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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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40話 出発

翌朝、最終点検を済ませたヤマモトたちは冒険者ギルドへ向かう。

ギルド前は馬車が何台も並び、出発する冒険者、その見送り、荷運びの人足などで大賑わいだ。

腕を組んで準備を見守っていたハウザーがヤマモトに気づき、声をかけてくる。

「おう、来たな。早速ギエフと顔合わせさせよう。おーい、ギエフ!」

男が顔を俯かせたままセカセカと早歩きで近づいてくる。

ひょろ長い、という表現がピッタリの痩せぎすの男性だ。

髪には白髪が多く混じり、生気が乏しいためか老け込んで見える。

「ハウザーさん、やっぱり俺にはリーダーなんて無理ですよ。全然自信がないです」

「ここまで来て何を言ってるんだ。こいつがギエフだ。頼りなく見えるが王国軍の小隊長の経験もある。彼女が勇者ヤマモトだ。力を合わせてやってくれ、頼むぞ」

ギエフは顔をあげ、ヤマモトを見ると口をポカンと開けてしばらく動きが止まる。

「ヤマモトだ。よろしく」

ヤマモトは微笑し手を差し出す。ギエフは手をズボンにゴシゴシとなすりつけてから顔を真っ赤にして握手する。

「ギギギエフです。ゆ勇者様とお会いできて光栄です」

周りがざわめく。

「おお、あれが勇者様か」

「うわあ、すっごい美人・・」

「なんて凛々しい・・まるで戦女神のようだ」

普段は気にしてなかったがやはりヤマモトの美貌は目立つ。

ファブレはなんだか誇らしい気持ちだった。

見られるのに慣れているヤマモトは平然としている。

「ヤマモトでいいぞ。これからは仲間だ。簡単に予定を教えてくれないか?」

「は、ハイ。物資の積み込みが終わったら全員で出発します。勇・・ヤマモトさんたちの馬車はあちらです。御者は腕利きを二人用意しました。夜になったら途中の宿場町や村などに泊まる予定ですが、場合によっては野宿になるかもしれません。長い列になるため、敵襲など緊急の場合は長い警笛、休憩などで止まる場合は短い警笛を2回鳴らします。また定期的に伝令を走らせますので、何か気づいたことがあればその者に伝えて下さい。私は前から2番目の馬車にいます。ヤ、ヤマモトさんたちの馬車は列のほぼ中央です」

ヤマモトは頷く。

「分かった。緊急の場合は直接そちらに向かう。出発の合図まで自由にしていても構わないか?」

「まだしばらくかかりますので、大丈夫ですはい」

「ありがとう。分かりやすい説明だった」

ヤマモトは微笑する。またギエフの顔が赤くなる。

ギエフから離れるとすぐ、見知った顔が遠くから声をかけてくる。

「おーい! 大変なことになったな」

「あ、パッサールさん!」

ファブレが手を振る。

「俺も同行することになった。いやー勇者がいるなら安全は保障されたようなもんだな」

「え? パッサールさんも行くんですか?」

「ああ。冒険者ギルドから、金を出すから討伐に参加する冒険者に無料で牛丼を作ってくれと頼まれてな。開店前の最終テストにちょうどいい。宣伝にもなるし、本部から食材を配送する練習にもなっていい事づくめだ。ただし行きだけだがな。帰りまで待ってられん」

「そうだったんですね。でもギルドマスターが同行しちゃっていいんですか? 料理人ギルドは大丈夫です?」

「あー俺には机仕事は向いてないからな。こっちの方がいいわ。カンディルが何とかするだろ」

ファブレはカンディルに同情する。パッサールはヤマモトに向き直る。

「ヤマモト、あんたも食べに来て大声で世界一うめぇ! とか言って宣伝してくれよな。あんたの発案でもあるんだし」

「そこまではサービスしないが、必ず食べには行こう」

ヤマモトが苦笑する。

「よし、言質は取ったぜ。じゃーまたな」

パッサールは背を向けて手を振る。


テオドラとリンが小走りで近づいてくる。

「ヤマモトさん、ファブレくん、ミリアレフさん。お気をつけて・・これ二人で作ったお守りです」

ヤマモトが笑顔でお守りを受け取る。

「おお、ありがとう。これがあれば安心だな」

「お守りですか?」

ファブレが受け取ったお守りを見る。かわいらしい赤い袋に、何やら入っているようだ。

「こちらの言い方だと、タリスマンだな。開けちゃダメだぞ。そういうものなんだ」

「あっ、ミリアレフさんにはこういうのはマズかったでしょうか?」

リンがミリアレフにお守りを渡すのを躊躇する。

「大丈夫です。神はやり方が違っても、気持ちが籠っていればそれは正しいとおっしゃってます」

ミリアレフは構わずにお守りを受け取る。リンは安堵する。

「お姉さま、ファブレさん、気をつけて行ってらっしゃいませ・・こちらの方が聖女様ですの?」

「ミリアレフです。神殿より聖女の二つ名を授かっています。以後お見知り置きを」

ミリアレフがテオドラに向かって簡潔に自己紹介する。

「まぁなんて素敵なお髪・・ミリアお姉さまとお呼びしても?」

「構いませんよ。神殿ではそう呼ぶ子もいましたから」

テオドラはなぜそんなに姉が欲しいのだろう・・ファブレには分からなかった。


やがて出発の合図の笛が周り中で鳴り響く。3人はリンとテオドラの手を握ったあと、馬車に乗り込む。

道の両脇は見送りの人たちで埋め尽くされている。

母親に抱えられて、出発する父親に向かって手を振る幼子。

目を閉じて両手を合わせ息子の無事を祈る老婆。

出発する仲間に向けて数人がかりで横断幕を掲げる陽気な冒険者たち。

恋人との別れに泣いている女性。

憧れの眼差しで冒険者を見上げる男の子。

見覚えのある冒険者ギルドの職員、料理大会に出場した料理人たち、ミリアレフと同じ神官服の集団、ファブレの孤児院のシスターと子供たちもいる。

街の門前では衛兵たちが並んでずっと敬礼していた。


苛烈な戦いになる。おそらく出発したうちの何割かは帰ってこれないだろう。

ハウザーは街の城壁の上から、遠ざかっていく馬車の列をいつまでも見守っていた。

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