3話 肉じゃが
勇者ヤマモトは若く長身で大陸系の顔立ちの、輝かんばかりの美貌の女性だった。また貴族のように肉付きがよくグラマーで、女性的な魅力に満ち溢れている。
「君がファブレか。料理を召喚できるという」
「は、はい勇者様。ファブレです」
ファブレは緊張して受け答えをするのがやっとだ。
(勇者様だけでも緊張するのに、こんな美人だなんて)
「その能力はすぐに、いくらでも使えるのか?」
「いえ、1日3回だけです」
「見たこともないような料理も召喚できるのか?」
「いえ、自分で食べたものや想像できるものだけ・・です。見ただけで食べてない物は、見た目は同じですけど味は僕が想像したものが出てきます」
「なんだ、そうなのか・・」
ヤマモトは明らかに落胆する。
「だが、ひとまず私のために料理を召喚してみて欲しい。肉じゃがが食べたいんだ」
「肉じゃが?」
「ああ、肉とジャガイモとニンジンと玉ねぎと糸こんにゃくを煮たものだ」
「肉や野菜は分かりますが、イトコンニャクとは・・?」
「私がいた世界、君から見ると異世界の食材だ。見た目は紐の束のようで、コリコリしている」
なんと異世界の料理、それに知らない素材を想像して召喚しろというのだ。無茶振りにも程があった。
「君の食事を奪ってしまってすまない。十分な礼はしよう」
ヤマモトはテーブルに金貨を置いた。シスターが目を丸くしたあとひったくって、ファブレに何度も頷いている。
やらない訳にはいかなかった。
そして召喚できる時間になった。ファブレはテーブルの上に器を置く。
「勇者様。味に関しても教えてくれると、より近いものが出てくると思います」
「そうだな・・深い旨味があって、少し甘めというか」
「分かりました。やってみます。料理召喚」
そして器の中には肉と野菜が入った煮込み料理が出現した。糸こんにゃくは想像もできないのか入っていなかった。
「こ、これは・・!」
ヤマモトがどこからか二本の木の棒を取り出し、それを片手で器用に操ってジャガイモを口に運び、
味を確かめる。
「ビーフシチューじゃないか! ハハハ、肉じゃがを頼んでビーフシチューが出るとはな」
醤油や和風の出汁を知らないファブレに肉じゃがの味が想像できるわけがない。彼が知っているのは高級レストランのゴミ箱の、割れた皿についていたデミグラスソースだった。
明らかに失敗のようだが、ヤマモトは大笑いしている。
「しかしこれなら、訓練すれば異世界の料理も作れそうだな」
ヤマモトは一人頷き、絶対に返しませんよとばかりに金貨を握りしめているシスターに、今度は金貨の詰まった袋を差し出す。
「これで孤児院を直してくれ。その代わりこの子は私の従者にして連れていきたい」
「ええ?」
ファブレはあんまり突然なことに思考が追い付かないが、シスターは袋を服のお腹の部分に隠して高速で何度も頷いている。
どうやらファブレに拒否権はないようだった。
「勇者様の従者ですか? 僕が? 戦いとかは全くできませんよ」
「ああ、戦うのは私一人で大丈夫だ。ただ食事にこだわるほうでな・・好物を食べないと力が出ないんだ。これからは専属で私の食べたい料理を召喚してくれ。味の勉強をすれば異世界の料理に近くなるだろう」
「僕で大丈夫でしょうか・・」
「自信を持て。君の能力は可能性がある」
ヤマモトはおもむろに椅子に座りビーフシチューを食べ始めた。二本の木の棒で。