290話 帝国、ファブレを知る
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「なっ、何を言っている!? 無限の魔力に、料理召喚の上限が5ではないだと? デタラメにも程がある。証拠を見せてみろ!」
皇帝の後ろに立っていたコックコートの男性が憤慨した。皇帝がそれを諫める。
「落ち着け、ヘンドリック。彼を鑑定すれば分かることだ。手配を」
「はっ!」
兵士がバタバタと部屋を出て、すぐに学者風の老人を連れて戻ってきた。見慣れた水晶玉を抱えている。
ファブレは小さなため息をついた。
すぐにファブレの鑑定が行われる。だが老学者は結果を見て明らかに戸惑っていた。装置の故障を疑い、記入すべき用紙に結果を書き込めない。ファブレは魔法学園での鑑定を思い出した。
「どうした、早く報告せよ」
焦れた皇帝に急かされて、学者が声を絞り出す。
「し、信じられない事ですが・・彼の魔力は無限で、特殊召喚のレベルは20という結果が出ております」
「バッ、バカな!」
「特殊スキルはレベル5が最高ではなかったのか?」
「無限の魔力・・人の身でそんな事がありえるのか?」
帝国側の出席者たちがザワめく一方、王国側は皆平然としていた。カシルーンは暇つぶしに皇帝の似顔絵を描いている。皇帝が口を開く。
「・・そなたらの反応を見るに、当然の結果といったところのようだな。だがファブレ殿」
「はい」
「無限の魔力・・無限に料理を召喚できるという事は、国民全員分の食事を毎日提供したり、前線にいる兵士たち全員の食事を賄えるのではないか?」
「可能ですが、やりたくありません」
ファブレの返答に皇帝は顔を顰めた。
「何を言っている? それが可能ならやるべきでないか?」
「閣下、お言葉ですが・・剣を持っている、剣術を習ったからといって、周囲全てを切りつけたりはしないでしょう。力を振るう時は自分で判断すべきではないでしょうか。ボクは料理、食事に携わる人たちの仕事を横取りはしたくありません」
皇帝は少し考え込む。
「ふむ・・確かにそうだな。余りにも有用な能力で目が曇ってしまった。もう少し聞きたい。どうやって無限の魔力を身に着けたのだ?」
皇帝の質問に帝国側の出席者たちがゴクリと唾を飲み込む。ファブレは素直に答える。
「閣下もお読みのようですが、勇者話にもある大魔王との戦いの最中、聖剣が大魔王に奪われて飲み込まれてしまったことがあります。ボクは聖剣の代わりに大魔王を討伐できる物を何とか召喚しようとしました。その際に魔力の根源とも言われる、無限の魔力を得ることができたのです。他の方が再現するのは無理だと思います」
皇帝が何度も頷く。
「なるほど、絶体絶命の窮地、極限状態の中で身に着けたという訳か。では特殊召喚が上限のはずのレベル5を超えているのはどういう訳かな?」
ファブレは淀みなく答えた。
「特殊スキルの上限がレベル5というのは長い間そう思われていただけで、実際はレベル6以上もあります。詳しくは王国の魔法研究所のラプターさんが発表していると思います」
「そ、そういえば聞いたことがある! 戯言だとばかり思っていたが・・」
老学者が皇帝にジロリと睨まれる。
「早急に確認せよ」
「はっ!」
老学者はバタバタと広間を出て行った。帝国側の出席者たちは衝撃的な見聞に皆興奮して話し合っている。カシルーンが欠伸をして目をこすった。
「で、王国への要求はこれで終わりですか?」
その言葉に帝国側の喧噪がピタリと止む。皇帝が我に返り咳払いした。
「コホン。ああ、済まないな。最後にもう一つ。せっかく帝国と王国の最高の料理人が揃ったのだ。両者の料理を並べて味わってみたい、腕を比べてみたいというのは自然な事ではないか?」
料理勝負をせよということだろう。ファブレは瞬時に覚悟を決めた。
「皇帝陛下に料理を献上するのは料理人として至上の喜びです。喜んでお受けいたします。ただ知らずに閣下に失礼な料理を出す訳には参りませんので、2つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「遠慮なく申せ」
「ありがとうございます。閣下が口にされてはならない食材や、拒否反応のある食材はございませんか?」
「いや、特にない」
「ご立派です。では、辛い物はお好きですか?」
皇帝がフッと笑う。
「ああ、辛い物は好物だぞ」
「ありがとうございます。ボクの料理は決まりました」
ヘンドリックはそのやり取りをポカンと口を開けたまま眺めていた。これは現実だろうか。ファブレはまるで自分から言い出したかのようにやる気に満ちている。その自信に溢れた態度に裏打ちされた実力・・ファブレの料理召喚はレベル20だと言っていた。自分の4倍もあるのだ。ファブレの事を笑い物にするつもりが、窮地に立たされているのは自分だった。ヘンドリックは皇帝をすがる目で見る。皇帝は笑顔で頷き、ヘンドリックの肩を叩いた。
「頼んだぞ、ヘンドリック。いくら相手の料理召喚のレベルが高かろうと、卿が負ける事などありえないと信じているからな」
ヘンドリックはすぐにこの場から逃げ出したかった。




