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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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73話 第四の従者

一行はファーリセスが住んでいる借家に集まって作戦を練る。

ファーリセスの家は壁に乾いた薬草が掛けられ、本棚には書物が並び、テーブルには鉱石やそれを砕いたものが無造作に転がっている。釜には何かを煮た跡がこびりついて異臭を放っている。いかにも魔女の住処といった風情だ。

スパークがファーリセスに留守の間の様子を尋ねる。

「魔王城の様子はどうだ?」

「何度か見たけど変わらない。使い魔が行き来するだけ」

「よし、まだ大丈夫か。ちょっとこの図面を見てくれ。城に隠し通路があるそうなんだが、今でも使えるか確認できるか?」

ファーリセスが興味深げに図面を確認する。

「今日はもう暗くなるから無理。明日見てみる」

「ここから魔王城まではどれくらいだ?」

ヤマモトの質問にスパークが簡単な地図を書いて説明する。

「魔物の領域との境目ギリギリを1日北上して、そこから領域に入って魔王城までが半日ってところだな」

「では明日一日は隠し通路の確認と休息、準備。明後日出発の予定としておこう。何かあれば変更するかも知れないがな」

ヤマモトの言葉にスパーク、ミリアレフ、ファブレが頷く。

ファーリセスはキョトンとしている。

「勇者様、魔王退治に行くの?」

「もちろん、そのために来たんだ。君の監視のおかげで随分助かってるよ。それにバーログを見つけてくれたおかげで大勢の兵士が死なずにすんだ」

「えへへー」

ファーリセスはヤマモトの言葉に照れてフードをかぶる。が、何かに気づいてすぐフードを上げ、不安そうな顔を覗かせる。

「スパークも魔王城に行くの?」

「ああ、俺以外に案内できんだろ。一応従者だしな・・」

「私も行く! 勇者様、連れてって!」

ファーリセスが真剣な眼差しでヤマモトを見あげる。

ヤマモトもファーリセスをじっと見つめ返す。

「君のような強力な魔法使いが仲間になってくれれば心強いが・・単なる冒険じゃない。相手は魔王だ。死ぬかも知れんぞ。覚悟はあるのか?」

「大丈夫、私がスパークを守るから! それに美味しいものも食べたいし」

ファーリセスは自分よりスパークを心配しているようだ。

スパークが苦笑いして頭を掻く。

「ああ、いざという時は頼むぜ」

「ではファーリセス、今日から君も従者だ。まぁ決まりは特にない。私の言うことに従ってもらいたいということだけだ。あとで君の能力を教えてもらったり私たちの紹介なんかもしようか。今聞いておきたいことはあるか?」

というヤマモトの言葉に、ファーリセスが何かを受け取るように両手を突き出す。

「ん?」

「聖なるタリスマン、私にもちょうだい!」

「あー、スパークと同じものは品切れでな・・代わりにこれをやろう。スパークに細工してもらってくれ」

とヤマモトが懐から赤い鱗のようなものを取り出し、ファーリセスの手のひらに乗せる。

ファーリセスがそれを宙に透かして見ると、まるで燃えているかのように鱗の表面で赤い模様が揺らめく。

「バーログの鱗だ。協力してくれた魔法使いに渡そうと思ってたんだ」

「わあ、ありがとう、勇者様!」

ファーリセスが得意顔で鱗をスパークに見せびらかす。スパークは羨ましそうだ。

ミリアレフがキョロキョロとヤマモトを見たり自分の手を見たりしている。

「どうした? ミリアレフ」

「あのう・・できれば私にも・・従者の証を頂ければと」

「ああすまないな。君には最高のものを渡そうと思ってな。魔王の鱗とか・・魔王城の宝物庫に何かいい物があるかも知れん」

「それは凄いです! 燃えてきました!」

証というよりただの戦利品ではないのか・・ファブレはヤマモトが思いつきで言ってることは分かったが黙っていた。

「ファブレは何がいい?」

ヤマモトの質問に、ファブレはヤマモトの世界のレシピを書いた古ぼけたノートを掲げる。

「ボクはこれがあれば十分ですよ」

ヤマモトは優しく笑う。

「謙虚な奴だな。もしかしたら伝説の包丁とかがあるかも知れん。まな板ごと切れる奴とかな」

「危なくて使えませんよ!」


「フフ、さて夕飯は・・今日はスパークの好きなものでいいぞ。出発する明後日からは全部私のリクエストにさせてもらうがな」

ヤマモトの言葉にスパークが喜色を浮かべる。

「おお、そりゃありがたい。じゃあ焼き魚がいいな。海のやつ。あと酒」

「分かりました」

ファーリセスが曇り顔で呟く。

「焼き魚? あんまり好きじゃない・・」

「いや、海の魚はこの辺の川の魚とは比べ物にならんぞ。それに小僧の料理の腕もある」

「素材がよければだれでも美味しいものができますよ。腕輪のおかげで食器も出せますから、テーブルを開けてもらえますか?」

ファブレの言葉にファーリセスが乱暴にテーブルの上を片付ける。

「では・・料理召喚!」

各自の前に配られた皿にライスが盛られ、他の皿には5つずつの焼魚が3種類用意されている。

グラスにはエールとお茶、お椀にはスープ、ヤマモトの分には味噌汁。それに醤油の入った皿もある。

「うわぁ、こんなにいっぱい!」

「うーん、たまらん香りだ」

スパークが鼻をヒクヒクさせている。

「ほほう、これは鯖、こっちは鮭、あれはホッケか。こんなに食べれるかな」

「これは定番の鯖の塩焼き、この赤身は鮭をみりん・・甘めの酒に付けて干したもの、ホッケは軽く塩しただけなのでこの醤油をつけて下さい」

「このホッケって奴が酒と合うんだよなあ」

スパークはホッケを皿に取り、慎重に醤油を垂らしている。

「冷めないうちに頂こうか。私は鯖からかな」

「わたしこのみりん干し大好きです!」

ヤマモトが手を合わせたあと鯖を選び、ミリアレフは鮭を選ぶ。

ファーリセスはキョロキョロと目移りしていたがスパークと同じくホッケを選び、骨をはがす。

鼻を近づけてクンクンと匂いを嗅ぎ、頭と尻尾を両手で持って大口を開けてかぶりつく。

尻尾がピンと立ち上がり、猫耳がビリビリと震える。

「美味しい!」

「醤油をつけるともっと美味いぞ。塩辛いから少しだけな」

スパークがファーリセスの皿に醤油を垂らしてやる。ファーリセスがまたかぶりつく。

「さらに美味しい!」

「お口にあって何よりです」

ファブレも鯖の塩焼きとライスを交互に食べ始める。焼魚は焼き加減が命だ。生か干物か何かに漬けたものか、またサイズの違い、網の上の位置などで焼き時間が異なってきて、同時に完璧に焼くのは難しい。だが召喚なら関係ない。我ながら他の料理人に恨まれてもしょうがないとも思える。

ファーリセスはあっという間にホッケを骨だけにすると、スパークの方をじっと見ている。

「こ、これはやらんぞ。他の魚を食え」

「私はこんなに食べられませんから、よかったらホッケもう一つどうぞ」

「ほんと? ありがと!」

ミリアレフの言葉にファーリセスは飛び上がって喜ぶ。スパークに醤油を垂らしてもらい、両手で魚を持ってかぶりつくと、満面の笑みを浮かべた。

「従者になってよかった!」

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