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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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45話 ドラゴンスレイヤーに憧れて

二度目の出撃をしたヤマモトたちは日没前に戻ってきた。

魔王軍は日没と同時に撤退し、撃退を果たした王国軍の鬨の声が平原に響く。

テントで待機していたヤマモトたちも安堵する。

「さすがに魔物でも夜通しとは行かんか」

「た、助かりました・・神よ、感謝します」

ミリアレフがベッドに倒れ込む。


ファブレがそろそろ夕食のメニューを、と考えたとき

「おう、邪魔するぜ」

と言いながらテントに入ってきたのはスカウトのスパークだ。入ってくるまで全く気配がしなかった。

「いやー二人ともご活躍だったな。サイクロプスだのワイバーンだのレイスだの。重症の兵士も何人も助かったし。しかもドラゴンを一人で倒しちまうとはな」

ヤマモトが神妙な面持ちで頷く。

「君のドラゴンスレイヤーになる夢を奪ってしまって悪かったな」

「俺じゃねえし! 全く・・。ミハエルは多忙で動けんから俺が変わりに伝言に来た。あんたらは朝まで休んでいてくれ。夜襲は軍や冒険者で何とかする。まぁドラゴンの夜襲なんかはあんたに頼らざるを得ないがな。明日の昼間も狼煙があれば救援を頼む、何か重要なことがあればイヤリングを通して連絡する、ってことだ」

「了解した」

「今日はそんなとこだ。坊主の料理も食っていきたいが、俺も多忙でな」

「わざわざありがとうございました。いつでも食べに来てくださいね」

ファブレが礼を言う。

「ああスパーク、これを」

ヤマモトがスパークに手の平ほどの薄いものを投げ渡す。

「なんだこりゃ? 何かの魔物のトゲ・・鱗か? いやまさか・・」

ヤマモトがニヤニヤしながら言う。

「ドラゴンの逆鱗だ。お前にやるんじゃないぞ。ドラゴンスレイヤーに憧れて冒険者になった後輩とやらにちゃんと渡してやってくれよな」

「分かったよ! ドラゴンスレイヤーに憧れて冒険者になったのは俺だよ、悪いかよ! ありがとよ!」

スパークは背を向けてヤケになったような声で礼を言い、スキップしながら去っていった。

「また一つ、勇者様が世界の真実を暴いてしまいましたね」

ミリアレフがベッドにうつ伏せになったまま呟いた。

ファブレはミリアレフの精神状態を心配する。


やはりまだ肉や魚は無理で、夕食はヤマモトのリクエストで

パンと野菜サラダと召喚したコンソメスープというごく一般的な軽い献立になった。

食欲がないときでもいつものメニューは習慣的に口に運べる。

ミリアレフは夕食を少し食べた後すぐ寝てしまった。ヤマモトとファブレも明日に備えて早めに床に就く。

「戦闘はいつまで続くんでしょうか」

「敵司令官を倒せば終わりだろう。だがどんな奴か、どこにいるのかまだ分からない。スパークに情報集めを頑張ってもらわんとな。土産もやったし」

「司令官はやっぱり強いんでしょうね」

「少なくともドラゴンより強いはずだ。魔王軍は自分より強いやつにしか従わんからな」

「ええっ? そんなに強いんですか?」

ファブレには衝撃的な話だった。しかしヤマモトは冷静に断言する。

「だが魔王よりは弱い。なら楽勝だ」

ファブレはヤマモトの力強い言葉に安心する。勇者は魔王より強い。魔王の配下など問題にならないだろう。

「さすがヤマモト様です。安心しました。ではおやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


翌朝、ファブレは遠くから響く爆発音で目が覚める。

テントから出て外を見ると、王国軍が何から大きな音を出す物を使っているようだ。

後ろからヤマモトもやってくる。

「ほほう、大砲だな」

「おはようございますヤマモト様。あれが大砲ですか。初めて見ました」

ヤマモトの言葉にファブレも納得する。

「夜間のうちに準備しておいたんだろう。今日は少しは楽できるといいがな。狼煙もないし食事にしようか。今日はフレンチトーストの気分だな」

「分かりました」

テントに戻るとミリアレフは耳をふさいで寝ていたが、鳴りやまないため渋々起きてきた。

体力は大分戻ったようだ。

「お腹減りました・・」

無理もない。昨日はクタクタになるまで働いたのに、昼も夜も軽くしか食べていないのだ。

ファブレは食堂で牛乳を分けてもらい、グラスに注いでから料理を召喚する。

ヤマモトのリクエスト通りフレンチトーストだ。

「美味しい! なんですかこの夢のような料理は!」

ミリアレフは大喜びでフレンチトーストを平らげる。ヤマモトの許しも得て予備の皿の分も食べてしまった。

食器を片付けながらファブレがヤマモトに聞く。

「ヤマモト様、朝の召喚も使ってしまいましたし、ボクは昼まで食堂の手伝いに行ってもいいでしょうか?」

「ああ構わないぞ。何かあれば使いをやろう」

「ありがとうございます。では行ってきますね」


昼までという短い時間であっても、ファブレの食堂の手伝いは大歓迎で迎えられた。

遠征軍も人数が多かったが、ロアスタッドの防衛軍は更にその何十倍もの人数なのだ。調理場は常に人手不足で忙しい。

料理長の怒声が響き、出来上がった料理を運ぶ人と皿を下げる人がぶつからないよう行き交う。ひたすら食材を刻む人、黙々と皿を洗う人、巨大な鍋から延々と皿に料理を盛って並べる人・・皆自分の仕事に懸命だ。

あっという間に昼になり、ファブレは周りに断ってテントに戻る。

ヤマモトの置手紙で狼煙が上がったので救援に向かう、とある。残っている赤い狼煙は2つだった。

ファブレは自分に任されたときのメニューを考えながら、二人の帰りを待つ。


「ヤマモト様、ミリアレフさん、お帰りなさい!」

ファブレが二人を迎える。ヤマモトが馬から降りながら言う。

「ただいま。食堂はどうだった?」

「戦場のような忙しさでした。っと、実際に戦場で戦ってるヤマモト様に失礼ですね」

「気にするな。この人数を賄うのはとてつもない作業だろうな」

ミリアレフは昨日と違い大分余裕が出てきたようで、ちゃんと馬から降りる。

「昨日の激戦でレベルアップしたみたいです! でもポーションのあの味は何とかならないですか! そうだ、ファブレさんなら美味しいポーションなんて物も作れるんじゃないですか?」

ファブレが冷や汗を垂らす。

「美味しいポーションですか? そんなものがあるといいですね」

「ああ、大儲けできそうだな」

「そうですよね、作れるんならとっくに作ってますよね」

ファブレがポーションを作れることはミリアレフには黙っておいた。日記を読んだら舌を抜くぞと脅しても無駄なのだ。とても秘密を守れるとは思えない。

「今日の昼食はこれというものが浮かばないな。ミリアレフの食べたい物で構わないぞ」

「えっ、いいんですか! 何にしよう・・」

ヤマモトの言葉で、ミリアレフの脳裏から美味しいポーションの事は消えた。

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