64話 無礼講
ヤマモトが指輪を入手して数日後、ファブレの乗馬がようやく一人前になったころ、
スパークが報告に来たのですぐ集まってほしい、とギルドから使いがあった。
3人が冒険者ギルドのギルド長室に入ると、ハウザー、スパーク、ミハエルが既に揃っている。
スパークが入室してきた3人を見て挨拶変わりに片手を上げる。
「お久しぶりですスパークさん。ご無事で何よりです」
ファブレは頭を下げる。ミハエルが立ち上がりヤマモトに苦笑する。
「やあヤマモトさん。相変わらずの美しさだね。この前はレイコさんを紹介してくれてありがとう。彼女はとても役に立ってるよ。でも僕がゴースト系が苦手なのをちょっと考慮してほしかったな・・前に伝えたよね?」
「そうだったか? それは悪かったな。まぁそのうち慣れるさ」
ヤマモトはしれっと答える。
「た、退治するときは私に任せて下さい!」
ミリアレフがアピールする。
「挨拶はそのへんでいいか? 積もる話もあるだろうが、まずスパークの話を聞かせてもらおう」
ハウザーが静かに告げ、皆は頷いてテーブルにつく。
スパークが皆を見回してから話し出す。
「簡単に言うと魔王の様子は前と変わりがない。魔王はずっと城の奥から出てこないようだ。ただ少し変化もある」
「なんだ?」
ヤマモトの誰何に、スパークが話を続ける。
「魔王の命令を受けたらしき魔物が城を出て、戻ってくるという事が続いている。戦の以前からそういう事は稀にあったが、最近はほぼ毎日だ」
「バーログのような幹部が、何か命令を受けているのか?」
ハウザーが問う。
「いや、そんな強力な魔物ではない。使い魔といったレベルだ」
「なんだ? 買い物のお使いか?」
ヤマモトが苦笑するが、スパークは真面目な顔で答える。
「ああ、そんな感じだな」
「お使いというと、何か情報を伝達するか、物を運んでるんでしょうか?」
ファブレも思いつくことを言ってみる。
「情報を伝えてるかは分からん。魔物は何かを運んでいることもあるようだ。一度植物の実らしき物を落としていったことがある。ああ、それとたまに異臭がするようだ。偵察に使っている小動物が近づくのを嫌がるんだ」
「植物の実と異臭・・錬金術とか、何かの研究かな?」
ミハエルの呟きにヤマモトが頷く。
「そうかも知れないな。歴代の魔王は合成獣の研究をしていたこともあるそうだ」
「その魔物を捕らえて確認することはできないでしょうか?」
ミリアレフの問いにスパークが首を振る。
「城内部の偵察は小動物・・ネズミの目を通して見てるだけだから無理だな。視点が低くて運んでいるものも見えない」
「その魔物の出入り以外に、気になるところはないか?」
「あとは・・そうだな。戦の後にたぶん魔王に報告しに来た強力な魔物が何匹かいたが、全て門前払いか無視かで魔王には会えなかったみたいだな。みんなガックリして帰っていったぜ」
「ふーむ・・バーログが言ってたあの人間とやらは?」
ヤマモトの質問にハウザーが答える。
「そっちは俺とミハエルで当たってみたが、他国や異種族の国に聞いてもそれらしき人物は見つからなかった。まぁ教えてもらえなかっただけかも知れんが」
「そうか。ああ、こっちで魔王城の抜け道の情報があるが、スパークは知ってるか?」
「なに? そんなもん知らんぞ」
ヤマモトが、ハヤミから教わった抜け道を図面に書いてスパークに示す。
「古い情報だから今も使えるかは分からんがな」
スパークは図面を興味深く観察したあと、丸めて懐に入れる。
「そうか。どうする? 俺が戻って確認してくるか? 時間はかかるが」
「いや、やはり悪い予感がする。悠長に待ってられん。なるべく早く魔王城へ向かう。スパークは準備ができるまで待機しててくれ」
「ああ、構わないぜ」
あとは小一時間ほど皆が思いつく細々としたことを話しあい、擦り合わせが終わる。
スパークが疲れた風に椅子にもたれかかる。
「ふう。景気づけに美味いものが食いたいな。何しろ俺は戦勝会も参加してないんだ」
「そうでしたね。ヤマモト様、いいですか?」
「ああ、もちろんだ。オードブルでよかろう」
「分かりました。大皿を3つと、皆の分の取り皿を用意してもらえますか?」
ハウザーが頷いて職員を呼び、皿が用意される。
「では、料理召喚!」
一つ目の大皿には巨大な鶏の丸焼きが、二つ目の大皿には揚げ物や肉や魚の焼き物などが並び、三つ目の皿にはサンドイッチやフルーツなどが出現する。
「おお! こりゃ凄いな!」
スパークが喜色を浮かべて手を擦り合わせる。
ハウザーは無言で棚から酒のビンを数本取り出す。
「では無礼講といきましょう。魔王討伐を祈願して、乾杯!」
ミハエルが音頭を取り乾杯のあと、自由に食事やおしゃべりの時間となる。
ファブレも酒に口をつけてみたが、喉が焼け体が熱くなる感覚に一口でギブアップする。
ミリアレフはあっという間に顔が真っ赤になり笑い出し、ミハエルにベタベタくっついている。
後で後悔することだろう。ヤマモトは何杯飲んでも顔色一つ変えない。
「いよいよ魔王討伐ですか。ヤマモトさんは魔王を倒したら元の世界に帰るんですか?」
手にミリアレフが抱き着いたままのミハエルが、前にファブレがしたのと同じ質問をヤマモトにぶつける。
「自分でも優柔不断だと思うが、それはまだ分からない」
「珍しいですね、いつも即決のヤマモトさんがそんなに悩むなんて」
ファブレはヤマモトを見上げる。ヤマモトは平然としており、その表情からヤマモトの感情を伺い知ることはできなかった。
「ファブレ、君には魔王が城の奥から出てこない理由が分かるか?」
ヤマモトから急に聞かれてファブレはうろたえる。
「申し訳ありませんがさっぱり・・やはり誰かが封じているということなんでしょうか」
「そうかも知れん。だがもしかすると・・魔王は君と同じなのかも知れない」
「えっ?」
「いや、酔った席での戯言だ。忘れてくれ」
ヤマモトは手を振って発言を取り消したあと、ミハエルの口にフォークで刺した料理を運んでいるミリアレフを止めに向かった。




