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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
七章 帝国編
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293話 take me home

転移のスクロールで王都に戻ったファブレだったが、ミハエル王への報告、エドワルドを自宅へ送り、関係各所へ連絡や書状を届けると、家に帰る頃にはとっぷりと日が暮れていた。

ファブレの家から灯りが漏れ、明るい笑い声が聞こえる。ヤザワたちはまだ家にいるようだった。

「これは従者様、お帰りなさいませ!」

守衛が敬礼でファブレを迎える。

「やっと帰れました。何か変わりはありませんか?」

「はっ、特にこれといって・・あっ、しばらく前からジョゼフ殿がいらっしゃいますが、よろしかったでしょうか?」

「ジョゼフが? いえ、もちろん構いません。ありがとうございます」

守衛が先導し家の扉を叩き、ファブレの帰還を伝える。

ドアが開きファブレの目に飛び込んできたのは懐かしい我が家、それに笑顔でファブレを迎える面々だった。

「兄さん、お帰り!」

「校長、長旅お疲れ様」

「お帰りなさい! 帝国の話を聞かせてよ!」

「拙者はどうなるでござる?」

「もう魔王退治に行ってもいいのか?」

「ちょ、ちょっと! みんな順番に話すから」


テーブルの端につき、お茶を飲んで落ち着いたファブレが口を開く。

「簡単に言うと、帝国の皇帝からヤザワさんとアリアの身元の引き受けは了解してもらったよ。ヤザワさん、これを」

ファブレがヤザワに書状を手渡す。ヤザワは神妙な顔で受け取った。

「これで僕たちが帝国に戻る心配はないんだね。校長、僕たちのためにわざわざありがとう。アリアもお礼を」

「・・校長、ありがとう」

アリアがペコリとファブレに頭を下げる。ファブレが出掛ける前と比べてなんだか雰囲気が変わった気がする。よく見ると髪も服装も以前のような無造作な物でなく、女の子らしさを強調した物に変わっている。ファブレはその服に見覚えがあった。

「その服はジョゼフが着てた奴?」

ジョゼフが口を尖らす。

「そうだよ。兄さんもヤザワさんも、アリアに男の子みたいな恰好させて平気でいるなんて信じられない」

「ジョゼはセンスいい」

「うっ」

ファブレは俯いた。確かに無頓着すぎたかも知れない。

「ん、ジョゼフくんが着てた?」

ヤザワが首を傾げる。昔のジョゼフを知らないから無理もない。アカネが狼狽えた声を上げる。

「せ、拙者は? 帝国から追放されたりはしてないでござるな?」

「ああすみません。アカネさんは魔王討伐が終わったら帝国に戻っていいそうです。それと皇帝陛下から書状を預かっています」

アカネがファブレが差し出した書状を震える手で受け取る。

「こ、皇帝陛下直々の・・家宝にするでござる!」

アカネが広げた書状を暁の明星のメンバーが覗き込む。

「なんて書いてあるんだ?」

書状を見つめるアカネの体がワナワナと震える。

「ま、魔王討伐を終えても料理学校で奥義を極めるまで帰ることまかりならぬと! 拙者は料理は苦手でござる! ぎゃふん!」

アカネがゴンとテーブルに額をぶつけて突っ伏した。

「なるほど、アカネ殿に学ばせて帝国に校長の教えを広める魂胆であるな」

「うわー、アカネ頑張ってね」

「つうかヒスイ、お前も一緒に料理を基本から学んでこいよ。大体お前は料理人ギルド長の娘だろ」

「無理な物は無理!」

「ところでジョゼフ。キャナルは・・ヨーコさんはもう大丈夫?」

ファブレの問いにジョゼフが頷く。

「うん。私はもう大丈夫だからって追い出されちゃった。合成獣たちもヨーコさんを支えてるしね」

「そっか、それは良かった。ヨーコさんについててくれてありがとう、ジョゼフ」

ジョゼフが照れくさそうに笑う。

「ううん、それからずっとこの家にいたけどいいよね?」

「そりゃ構わないけど・・まだ自分の家を持たないの?」

ジョゼフは何故か自分の住居を持たず、常に誰かの所に居候しているのだ。

「一人じゃつまらないでしょ!」

ヤザワが口を開く。

「いや、ジョゼフくんがいてくれて助かるよ。やっぱり他人の家に主人なしでいるというのはちょっと気後れするからね」

「で、校長。帝国の皇帝はどのような為人(ひととなり)だったのだろう?」

アベルの質問に、皆の目線がファブレに集中する。


寝息を立て始めたアリアを寝室に運び、他のメンバーはファブレの話に夢中になった。

「へぇ、意外。もっと残忍で横暴な人かと思ってた」

ヒスイの言葉にファブレが首を振る。

「ベルヒさんが言うように、公明正大な方だったよ。ボクに対しても丁寧な態度を崩さなかったし」

「やはり閣下は素晴らしい方なのでござるな!」

アカネが感動する。

「アカネは皇帝に会ったことないの?」

アカネがブンブンと手と首を振る。

「ないないない! ないでござる! 拙者はおろか、一族の長も王宮へ入ったこともござらん」

「ヤザワさんは?」

「ボクもない。皇帝が物分かりがいいなら、直接話ができれば結果も違ったのかもね」

「皇帝の前で料理勝負したんでしょ! 兄さんはどんな料理を出したの?」

「うん。地獄池渡りを」

ジョゼフが仰天する。

「ええ! あれを帝国の皇帝に出したの? 兄さんってたまに非常識な事を平然とやるよね」

「ジョゼフに言われたくないよ」

「地獄池渡りって何だ?」

「辛いスープ料理だよ、ジャガイモ入りの。セラフィは食べたことなかったっけ」

「我も初めて聞く料理だ。実物はどんな物だろうか?」

「じゃあみんなの分出してみようか。料理召喚!」

テーブルにつく皆の前に、ジャガイモの浮かんだ赤いスープの皿が現れる。

「うわっ、辛そう!」

「辛そうじゃなくて辛ぇ!」

早速スープを一口飲んだセラフィエルが口を押え悶絶している。アカネは顔を真っ赤にして怒涛の勢いでスープを貪る。

「閣下がこれを完食したのなら残す訳にはいかないでござる!」

アベルは一口食べてスプーンを置いた。

「アカネ殿、無理をするでない。しかしこれを皇帝に献上するなど、校長の無謀・・勇気は賞賛されるべきであろう」

ファブレはアベルのその言葉に記憶をくすぐられた。初対面のヤマモトにプロポーズしたカシルーンに、無謀と勇気はどう違うのかと言った事があった。

どうやら自分の行動はそれと同じように見えたらしい。少し自重しようとファブレは反省した。

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