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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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54話 石料理

帰宅した翌日、ヤマモトとファブレは魔法研究所へ向かう。

召喚魔法のレベルの上がりやすい方法について、ラプターに伝えるためだ。

ミリアレフは神殿に経過を報告するとのことで、別行動になった。


早速ラプターの研究室に通されると、驚いたことに掃除が行き届いている。

嫌な予感がして全力で掃除をしたとのことだった。ファブレはなんだか残念だった。

「さて、今日はどんな要件かな?」

ラプターが余裕の表情でお茶を飲む。

「ああ、実は前に話していた召喚魔法のレベルが上がりやすい方法が分かった」

「ほう! どんな方法だったんだ?」

「本人からの方がよかろう。ファブレ、話してやってくれ」

ファブレは頷き、順を追って話す。

ヤマモトから聞いた食品サンプルの話。

自分の召喚にも食べられないものが混じっていること。

全てが食べられないものは召喚できなかったが、串焼きの串をレイピアにしたものは召喚できたこと。

それによって魔力が枯渇し、経験値が多く入手できたこと。

ラプターの目が見開かれる。

「そうか! 被召喚物に対する術者の定義、概念が重要なんだ! 術者の定義通りのものは魔力消費が少ないから経験値も少ない。術者でも被召喚物とみなすことができない、概念から外れたものは召喚に失敗する。だが術者がかろうじて被召喚物と見なせるもの、仮に限界被召喚物とでも言おうか。限界被召喚物は魔力消費が多くなり、その分経験値も多くなる。言われてみれば納得できるが、なかなか試そうとはしないものだ。小物召喚かつ特殊スキルだったな。猫もそうだった。いや特殊スキルだけが条件か? 確認がちと厳しいぞ。後で条件の確認要っと」

ラプターは早口でまくし立ててメモを取っている。

他人に分かりやすく説明する気はないらしい。

「俄然興味深くなってきた。限界被召喚物は術者の認識で変わってくる・・いや被召喚物の定義そのものを深い思い込みなどで誤って認識していれば、本来の被召喚物の定義から外れたものでも召喚できるんじゃないか? これが合っていれば北派の奴らは腰を抜かすぞ」

ファブレには何を言っているのか分からなかったが、ラプターが何か思いついたようだ。

ラプターが真面目な顔でファブレに言う。

「試しに石は料理だと心底から信じながら、石を召喚してみてくれ」

「石は料理じゃないですよ! 何を言ってるんですか!」

「どの世界も学者ってやつは変わらんな・・」

ヤマモトは頭を押さえて嘆息する。


ラプターの独り言が落ち着いたところで、ヤマモトがラプターに釘を刺す。

「ファブレは実験や研究に協力することはできん。もし攫ったりしたら研究所が無くなると思え。あとは自分で何とかしてくれ」

「そうか。残念だがしょうがない・・いや、善意でわざわざ教えに来てくれたのに申し訳なかったな。後はこっちで調べてみる。もし何か発見があれば連絡しよう」

ラプターがいつもの雰囲気に戻ってファブレはほっとする。

ラプターはファブレにも分かるように話し出す。

「そうすると猫の召喚士は何とか猫と呼べるような物を召喚してたんだろうな。猫科の大型の猛獣とか、服を着た猫、あるいは猫の縫いぐるみとか」

「縫いぐるみも猫として召喚できるんですか?」

「さっきも言ったが、他人がどう思うかは関係ない。猫の召喚を使う人が縫いぐるみは猫だと考えていれば召喚できる。生卵は僕にとっては食べ物じゃないが、ヤマモトにとっては食べ物に入る。そういうことだ」

ファブレも納得する。

「さっきの話はそういうことだったんですか。でも石を料理だと思い込んで出すより、美味しい料理を出すほうがいいんじゃないですか?」

ヤマモトが頷く。

「ぐうの音も出ない正論だな」


ヤマモトがラプターに尋ねる。

「今日はもう一つ要件があって来たんだ」

「ん、なんだろう?」

「私のことだ。戦闘スキルが上限でも魔法が使えず、敵の搦め手に弱い。何か戦闘力を上げる方法がないかと思ってな」

ラプターは少し首を傾げ、指を1本、2本、3本と折っていく。

「すぐに思いつく強化は3つだな。まず上限突破。通常の上限である99を超えて戦闘スキルのレベルを上げるというものだ。だがスキルの能力が上がるだけだから、今回は解決にならんだろう」

「そうだな。剣の腕が上がっても意味がない」

ラプターは頷いて話を続ける。

「2番目は外部補助。装備品に宿った魔法や特殊能力、あるいは魔法のスクロールを使うというものだ。魔法のスクロールは出発前に呪文を込めなきゃならんから、事前に必要な呪文、敵の弱点などを知っておく必要がある」

「戦闘中に必要なスクロールを探して広げるのはちょっと無理だな」

「まぁそうだろうな。3つ目は奥義だ。例えばヤマモトが使ってる大剣なら触れずとも敵を切るとか、通常ありえない速度で投げるとか」

「それは今でも出来る」

ヤマモトの言葉にラプターは驚くが、すぐ納得した表情になる。

「レベル99ともなると奥義と変わらないのかも知れんな。じゃあ装備品だな。あの大剣は業物だが魔法の品ではないだろう?」

ラプターが部屋の入り口に立てかけられた大剣を指さす。

「ああ、手にしっくり来るから使っているだけだ」

「過去の勇者パーティは全身を魔法の装備で固めていた事も多いと聞く。それだけでも大分戦力アップになるんじゃないか?」

「私はダンジョン探索が好きじゃないからな・・まぁ背に腹は代えられんか。ありがとう。タメになった」

「お役に立てれば何よりだ」

ラプターが微笑む。基本的にはいい人なのだ。暴走しなければ。


「さて、今日はこんなところか?」

「ああ。じゃあお待ちかねのお昼にしようか。ラプターはピザでいいのか?」

「もちろんだ。実はずっと食べたくて来るのを待ってたんだ」

ラプターは笑顔で手をこすり合わせる。

「私もピザだが、シーフードがいいな」

「分かりました。じゃあいろんな種類にしましょうか」

「それで頼む」

ファブレの提案にヤマモトが頷く。皿を3つ並べる。

「料理召喚!」

3つの皿にそれぞれピザが出現する。3つとも半分ずつで乗っている具材が変わっている。

「おお、これは凄い! 6種類も食べられるとは」

ラプターが喜びの声を上げる。

「その代わり少し小さめにしました」

ヤマモトが具材を確認していく。

「ふむ、マルゲリータ、シーフード、タルタルチキン、ベーコンエッグ、カレー風味のジャガイモ、玉ねぎとマヨコーンか。完璧なチョイスだ」

「とりあえず前と同じのから・・やはり美味いな。次は・・ほほう、これはチーズとは違うんだな」

ラプターはもう2個目のマヨコーンをかじっている。ヤマモトは手を合わせた後シーフードを選ぶ。

「エビ、アサリ、イカか。贅沢だな。うむ、美味い」

ファブレも食べ始める。我ながらどれもいい組み合わせになったと思えた。

「これがカレー風味か? そうか。この子はカレーそのものを作れるんだったな。ぜひ食べてみたいが・・」

ラプターがカレー風味のピザを食べながらファブレの方を見る。

「うちに来ればいつでもご馳走するぞ。たまには外に出たらどうだ?」

「うっ・・前向きに検討しよう」

ラプターは外に出るのが嫌いなようだ。

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