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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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32話 ワカメと豆腐の味噌汁

「ヤマモト様へお届け物です」

「はい。ご苦労様です。確かに受け取りました」

市場からの使いがヤマモト宛に、何やら入った袋を持ってきた。受取証にサインして袋を受け取るファブレ。

中身を確認すると木の皮で包まれた茶色い粘土のようなものが入っている。何だか酒に似た生臭いような匂いがする。

「ヤマモト様、市場から荷物が来ましたよ。なんでしょうかこれ」

「うん? おお、味噌じゃないか! やったぞ!」

ヤマモトは包みを見るなり目を輝かせ、ファブレの手を握って喜ぶ。

そういえば料理大会が終わったら取り寄せると言っていた。わざわざ届けてくれたようだ。

「ああ、これがミソですか。なんだか見た目は余り・・」

「まぁそれは言うな。これがあれば味噌汁が作れるぞ。早速作ってくれ。おっと、先にリンちゃんを呼んでくれ。昆布はあるな。ワカメもある。豆腐、ネギ・・うーん」

ヤマモトには珍しく、冷静さを失ってポンコツ気味だ。そんなに味噌汁が楽しみなんだろうか。


ファブレはひとっ走りして冒険者ギルドへ向かう。リンの姿は見えなかったが、受付にリンの仕事が終わったら家に来てもらうよう伝言を頼む。


家に戻り、米も炊いたあと、ヤマモトの指示に従って味噌汁を作り始める。

「鍋に水を張り、昆布を入れて弱火でじっくり出汁を取る。昆布は必ず沸騰する前に取り出す。臭みが出てしまうからな。

具は王道のワカメと豆腐にしよう。ワカメを水で戻して水気を切る。豆腐は小さく四角に切る」

「豆腐は召喚ですね」

「そうだな。1丁でいいぞ。さすがに食いきれん」

海に行ったときに手作りの豆腐も作ってみた。自分の召喚したアイアンドーフとの違いに赤面するばかりだった。

「分かりました。料理召喚!」

豆腐1丁を賽の目切りにし、ワカメと一緒に出汁の鍋に入れて温める。

「よし、具に熱が通ったら火を止める。オタマに味噌を入れて、ハシで少しずつ溶かす。これで完成だ。あとは食べるときに沸騰直前まで温める」

味見してみるファブレ。まずワカメの強い磯の香りが漂う。スープは塩辛い中にまろやかさがあり、昆布の旨味が残る。豆腐は噛むまでもないくらい柔らかい。

ちょうどそこへリンが到着する。

「今日はどうしたんですか? あっ、味噌汁だ!」

リンも扉を開けてすぐに匂いで分かったようだ。

「フフ、ようやく味噌が手に入ったのでな。呼びつけてすまかった」

「何言ってるんですか! うわあ本当に嬉しいです。ありがとうございます!」

ご飯をよそい、味噌汁を汁椀に注いでテーブルに並べる。おかずに残り物の卵焼きやほうれん草のゴマ合え、海で買ってきた干物をあぶったもの、海苔などを並べる。完全な和食というものらしい。


「ではいただきます」

「いただきます!」

ヤマモトもリンも普段より厳かに手を合わせる。心なしかヤマモトの手が震えているように見える。汁椀を持ち、口につけて味噌汁を啜る。

ズッ、と音がしたあと今度はハシで豆腐やワカメを食べ、また椀に口を付けてスープを飲む。

「うまい・・」

ファブレは驚いた。ヤマモトが大粒の涙を流したのだ。ヤマモトが泣くのを見たのは初めてだった。

ヤマモトはすぐにゴシゴシと袖で涙を拭って、それ以降は普段通りご飯と味噌汁とおかずを交互に食べ、味噌汁のおかわりを要求する。リンもベソベソと泣きながら食べていたが、やはり味噌汁のお代わりを欲しがった。

二人はご飯1杯食べる間に味噌汁を3杯ずつ飲み、鍋は空になった。


ヤマモトはリンに昆布と煮干し、ワカメと味噌を持たせて帰らせる。リンは大喜びだ。

二人きりになるとファブレはヤマモトにどう声をかけていいのか分からない。もっと大人ならこういう時に気の利いたセリフを言えるのだろうか。

「私だって故郷が恋しくて泣くことくらいある。私のことをなんだと思っているんだ」

ヤマモトが不満そうに言う。

「はあ、あの、はい。すみません」

ファブレはしどろもどろで答えにもならない事を言う。

「味噌汁は私の国で一番郷愁を誘う食べ物でな。異世界に連れてこられて1年ぶりに味噌汁を食べたら誰だって泣くに決まってる。断言してもいい」

ファブレは思い返す。リンはカレーを食べたときも泣いていた。

「料理や味は思った以上に記憶と繋がってるんですね」

「そうだな。そういえば君が最初に作ったしじみの味噌汁、あれは酷かったぞ」

「あっ」

ファブレは味噌が何か全く分からないときに、しじみの味噌汁の出来損ないを作ったことがあったのを思い出した。ヤマモトが一口で噴き出していた。それに妙な恰好をさせられたことも・・

「あれは忘れて下さい!」

「フフ、明日の朝は煮干し出汁の味噌汁にしよう。煮干しの頭と腹をとって水に入れておいてくれ」

「分かりました」

いつもの雰囲気に戻ってファブレはほっとした。

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