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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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61話 従者レイコ

食糧庫は常に扉が開け放たれている。中は無人だった。

壁際の棚は非常に重そうに見え、とても動きそうにないように思えるが

留め金を外し、裏側のスイッチを入れることで動くようになっている。

ミハエルに教わった通りの手順で音もなく棚が動き、地下への階段が現れる。

階段を降りると自動的に入口が閉まった。

ここは城からの脱出路の一つとして作られたが、現在は出口が埋まり、脱出路としてはもう使うことができないということだった。

通路は大人一人が立って歩いていける程度の大きさだ。ヤマモトは松明に火をつけて先に進む。

脱出路は追手を撒くために分岐がいくつもある。ヤマモトはミハエルから教わった通りの順路を進む。

しばらく進むと松明が照らす先に白い影が浮かび上がり、ヤマモトは歩を止める。

どうやらスケルトンのようだ。更に定期的に向いている方向を変えている。

「妙だな。ミハエルから警護はいないと聞いているが・・しかも魔物とは」

ヤマモトは独り言ちる。以前と同じように通路脇の石を投げつけ、頭の上半分を破壊されたスケルトンが崩れ落ちる。

だがヤマモトが先に進もうとしたところで骨の山が逆再生のように自動的に組みあがり、頭蓋骨の上半分がないスケルトンが立ち上がった。

「む?」

地下は狭い通路が予想されたためいつもの大剣は持ってきていない。

ヤマモトは腰の小剣を抜き放ち、強烈な突きを放つとスケルトンの肋骨や腰骨がはじけ飛ぶ。

骨が散らばったスケルトンをヤマモトがじっと観察する。また再生しようとしているようだが

腰がないので両足がつながらないようだ。諦めたように動かなくなる。

「ふーむ、強い再生力の場合は術者が傍にいるんだったか?」

ヤマモトが呟き、先へと進む。


ヤマモトが先に進むにつれ、だんだんとスケルトンの数が増え始める。一匹ずつ倒して進むが、

聖剣があるとされる部屋の前では5、6匹のスケルトンがたむろしているのが見える。

「ちっ、面倒な・・」

小手に封じられた爆裂魔法を使えば一網打尽だろうが、上に爆音が響く可能性や、場合によっては通路の天井、城の床が抜けるかも知れない。ヤマモトが小剣を抜き放ったところで通路に声が響く。

「愚かな盗人に災いあれ・・」

ヤマモトは憮然として反論する。

「私は盗人じゃないぞ。勇者だ。魔王を倒すために聖剣が必要だから取りに来ただけだ」

所有者の許可をもらっていないのは黙っておく。

スケルトンもヤマモトに気づいたが襲ってはこない。ヤマモトの前に靄が集まりだし、人の形を取る。まるで人形のように整った顔立ちの少女だ。古めかしい子供用のドレスを纏っている。

「私の知ってる勇者様と違う・・」

少女がヤマモトを見上げる。

「聖剣を持っていたのは私の前の代の勇者だ。もう何十年も前に元の世界に帰ったよ」

「やっぱり・・そうなんだ」

少女が泣き出す。ヤマモトは困惑する。

「君は何なんだ? 誰かに言われて聖剣を守っているのか?」

「ううん、私は勇者様の従者だったの」

少女が自分の境遇を話し出す。名はレイコ。アンデッドを使役する強力なゴーストで、

ヤマモトの前の勇者に名前を付けられ、従者をしていたという。

魔王との闘いで回りの魔物を道連れにして自爆し、何年か経って復活したが当然誰もいない。

勇者の気配をたどってここにたどり着き、聖剣を守っているということだった。

「そうか・・君が仕えた勇者はもういない。君は解放されたんだ。さぁ天へ帰るといい」

ヤマモトは優しく諭すが、

「そうやって昇天させようとしないで! 天国なんて退屈なとこに行くなら死んだままの方がマシよ!」

「ええ?」

ゴーストは心残りが無くなれば昇天するのではなかったか。レイコはヤマモトの常識を覆すゴーストのようだ。

「はぁ・・とりあえず聖剣はもらっていいかな?」

「私のこれからの仕事を考えてくれたらね!」

レイコの答えにヤマモトが頭を押さえる。なぜ聖剣の入手にゴーストの仕事の斡旋をしなければならないのか。

「じゃあ君の能力を教えてくれるか?」

「うん。えっと、アンデッドの使役。スケルトンの他にゾンビやグール、ワイト、少しならヴァンパイアも召喚できるよ。あと浮遊、透明化、壁抜け。でも物に触れないから何かを盗んだり、ナイフで暗殺とかは無理。最後の手段が自爆。自分でも使ったら昇天すると思ってたけど、復活に時間がかかるだけみたい。あと昼間は外に出られないからね! 勇者様は情報集めとか夜間の警備とかで使ってくれたよ。とっても便利だって」

「なるほど。君たちのパーティに聖女はいたのかな?」

「あっ無理、パスで」

少女はあっさりと全否定する。ミリアレフと相性が悪いなら自分のパーティには入れられない。

とすると・・

「じゃあミハエルに仕えるのがいいだろうな。城の中をすり抜けて情報集めなんて優秀すぎるスパイだ」

「あっ、あの目の色が違うイケメン王子? それなら大歓迎!」

レイコは一も二もなく頷く。

ミハエルなら可愛らしい少女は紳士的に扱ってくれるだろう。たぶんゴーストであっても。

ヤマモトは強引に判断し、イヤリングを取り出す。

「いきなり行くと驚くだろうから、私が話しておこう」

イヤリングに手を触れ、ミハエルの応答を待つ。

「ミハエルか。事実だけ言うぞ。聖剣を守っている少女がいた。彼女は先代勇者の従者でレイコという。聖剣の守護の任務から外れたら君の役に立ちたいというんだ。壁抜けや透明化など、情報集めに非常に有能だぞ。よくしてやってくれ。では本人を行かせる」

一方的に言い終わると通信を切る。

「これでいい。あとはミハエルと直接やってくれ。なに、泣き落としすれば楽勝だ。場所は分かるかな?」

「城のことは何でも分かるよ! ありがとうお姉さん、じゃなかった勇者様!」

レイコの姿は掻き消え、スケルトンが全て崩れ落ちた。


ヤマモトは扉を開け、聖剣が安置されている部屋へ入ると、そこにも骨の山が散らばっている。

簡易的な祭壇の上には一振りの剣が鞘ごと置かれている。聖剣で間違いないだろう。

ヤマモトは剣を鞘から抜く。ヤマモトの体に力が漲る。

刀身は水に濡れたような妖しい輝きを放ち、とても何十年も放置されていたとは思えない。

ヤマモトは剣を鞘に戻して腰に吊るし、部屋を出る。


「しかしゴーストの従者とはな・・」

一瞬だけゴースト系は苦手だと言っていたミハエルの身を案じたが、すぐに夕食はどうしようという考えに取って変わられた。

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