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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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38話 第二の従者、とアメリカンドッグ

ヤマモトとファブレが市場で遠征に必要なものを買い求めていると、

向かいから走ってきた神官服の女の子がヤマモトたちの前で止まり、

息を落ち着かせてからヤマモトに指を突きつける。

「勇者様、魔王軍の討伐に行かれると聞きました! やっと私の出番ですね!」

ヤマモトは首を傾げて、手を打ってからこう言った。

「ああ、そういえば君もいたな・・」

「本当に忘れてたんですか! 酷いです!」

女の子は座り込んで顔を覆って泣き出す。戸惑うばかりのファブレ。

「この方はどなたで、どうしてこんな事になってるんですか?」

周囲にも人が集まってくる。

「ここじゃ何だし、家に戻ろうか・・」


家に着いた頃には女の子は落ち着いてきて、ファブレが出したお茶をチビチビと飲んでいる。

「君も座ってくれ。ファブレとは初対面だから自己紹介してもらおうか」

ヤマモトに言われファブレも席につく。ファブレが見たところ女の子はリンよりは年上、ヤマモトよりは年下といったところだ。身長はファブレよりは頭一つくらい大きい。無造作に伸ばした長い銀髪が神官帽から背中まで流れ落ちている。ファブレの背丈ほどもある見事な細工の杖を持っていたが、今は玄関に立てかけてある。女の子がファブレに挨拶する。

「はじめまして。私はミリアレフ。神殿より聖女の二つ名を授かっています。勇者様に助力して一緒に魔王を倒すべく参上しました。したのですが・・」

ヤマモトが冷静にファブレに説明する。

「彼女が来たときには魔王討伐するか分からなかったから、今はいらないと答えたんだ」

「ええ?」

ファブレはヤマモトの返答に呆れた。聖女は勇者の従者となるにふさわしい、と神殿が認めた女性神官のことだ。強力な癒しの力や防御魔法で勇者や仲間を守り、勇者話ではほぼパーティの一員に含まれている。それを訪問販売のようにいらないの一言で断るとは・・。

「いらないと言われても神殿に戻ってそんな事報告できないし、酒場で雇ってもらってずっと接客や皿洗いしてたんですよ、私、聖女なのに!」

ミリアレフはテーブルをバンバンと叩く。

ファブレがジト目でヤマモトを見る。

「ヤマモト様。ちょっとどうかと思いますよ・・」

「いやあ、すまんな。あの頃は大分バタついてたからな」

ファブレはそんな頃があっただろうか、と思い返すが記憶には無かった。

「魔王軍の討伐に行かれるんでしょう? 私も行きますからね!」

ミリアレフは断固として主張する。

「しょうがない。一緒に来てもらおう。だが魔王はいないようなんだ」

ヤマモトはミリアレフに現状を説明する。

「つまり・・前哨戦ですね! 燃えてきました!」

なんだか聖女という割にやけに好戦的だ。

「ところで彼も行くんですか? 酒場で話を聞きましたけど、料理人なんですよね?」

ミリアレフがヤマモトに尋ねる。

「ああ、もちろんだ。彼の料理がないと私の力が十分に発揮できないのだ」

「なるほど。じゃあこれからは仲間ですね! よろしく!」

ミリアレフが手を出し、ファブレが握り返す。

「ファブレです。よろしくお願いします。ミリアレフさん」

「よろしくね、えっと、ファーくんでいい?」

ヤマモトはその言葉に衝撃を受けたようだ。

「ファーくんだと? そんな姉のような・・仲間といえど過度な馴れ合いは禁物だ。それに子供扱いしないほうが本人のためだ。ファブレと呼んだ方がいい。そうだろう?」

早口でまくし立てるヤマモトから強烈な圧力を感じるファブレ。

「は、はい。そうして頂けると・・」

「わかりました。ファブレさん」


ヤマモトがミリアレフに頭を下げる。

「まぁ私も悪かったと思っている。あの時は平和で、君にしてもらうことも無かったからな。君の力が必要になったら呼ぼうとは思っていたんだ。酒場は社会勉強になったかな?」

ミリアレフもパーティに入れると決まって安堵し、落ち着いたようだ。

「神殿とは大違いでしたね! 体に触ってこようとする奴だとか、実力もないのに居丈高な冒険者だとか、下品な事を言ってくる酔っ払いだとか・・全員神罰を下してやりました!」

「よくクビにならなかったな・・」

「神罰はあふれる神の威光で直視することができないのです」

平然と言うミリアレフ。おそらく光系の魔法で目くらましして犯行に及んだのだろう。聖女は女神のごとく慈愛や抱擁力にあふれる女性ではなかったのか・・。ファブレの抱いていたイメージや勇者話とはずいぶんかけ離れている。


「お詫びもあるし彼の能力も知っておきたいだろう。何か食べたいものはあるかな?」

「じゃあ、アメリカンドッグは作れますか?」

ミリアレフの意外なリクエストにヤマモトは驚く。

「これは意表を突かれた・・よくそんなものを知っているな」

「私の高祖母が従者をしていた、何代か前の勇者様の好物だったそうです。日記に書いてありました」

ヤマモトが頷く。

「なるほどな。その時の勇者は少年だったのかな?」

「あっそうです。よく分かりましたね!」

「すみません。アメリカンドッグとはどんな料理でしょう?」

ファブレも口を挟む。ヤマモトが説明してくれる。

「ああ悪いな。アメリカンドッグは魚のすり身を使った魚肉ソーセージを棒に刺し、その周りに小麦粉、膨らまし粉、牛乳を混ぜたものをつけて揚げる。それにケチャップと好みでマスタードをかけて食べる。ただ魚肉ソーセージはちょっとイメージが難しい。変わりに普通の腸詰、ソーセージでいいだろう。棒を回しながら揚げるから形は涙滴型になる」

と指で形を宙に描く。

「あまり甘くないドーナツに腸詰が入ったような感じですか?」

「それで間違いない。ドーナツよりは柔らかめ、表面がカリッとしている程度だな」

「わかりました」

ファブレはテーブルに皿を並べ、ケチャップとマスタードのビンとスプーンを置く。

展開の速さにミリアレフが驚く。

「えっ、もうできるんですか?」

「フフ、まあ見ててもらおう」

ファブレは想像する。棒に刺さった腸詰、周りを緩めのドーナツ生地で包んで揚げる、柔らか目で涙滴型。こうなるはずだという確信が持てた。

「料理召喚!」

4つの皿の上に、それぞれ1本ずつのアメリカンドッグが出現する。

「ふむ、見た目は完璧だな」

「これがアメリカンドッグですか? なんだか不思議な形ですね。それに甘い匂いがします」

ヤマモトはケチャップだけ、ミリアレフとファブレはマスタードもつける。

「このように棒を持って食べる。ではいただこう」

ファブレも棒を持って一口齧り取ってみる。生地の外側のカリッとした触感のあと、すぐにケチャップの甘味と酸味を感じ、マスタードの刺激的な辛さが鼻を突き抜ける。噛みしめると柔らかい生地の甘さの中に腸詰の脂、塩辛さが混ざる。

「これは今まで食べたアメリカンドッグの中で一番美味いな」

「すっごく美味しい! 勇者様のお墨付きならこれがアメリカンドッグなんですね! 感激です!」

「これはいいですね、ボクはドーナツよりこっちのほうが好きかもしれません」

ヤマモトもミリアレフも絶賛する。ファブレもとても気に入った。


3人は1本ずつ食べ終わり、残り1本が残っている。

「私の希望で出した料理だから、私がもらっていいですよね!」

と手を伸ばすミリアレフをヤマモトがブロックする。

「何を言っている。あの料理がないと私は力が出ないと言ったろう」

「別に今は本気を出す必要がないじゃないですか。ボクがもっと味を勉強しておきます」

ファブレも譲らない。睨みあう3人。

結局残ったものは3等分し、ファブレがすぐに新しいものを作るハメになった。

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