してほしい」
「おう」
「はい!」
「任せて!」
「ボクにできることでしたら」
ヤマモトは椅子に座り直し、テーブルに地図を広げる。
「では細かい部分を詰めて行こうか」
長い会議が終わるともう夕暮れになっていた。
「明日は朝早く出発するから、今日は早めの就寝にしようか。夕食はミリアレフのリクエストでいいぞ」
「ありがとうございます。実は高祖母の日記に書いてあったメニューを一つ思い出しまして・・トンジルというものですが」
「トンジル・・どういうものですか?」
ファブレが聞くがミリアレフは分からないと首を振り、代わりにヤマモトが答える。
「そういえばまだ作ってなかったか。豚汁は豚肉や根菜を入れた味噌汁だ。そうだな・・肉じゃがやカレーの具を味噌汁に入れたような感じだ。海老の味噌汁と同じ白味噌を使う」
「具はどうしましょう? カレーと同じでいいんですか?」
「そうだな・・豚肉の薄切り、玉ねぎ、ニンジン、大根、ごぼう、じゃがいも・・いや、里芋だな」
ヤマモトがひとり納得して頷くが、ファブレには分からない事があった。
「ごぼうと里芋というのはどういうものでしょう・・肉じゃがやカレーには無いですよね」
「ごぼうは土の香りのする細長い根菜だ。太さは親指くらい。まぁ柔らかい木の根だと思えば間違いない。それを木を削るように細切れにする。里芋は粘りのあるジャガイモのような感じだ。大きさはこれくらい」
とヤマモトが指で丸を作る。
「なるほど、大体分かりました。トンジルはスープですよね。他のメニューはどうしましょう」
「豚汁がメインであとはオードブルでよかろう。ああもちろんライスでな」
「分かりました。では・・料理召喚!」
片付けたテーブルの上に、中央に鍋ごとの豚汁とオードブルの大皿、各自の前にライスや取り皿やお椀、水や酒の入ったグラスなどが一度に現れる。
「うわっ、凄い!」
ファーリセスが目を丸くする。
「ヤマモト様、豚汁は上手くできてますか?」
ファブレが鍋からお椀に豚汁を少し取り、ヤマモトがそれを味見する。
「うん、里芋がちょっと記憶と違うが・・美味いぞ」
ファブレの召喚した里芋はジャガイモのようにホロホロと崩れつつも粘りがある物だった。
「よかった」
「これがトンジルですか! いつもの味噌汁とちょっと違いますね」
「おお、食欲をそそる匂いのスープだな」
ファブレが人数分の豚汁をお椀によそう。
「おかず・・オードブルは好きなものをつまんで下さい」
「では冷めないうちにいただこう」
ヤマモトの手を合わせるいつものルーティンが終わると、皆も食事を進める。
ヤマモトとミリアレフはまず豚汁のスープを味わう。
「うん、美味い」
「わぁ、トンジルは味噌汁よりもだいぶ甘いんですね。美味しいです」
ファーリセスはお椀に鼻を近づけてスンスンと匂いをかぎ、フォークに突き刺した里芋を口に入れる。
「不思議な食感と味・・初めての体験」
「おお、こりゃうめーな! 体が暖まる。お代わりくれるか」
スパークは豚汁の具を次々と口へ放り込んでスープを飲み、早々とお代わりを要求する。
「おかずは・・ひとまず唐揚げかな」
「あ、スパーク、この魚に醤油かけて」
「自分でやれよ・・」
「ああっ、このお芋滑ります!」
食事は賑やかに進行した。




