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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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29話 決勝 季節の果実のコンポート

その後の大会の予選は、一部予想外の事などがありながらも順調に進んだ。

ヤマモトは忙しく動き回って指示を出しているようで、時々ステージ裏に顔が見える。

ファブレは決勝進出者の椅子から、残りの予選の様子をずっと見ていた。

腕のいい料理人たちの動きはとても参考になるし、自分で作ってみたい料理もいくつかあった。

そして予選4回戦が終わり、休憩の後に決勝となった。


「お待たせしました! 決勝を開始します! 我が町の料理人の頂点に立つのは誰か?」

司会の声に観客も大盛り上がりだ。

「決勝に残った優秀な料理人たちを紹介します。まずは料理召喚の使い手であり、幻の異世界料理を再現する料理人、ファブレ! 大会最年少で見事勝ち残りました!」

「おお、あんな小さな子が」

「かわいい! 頑張ってー!」

観客から無責任なヤジが飛ぶ。ファブレは大げさな紹介に顔を赤くし、観客に向かってペコペコと頭を下げる。

「次に我が町の誇る老舗料理店の料理長、カンディル! 確かな技術と実績は誰もが認めるところ。優勝の第一候補と言えるでしょう」

「お前が優勝だ!」

「頼むぞ、カンディルさん!」

「料理長ー!」

コック帽と髭の似合う壮年の男性が手を上げて観客や応援の声にこたえる。

「次に大会の紅一点、メイリン! なんと彼女も料理魔法の使い手です。東方の秘技が炸裂するのでしょうか」

メイリンは切れ長の目と独特な衣装の女性で、たおやかに観客に礼をする。

「メイリンちゃーん!」

何人もの男性が声を合わせて叫ぶ。熱狂的なファンがいるようだ。

「そして最後に貴族にして料理人! 圧倒的な食の知識と超人的な味覚を持つ料理界の貴公子、ジャン氏!」

コック帽を脱ぎ、豪奢な金髪を揺らして観客に華麗に貴族式の礼をするジャン。

「キャー! ジャン様ー!」

「こっち見たわ!」

こちらは熱狂的な女性ファンが多いようだ。黄色い声が飛び交う。


しかし審査員たちはつらそうだった。小休憩したとはいえやはり8人分の料理を食べ、更に4人分食べなくてはいけないのだ。審査が嫌とは誰も言わないが、女性や老人はもう限界だろう。


「では決勝の料理を発表します! 決勝で料理人に作っていただくのは季節の料理! 旬の素材を使った料理です。今はちょうど野菜や果物の美味しい季節で、ここ市場でも山のような素材があふれています。一流の料理人の料理をぜひご家庭でも再現してみましょう!」

「家でも作れれば食べにいかなくてすむな」

「勉強になるわね」

「うわあ、どんなの作るんだろ」

観客のざわめきが大きくなる。料理人たちは腕を組んで考え込んだり、食材を確認したり、料理の組み立てに入っている。


「では調理を開始してください!」

司会の宣言とともにまたドラが鳴らされる。

・・よし。ファブレは作る料理を、覚悟を決めた。大丈夫、問題はないはずだと自分に言い聞かせる。

「ファブレ選手真っ先に動き出しました。イチゴやリンゴなどの果物と、なんと薬草類を使うようです」

司会の声に審査員席もざわつく。

「へぇ、デザートか」

「今回は召喚じゃないのね」


ファブレは切った果物を薬草とともに鍋で煮込む。それとは別にテーブルに鍋を置くと、そこに魔法を発動する。

「料理召喚!」

テーブルに魔法陣が浮き上がり、鍋の中はややオレンジがかった透明な液体で満たされる。

「おや、作っている料理とは別に何か召喚を使ったようです。どうするんでしょうか」

ファブレは器に召喚した液体を注ぎ、それに軽く煮込んだ果物を入れていく。薬草、生薬は取り除く。

「できました!」

「おっとファブレ選手一番乗りです!」

早速審査員席に器を置いていく。町長が聞く。

「これはデザートかね?」

「はい。季節の果実のコンポートです」

見た目は家庭で作るものと何ら変わらない。液体の中に煮込んだ果物が浸っている。

「ふうむ、あの料理の後だとあまりに平凡な・・まぁいただこう」

「リンゴの果汁に浸してあるのか。それにちょっと薬草の風味がするな」

「甘くて美味しいですが、家で作るものとあまり変わらないですね」

「まぁ軽いもので助かるが・・ごく普通だな」

審査員たちの反応はイマイチだ。だが、

「む? なんだか体が軽くなったような・・」

「ほんとだ、お腹いっぱいだったのにこれならまだ食べられそうです!」

「確かに腹が楽になった。料理の効果なのか?」

審査員たちに困惑が広がる。ファブレは説明する。

「はい。異世界には医食同源・薬食同源という言葉があるそうです。薬と食事は元をたどれば同じ、という意味です。この料理は薬草の特殊な配合がされています。みなさん食べ過ぎで苦しそうでしたので・・これで審査を続けられますか?」

「おお、これなら大丈夫だ。ありがたい」

「なんと、食べすぎを解消する料理だったのか・・そうか。薬草の苦味を打ち消すために果物を使ったんだな」

「一回戦のキャベツもそうだったが、気遣いが嬉しいな」

「なんとファブレ選手の料理は食べすぎの苦しさを治す料理だったようです! これは驚きです!」

司会が説明し、観客はどよめく。

「薬膳料理、ってやつか?」

「あんな子供がそんなものまで作れるとはな」

他の料理人たちも調理の手を止めて驚く。

「バカな・・そんな薬草の配合はボクでも知らない」

「まさか、先に出したのは俺たちの料理を食べてもらうためか?」

「なんて子なの・・でもこれで全力を出しやすくなったネ。悪く思わないでネ」

他の3人もそれぞれ料理を作り終わり、審査に向かう。どれも評価が高いようだった。

ファブレは自分の料理に悔いはなく、他の料理人の高評価にあわてることもなかった。

全員の料理の審査が終わり、料理人たちは並べられた椅子に座って結果が出るのを待つ。


「それでは結果を発表します! 優勝は・・カンディル氏です! 地元の食材と審査員の好みも知り尽くした彼の料理、牛肉と季節野菜の煮込みは王道ながらも完璧な出来で、圧倒的な高評価でした!」

観客の大歓声の中、立ち上がって片腕を突き上げるカンディル。

「やった!」

「料理長ー! さすがです!」

「今度予約するからな!」

観客の祝福を受けながらステージに進み、トロフィーと賞状を受け取るカンディル。

「準優勝は・・ファブレ氏です! 彼の料理、季節の果実のコンポートはなんと食べすぎで苦しむ審査員を治すという驚異的なものでした!」

ファブレは自分が呼ばれていることに気づかなかった。まさか自分の料理が準優勝とは思ってもいなかったのだ。ボーッとしたままのファブレに、他の3人の料理人が声をかける。

「おい、呼ばれてるぞ」

「フフ、おめでとうネ!」

「君の料理は凄かったよ。胸を張っていい」

全く心の準備ができていなかったファブレは慌てて立ち上がり、ギクシャクとした動きでステージに向かう。

司会からトロフィーと賞状をカクカクした動きで受け取る。

「かわいいー!」

「凄い料理だったぞ!」

「おめでとう!」

観客の大歓声に気圧されるファブレ、だが遠くにいるヤマモトが手を振っているのを見てやっと肩から力が抜ける。

「ありがとうございます!」

と観客に、ヤマモトに大きく礼をする。


席に戻って他の料理人と握手し、司会が閉幕を宣言して大会は終了となった。

そこへリンとテオドラと、ヤマモトがやってくる。

「ファブレくん、おめでとう!」

「その歳で準優勝なんて凄いですわ!」

「お疲れだったな。君の雄姿はちゃんと見ていたぞ。私も誇らしい気分だ」

ファブレはヤマモトに駆け寄る。

「ヤマモト様! ボク、頑張りました!」

「ああ、よく頑張った。偉いぞファブレ。エビフライはとても好評だったな。予選の後で審査員にまた作ってくれとかレシピを教えてくれとか頼まれて困ったよ」

「すみません・・」

「フフ、いや構わない。だが決勝のあの料理は・・もしかしてアレを使ったのか?」

「はい。審査員の人たちがあまりに辛そうだったので」

ファブレはリンゴ味の活性化ポーションを召喚して、料理に使ったのだった。

「やはりな。まああれなら分からないだろう。実を言うと助かったよ。審査員が食べすぎることまで頭が回らなかったな」

リンとテオドラはキョトンとしている。

「フフ、料理は人を癒すというが、本当に体を治す料理を作るとはな」

「ええ、本当に凄い料理でしたわ」

「あんなものまで作れるなんて、びっくりしました!」

ファブレはヤマモトを見上げる。

「ヤマモト様の言う通りでした。ボク、この大会に出てよかったです。すごく勉強になりましたし、なんだか自信もついたような気がします」

ヤマモトは目を細めてファブレの髪をクシャクシャと撫でる。

「君もだいぶ成長したな。さぁ、家に帰るとするか。肩車してやろう」

「や、やめて下さい!」

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