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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
七章 帝国編
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278話 ヤザワの魔法

無論、異世界人のヤザワは魔法研究所でのスキル鑑定が必要だ。

本来はヤザワだけ連れて行く予定だったが、アリアもアカネも、暁の明星のメンバーも着いてくることになり、ラプターの研究室には入りきらない。またヤザワのユニークは口頭では説明が難しいとの事で、冒険者ギルドの地下練習場を借りて鑑定と、実演をすることになった。

ラプターとカズミ、ギルド長のハウザー、ミハエルの代理としてサラヴァン、ジョブが魔法使い系ということでファーリセスと、魔法学園のナリーシャも見物に来ている。

「なんでボクまで・・」

ヤザワはファブレの家に居候しているため、保護者のような形でファブレも付き添っている。ファブレのスケジュールはもうメチャクチャだ。ファブレは学校は長期休暇を取り、その間の給料はミハエルに請求しようと心を決めた。


ヤザワは帝国の軍服にブーツ、皮手袋という窮屈そうな恰好に、裾の擦り切れた黒いマントを羽織り、丸眼鏡をかけている。これが戦闘時の装備のようだ。

「帝国は嫌いだけど、この軍服は気に入ってね。さて、僕のユニークはクールキャストとクリエイトソーサリーだ。これは別々の能力という訳ではなく互いが連携している。クールキャストとは、詠唱する呪文の内容によって魔法の効果や威力が上がるというものだ。見てもらった方が早いだろう。誰か、あの的に一般的なマジックミサイルを打ってくれるかな?」

「じゃ私が」

マジックミサイルの得意なファーリセスが進み出て、頑丈な壁に書かれた的に向けて魔法を発動する。

「マジックミサイル!」

3、4本の魔法の矢がファーリセスの手から放たれ、螺旋を描いて的に突き刺さり、爆発が起きる。ファブレには見慣れた魔法だが、一般的な魔法使いは矢が1本だけで、複数の矢を放つのは熟練者の証だという。

「次は僕がやろう」

ヤザワが羽織っていたマントの内側から本を取り出し、手袋をつけた左手だけでパラパラと器用にページをめくる。そしておもむろに呪文を詠唱した。

「獰猛たる猟犬の群れ、何人たりともその追跡からは逃れられず。マジックミサイル!」

「うわっ!」

「さすが勇者殿でござるな!」

「えっ、一体何本あるんだ?」

ヤザワの詠唱が終わると同時に、ヤザワの頭上に無数の静止した魔法の矢が現れた。ヤザワが的に向かって右手を翳すと矢が次々と放たれ、爆発で壁がえぐれて的が消えてしまい、目標を失った矢が掻き消えた。ナリーシャが呟く。

「一般的なマジックミサイルの詠唱ではありませんね」

ヤザワは少し得意げだ。

「僕のオリジナルの詠唱だ。その内容によって魔法の効果や威力が変わってくるのがクールキャストだ。もう一つのクリエイトソーサリーは新しく魔法を創造するものだ。昨日新しく作った魔法を見せよう」

「ええっ?」

ヤザワはサラッと発言したが、とんでもない能力ではないのか。ファブレが他の皆を見るとやはり驚きを隠せないようだった。

ヤザワは隣の的の前に移動し、またもや本のページをめくって呪文を詠唱した。

「暁の明星は凶兆なり。白昼の陽を見ること叶わず、宵闇に埋もれる運命(さだめ)と知れ。モーニングスター」

ヤザワの詠唱が終わると頭上にぼんやりとした発行体が現れる。そこから強烈な光が一直線に伸びて的を射抜いた。

的があった場所は拳大に陥没しており、周りは焼け焦げている。

ヒスイが興奮した声を上げた。

「い、今の魔法はもしかして!」

「うん。君達を見て思いついたものだ」

「うひょう、恰好よすぎるぜ!」

セラフィエルも大はしゃぎだ。反対にヤザワは小首を傾げた。

「いや、思ったより地味だったな・・少し改良しようか」

「勇者殿。それならば、星を3つにするのはどうだろうか?」

アベルの提案に、ヤザワが上機嫌で顔を上げる。

「おお、それはいい! なら魔法の名前はモーニングスター・デルタとしよう! いやぁ、理解のある相談相手がいると捗るなぁ」


「料理召喚!」

立ったままでは話しにくかろうと、ファブレが皆が座れるだけのテーブルとイス、それに飲み物を召喚する。アリアがファブレに尋ねた。

「なんで料理召喚でテーブルやイスを召喚できるの?」

「うん。例えば魚の骨なんかは食べられないけど召喚できるだろう? 大事なのはそれを料理に必要だと、料理の一部だと思う事なんだ。そうすれば食器なんかも一緒に召喚できる。テーブルやイスも同じなんだよ」

「へぇー!」

アリアは感心しきりのようだ。

「そういえばあんまり自然だったから気づかなかったけど、いつもカップごと飲み物を召喚してたね」

「私にもできる?」

アリアの問いにファブレは頷く。

「もちろん。ただ、先にレベルを上げないとね」

「うん! 頑張る!」

アリアはやる気になったようだ。ヤザワが微笑んで頭を軽く撫でる。

皆が席につくと、ずっとソワソワしていたラプターがすぐにヤザワに質問する。

「まず聞きたいんだけど、君は詠唱の内容によって魔法の威力や効果が上がると言ったね。逆の事もあるのかな」

ヤザワが頷く。

「そう、逆もあるんだ。魔法の内容に適した詠唱が必要で、例えば隕石雨(メテオスォーム)を適当な詠唱で使うと、石を投げた程度の威力しか出なかったりする」

ナリーシャが手を挙げる。

「ちょ、ちょっといいかしら? 無詠唱で魔法を使うことはできないの?」

ヤザワは不機嫌そうな表情を隠そうともしない。

「魔法を無詠唱で使うなんて無粋の極みだ。魔法はやはり詠唱あってこそ。まぁ他人に無詠唱魔法を使うなとまでは言わないけどね」

「ええっ? 好みの問題なの?」

ナリーシャは愕然としている。ファブレが尋ねた。

「基本的な質問ですみません、ナリーシャさん。魔法を使う時に詠唱したりしなかったりするのは何故でしょうか」

「え、ええ。魔法のイメージを固めるための定型文が呪文。それを発音することが詠唱。詠唱することでこれから魔法を発動する、という事に集中できるから初心者や練習の時に使うけど、慣れれば必要ないの。あと2人以上で使う極大魔法のときは発動タイミングを合わせるために使うわね」

ナリーシャは説明することで徐々に冷静さを取り戻していった。

「そうだったんですね。ボクは使ったことがないんですが・・」

ファブレはそもそも料理召喚の呪文自体を知らなかった。

「それが自然ならそうなるわね。逆に毎日詠唱の練習をする神殿にいた神官なんかは、いつでも使うようになるわ」

「なるほど。ありがとうございます」

ファブレの質問が終わるのを待って、ラプターが口を開く。

「もう一ついいかな? 君は詠唱が適当だと効果が出ないと言ったね。僕は先ほどの詠唱を詩的で見事だと思ったが、価値観は人さまざまだ。もしかしたらさっきの詠唱を微妙だと思う人もいたかも知れない。君の詠唱の出来、評価の基準というのは何なのかな?」

ヤザワは感心したようだった。

「さすが研究者だ。もうそこに気づく人がいるとは思わなかった。評価の基準は2つある。一つは僕自身が満足するかどうか。もう一つは言霊の評価だ」

「言霊?」

「うん。誰の目にも見えないが、僕には言霊という霊的存在が常に傍にいる。僕の意思が伝わるし、向こうの考えも伝わってくる。彼が採点してくれるのさ」

「ほほう。ちなみにさっきの魔法はどれくらいの評価だったか教えてもらっても?」

ヤザワはこめかみに指を添える。言霊とやらに確認しているのだろうか。

「普段は非公表だけど今回だけ特別だ。マジックミサイルはA-で、モーニングスターはS-だそうだ」

ヤザワの言う事は本当なのだろうか、それとも思い込みなのだろうか。皆が疑念に囚われる中、カズミが誰にも聞こえない小声で呟いた。

「中二魔術だわ・・」

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