5話 1辛200、チキン煮込みにイカミックス
「ただいま・・」
「ヤマモト様お帰りなさい。お疲れのようですね」
「少しな。洞窟は嫌いだ。ジメジメしてうっとおしい」
ヤマモトはファブレを外に置いて一人で洞窟に入り、探索をしてきた。
「こんなときは・・やはりカレーだな」
「カレーですか、僕も名前は知っています。異世界の代表的な料理ですね」
「ほほう、有名なのだな」
ヤマモトが驚く。
「勇者様がカレーが恋しくなり、こちらの世界の素材で何とか再現して食べようとするのは勇者話の定番ですから」
「まさに今の私だな。では作ってくれるか?」
「名前は知ってはいますが・・食べたことがないのでどんなものか教えて下さい」
「うむ・・まずふっくらと炊き上げた白い米。それに前に作ったビーフシチューのようなルーをかける。ただしカレーのルーは黄色く、スパイスが入っており辛い。」
「スパイスですか?」
「スパイスは複数の香辛料・・ショウガやトウガラシやコショウは分かるな? あれと同じように辛みのある根菜や種などを炒めて粉やペーストにしたものだ。ウコンやターメリックが無いのは残念だが、無くてもそれに近いものはできるだろう」
「コショウも見たことはありますが、味は分かりません」
「こっちでは希少だからな・・見かけたら買って味を覚えてもらおう」
「ありがとうございます。ではやってみます」
ファブレは想像する。炊いた白い米・・これはいい。ビーフシチューを黄色くしたようなルー、これも大丈夫。それに辛みを加える。何とかなりそうだ。
「料理召喚」
皿の上には白い米、それに肉や野菜の入ったとろみのある黄色いルーがかかっている。
「おお、見た目は完璧なカレーだ。ではいただこう」
ヤマモトは手を合わせ、今回はいつものハシでなくスプーンで掬い、口に入れる。
そして動きが固まった。
「辛い!」
コップの水をガブガブと飲み、またコップに水を注ぎ、それも全部飲んで、舌を出して手で扇いでいる。
「この世の全ての辛さが凝縮されたような、凄まじい辛さだ」
「さすがにそこまでではないと思いますが、辛すぎたでしょうか・・」
「これは辛すぎるな。それにスパイスは炒めて香りを出すのも重要だ。あとデミグラスソースが強すぎるな。これではカレーではなく激辛ビーフシチューだ」
「すみません。辛さのイメージが大きかったようです」
ファブレは頭を下げる。炒めたスパイスの香りや、食べたことのないスパイスの風味はやはり想像できない。
「まぁこれくらい辛いのが好きという者もいるが・・ちょっと私には無理だな。君も食べてみろ。ほんの少しでいい」
「では・・」
ファブレはスプーンに少量取り、口に入れる。
「確かに辛みはありますが、それほど辛いでしょうか?」
ファブレには耐えきれない程の辛さではなかった。
「ん・・そうか?」
ヤマモトももう一口食べるが、やはりその後水をガブ飲みする。
「やはり私には辛すぎる・・ああそうだ。私はカレーは甘口派なんだ」
「は?」
意味が分からない。カレーは辛いものだと言ったのはヤマモトだ。
「カレーは好きだがあまり辛いのは駄目なんだ」
なんたるワガママなセリフだろうか。王様や貴族でも辛くない辛口料理を作れなんて言わないだろう。
「ヤマモト様の世界の料理は、食べる人を甘やかしすぎです」
ファブレはハッキリ告げた。