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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
七章 帝国編
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280話 何でもない日

「うーん・・」

ヤザワが手帳のページをめくり見ながら、ペンを握った手で頭をガリガリと掻いている。

ファブレがその様子を見て声を掛けた。

「新しい魔法の開発中ですか? よかったら少し気分転換しませんか」

ファブレの声にヤザワがため息をつき、ペンを置いて手帳を胸ポケットに入れた。

「そうしよう。今日はちょっと調子が乗らないみたいだ。熱いコーヒーをブラックでお願いできるかい?」

「分かりました。アリア、オヤツだよ」

「うん」

アリアはツァーレの前で猫じゃらしを振っていたが、全く反応がないので諦めて立ち上がる。

「お菓子は何か希望がありますか?」

「そうだね・・カステラとかできるかな?」

「分かりました。料理召喚!」

テーブルについた3人の前にそれぞれの飲み物と、カステラが2切れずつ召喚される。無言で手を伸ばしかけたアリアをヤザワが注意する。

「アリア」

「あっ、えっと、いただきます」

「それでいい。ボクも頂こう」

「はい、どうぞ」

ヤザワがコーヒーを一口啜り、カステラに手を伸ばしてフフッと笑う。

「ちゃんと紙がついてるんだね」

「ヤマモト様にカステラには紙がつきものだと言われまして。ところで今はどんな魔法を考えてるんですか?」

ヤザワが顎をさする。

「やはり魔王討伐に使いそうな魔法だね。一体の強力な敵を倒す、複数の敵を一度に倒す。あとは空を飛ぶだとか、空間転移だとか、時間を止める、自分の体や仲間を頑丈にするとかね」

ファブレはその内容に驚いた。

「ええっ? そんな魔法が使えたらまさに無敵じゃないですか」

「まぁそう上手くは行かない。強力な魔法ほど言霊の高い評価が必要なんだ。時間を止める魔法などは最高評価のS+が必要になるだろうね」

「なるほど。だから普段の言葉集めが大事なんですね」

「そういうことだ。アリア、はしたないからそれはやめなさい」

「やだ」

アリアはへばりついたわずかなカステラを食べるため、紙をまるごと咀嚼している。

ファブレも昔同じことをして、ヤマモトに注意されたのを思い出した。


アリアの召喚術はファブレと全く同じ能力のようだった。なので昔のファブレと同じように、レベルを上げるため毎日3回召喚を使いきるのが必須で、一緒に食器なども召喚するよう練習している。

「アリア、さっき食べたカステラを召喚してみて。できれば食器も」

「うん、料理召喚!」

アリアが召喚したのはカステラ一切れだった。端に紙がついてはいるが皿やフォークなどはない。

3等分して皆で味見をする。

「なんだか・・どっしりとしたカステラだね」

「さっきより甘い!」

「アリア、カステラやスポンジケーキで大事なのは、生地を作るときに玉子を泡立てて気泡を作ることなんだ。それを焼くことで空気の層ができてふんわりとした食感になる。実際に作ってみればより分かると思うよ。あと甘いのはアリアの好みだね。ボクの召喚は無意識に甘さ控えめにしてたみたいだ」

「実際にも作れるの?」

「作れるよ。今は材料がちょっと足りないから、明日市場で買って試してみようか」

「うん!」

「ボクも同行しよう。何かインスピレーションが湧くかも知れない」

「楽しみ!」

アリアがニカッと笑った。歯の生え変わりで前歯が一本抜けているので締まらない。


アリアは掃除や洗濯などは一通りできるが、読み書きは全くできない。

ヤザワは家庭教師をしていたことがあるとのことで、アリアに読み書きを教えている。

「無理!」

アリアが泣き顔でペンを放り出す。ヤザワは怒りもせずそのペンを拾い上げた。

「アリア、あせらないで。今すぐできなくてもいいから、続けることが大事なんだ」

「・・分かった」

アリアは不満げだがペンを受け取り、再度手元の紙に向き直る。まだペンを握る強さもわからず、手の動かし方もたどたどしい。ペンが紙の上で滑ってしまう。また新たに書き直す。それを何度か繰り返した。

「よし、今日はここまで。よく頑張ったね」

ヤザワに頭を撫でられ、アリアは嬉しそうだ。ファブレも同じようにヤマモトから読み書きを習ったが、その記憶は薄れかけている。ヤマモトは何と言っていただろうか・・ファブレが記憶を探ろうとしたが、部屋に入ってきたツァーレに妨害された。

「夕飯はまだかの?」

アリアが手を上げる。

「私が猫缶あげていい?」

「お願いするよ。手を切らないようにね」

「うん!」

アリアは椅子から飛び降りて台所へ向かった。その様子を見ながらヤザワが呟く。

「猫缶はオーパーツだと思うけど・・もしかしてそれも召喚かい?」

「そうです」

「じゃあそれを巨大化させて、敵の頭上から落とすようなこともできるんじゃないか?」

ファブレは思った。ヤザワとハヤミは似ている。

「・・できると思いますが、やりたくはないですね」

いくら魔物でも、巨大な猫缶に潰されるのは不憫に思えた。

「確かに見た目が悪いね。待てよ、何かを落とすというのは使えそうだ。墜落・・いや堕落というフレーズもいいな」

ヤザワが手帳を取り出した。

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