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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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6話 トンカツ

「そろそろカツ丼が食べたくなってきた。だから先にトンカツを作ろう」

ヤマモトが朝食を食べながら突然そんなことを言い出した。

朝食はパンに目玉焼きにサラダというもので、召喚ではなくファブレが作ったものだ。

料理召喚のため味を覚えたり、素材や調理法を詳しく知る必要があるため、手料理も作るようになったのだ。

「トンカツがないとカツドンとやらができないんですか?」

「そうだ。カツ丼はトンカツをご飯に乗せるものだからな」

ヤマモトはパンは左手で、目玉焼きやサラダは右手のハシで器用に食べている。

「なるほど。トンカツとはどういうものです?」

「豚肉を厚切りにして、小麦粉と卵とパン粉をつけて揚げたものだ」

「揚げたもの・・とはどういう料理法ですか?」

「高温にした油の中にしばらく入れることを揚げるという。こちらの世界ではあまり一般的ではないようだな」

「ああ、お祭りの屋台で見たことがあります。油は高価ですから家庭では無理ですね」

「油は植物油でも動物油でもよい。本格的には動物油だな」

「でもそれなら召喚しなくても普通に作れそうですよ。お金はかかりますが」

「そうだな・・一度実際に作ったほうがトンカツがどういうものかよくわかりそうだ。今日、市場で必要なものを買ってきて欲しい。お金は出すから」

ごちそうさま、といつものように両手を合わせるヤマモト。

ファブレが食器を片付ける。

「分かりました。しかし・・」

「ん?」

「ヤマモト様は料理のレシピにも詳しいようですが、自分で料理されないんですか?」

「うっ・・」

コップに水を注いでいたヤマモトの手が止まり、しょんぼりした顔で言う。

「実は料理は好きなのだが、禁止されているのだ」

「禁止? どうしてです? 誰からですか?」

「私が料理をすると鍋が爆発したり、料理が消し炭になったりするから、親や周りから禁止されたのだ」

「はぁ?」

ファブレは理解できなかった。

どうして料理をして鍋が爆発するのだろう。焦げるのは分かるが消し炭もありえない。

「意味が分かりません。料理は手順通りにやれば誰でもできますよね? 産まれながらの呪いとかですか?」

「私は手順に従ってやるのが嫌いだ。量を図るのも、時間を図るのも嫌いだ」

ヤマモトは腕を組んでプイと横を向く。

ファブレは理解した。説明を聞かず自分流でやろうとする人はどこにでもいる。

「それは料理ではないですね。どちらかというと錬金術の実験です」

「わたしは錬金術をしていたのか・・どうりで爆発するわけだ」

ファブレの皮肉に、ヤマモトは納得して大きく頷き、水を飲みほした。


ファブレは昼間に市場で必要なものを買い求め、夕方にトンカツへの挑戦が始まった。

「肉は少し叩いて柔らかく、厚さを均一にする。軽く塩コショウを振っておく。油の温度はパン粉を入れたらすぐ浮き上がるくらいがちょうどいい。肉に小麦粉、溶き卵、パン粉をつけて油に入れる。」

ヤマモトが指示し、ファブレが調理する。

(なんで自分で言ってることを自分では守らないんだろう・・)

油鍋に肉を入れると大きな音があがり、ファブレは驚く。

「揚げあがりのタイミングはいくつかコツがある。泡が小さくなる、音が変わる、肉をつまむと振動する、などだな」

「なるほど・・」

ファブレは真剣に油鍋を見つめ、じっとタイミングを伺う。

そして音が高音になり、泡が小さくなってきた。

「もうよさそうだ。少し網の上に置いて余分な油を切る」

ファブレは肉を油から引きあげ、網に乗せる。

「うむ、見た目は完璧だな」

「これがトンカツですか・・」

固くなったパン粉が肉の周りをしっかりと包んでいる。まるで魔法のような調理法だ。

「ついでにフライドポテトも作っておこう」

ヤマモトが棒状に切っておいたじゃがいもを油に投入する。

「今味付けした方がいいかな?」

ファブレは油鍋に塩を振ろうとしているヤマモトを慌てて止めた。


トンカツはとても美味しかった。

「僕がこれを作ったんですね、感激です!」

口の周りを油でベタベタにして喜ぶファブレを、優しく見つめるヤマモト。

「ああ、このトンカツを卵とタマネギと一緒に和風のつゆ・・うどんのつゆを濃くしたようなもので軽く煮て、ご飯に乗せればカツ丼だ」

「一度揚げたものを更に煮るなんて・・何かもったいない気がしますね」

「冷めたトンカツを美味しく食べる料理だったのかも知れん」

「なるほど」

トンカツのことはよくわかったので、カツ丼も問題なく召喚できそうだ。

フライドポテトも美味しかった。が、二人とも食後に少し気分が悪くなった。

「トンカツは必ずキャベツと一緒に食べるのだ。忘れていた・・」

とソファに寝転がったヤマモトが呟いた。

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