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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
六章 料理学校編
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272話 次世代の子供たち

ヤマモトの帰還から10年が経過した。ファブレはオウマに呼ばれて、久しぶりにオウマとルリの家を訪ねた。二人は3人の子供、長男アベル、長女フローラ、次男カインを設け、家の賑わいはかつての静寂さを思い出せないほどだ。召喚陣に浮かんだファブレの姿を見て、早速3人が取り囲んでまとわりついてくる。

「いらっしゃい! ファブレ兄ちゃん!」

「わーい! 今日のオヤツは何を作ってくれるの?」

「・・おみやげは?」

「みんな元気そうだね。今日はちょっとお父さんと話があってね」

ルリが3人の子供を外に連れ出してくれたので、ファブレはようやくオウマと二人きりで話ができるようになった。

「みんな大きくなりましたね」

「うむ、実はその事で師匠に話があってな」

「伺いましょう」

ファブレはオウマが何を言わんとしているのか、うすうす見当がついていた。

「ああ。長男のアベルだが、もうすぐ8歳になる。王国ではその年齢から学校へ通うのが一般的なのだろう?」

「はい」

ファブレが頷く。やはり予想した通りの話だ。

「子供たちもいずれ外の世界に出なくてはならない。だからアベルを学校へ通わせようという意見でルリと一致した。しかし我らの子は常人とはかなり違いがあるようだし、王国民でもない。そこで師匠の力を借りたいと思ってな。どうか我らの願いを聞いてもらえないだろうか」

オウマが頭を下げる。慌てて手を振るファブレ。

「あ、頭を上げて下さい! ボクが今日来たのもその話ですから。アベルを王都の学校へ通わせることも考えたのですが、アベルはやはり学校では目立ち、一体誰の子だという話になってしまうと思うんです」

アベルは性格的には素直で大人しいが元魔王の子だけあって、青い髪の合間に角が生え、魔物特有の魔法を使いこなし、体も頑健だ。ファブレの見るところ既に駆け出し冒険者を超える力量がある。

「ですから、ボクが運営している合成獣と孤児たちの隠れ里、キャナルの方でお預かりするのはどうかと思いまして。今はハヤミ様とヨーコさんもそちらにいらっしゃいますし」

ハヤミもさすがに寄る年波には抗えず、冒険者を引退した。今はキャナルの村長、監督役についてもらっている。

「ほほう、そんな所があるのか。それは我らの希望にピッタリだな」

「一度オウマさんとルリさん、それに子供たちも連れて見学にこられてはどうでしょう?」

「うむ。いずれは他の子たちも同じ問題に突き当たる。皆に話をして、すぐにでも見学に行かせてもらおう。ありがとう、師匠」

オウマが立ち上がって差し出した手を、ファブレは強く握り返した。


「あっ、ファブレさん! セラフィを見ませんでしたか?」

息せき切って神殿の廊下を走ってきたのは、今や聖女となったエリザベスだ。

「いえ、ここに来るまでは見かけませんでした。また逃げ出したんですか?」

「そうなんです! 授業中だったのにほんの一瞬で・・! もうどこに行ったのかしら」

エリザベスが廊下を駆けていく後ろ姿を見送るファブレ。ミリアレフの一人息子セラフィエルは、ミリアレフと時折お忍びでやってくるミハエルの溺愛を受け、更に神殿の皆も甘やかしすぎてヤンチャすぎる子供に育ってしまった。幼年学校を追い出され、神殿で教育を受けている。

「ふう、エリザベスはもう行ったか?」

その声にファブレが振り向くと、柱の陰にセラフィエルが隠れていた。ミハエルに似たフワリとした金髪の利発そうな少年で、黙って立っていれば天使のような印象さえ受ける。

「駄目だよセラフィ、ちゃんと授業を受けないと」

セラフィエルが口を尖らす。

「神官になれない俺が神殿の授業を受けてもしょうがないだろ! それより早くお菓子とジュースを出してくれよ、ファブレ!」

「セラフィ、歳上を呼び捨てにしちゃいけないよ。せめて校長と呼べと何度も言ってるじゃないか」

「ふん! だったら俺を掴まえて・・」

とセラフィエルが言った瞬間に、頭上から落ちてきた氷の檻にセラフィエルが捕らえられた。ファブレが大声を張り上げる。

「エリザベスさん! こっちにいましたよ!」

「不意打ちなんてズルいぞ!」

セラフィエルは檻の中でギャーギャーとわめき、格子を歯でかじって脱出しようとする。

セラフィをエリザベスに引き渡した後、ファブレは神官長室を訪ねた。いつものようにミリアレフが迎えるが、その表情は憂鬱そうだ。

「ミリアレフさん、セラフィをキャナルへ預ける決心はつきましたか?」


夕刻、カンディルとリンが一人娘のヒスイを伴って、ファブレの家を訪ねて来た。

「やあ皆さんお揃いで。どうぞ上がって下さい」

「こんばんは! ファブレおじちゃん、ツァーレは? あ、いた!」

挨拶もそこそこにヒスイがツァーレを探し出し、体を撫でまわす。ツァーレは迷惑顔でしばらく耐えていたが

「いい加減にせんか!」

と毛を逆立てて部屋を出て行ってしまった。

「とりあえず、夕食にしましょうか。何かリクエストはありますか?」

夕食後のお茶を飲みながら、カンディルが躊躇いがちに口を開く。

「今日来たのは実はヒスイの事なんだ。どうしても将来は冒険者になると言って聞かなくてね」

カンディルがため息をつく。ファブレにもその気持ちは分かった。カンディルは自身も一流の料理人であり、かつ料理人ギルドのギルド長でもある。娘には当然料理人の道を進んで欲しかっただろう。

だがヒスイに料理をさせてもレシピを守らず、自己流で何とかしようとしてしまう。当然出来た料理はレシピ通りにならず、料理と呼べるのか怪しい物になることもしょっちゅうだ。ファブレはそんな人物を一人知っていた。

「私は勇者様と同じ名前なんでしょ。だから冒険者になる! 学校に行かずに修業したいの!」

ヒスイは、ファブレには頑なに名前を言わなかったヤマモトの本名らしい。ヤマモトがリンだけにこっそり打ちあけ、リンは自分の子にその名前を付けたのだという。そしてヒスイは料理の腕前も、決断力があるところもヤマモトそっくりに育っていった。ファブレが澄ましてお茶を飲んでいるリンを見る。

「リンさんはどうお考えです?」

「冒険者ギルドの受付をやってた私が、冒険者なんて危ない事はやめろとは言えませんから」

リンは全く動じていない。母親になって精神的にずいぶん成長したようだった。

「一つ提案なんですが・・皆さん、キャナルに行ったことがありますよね。ボクが師事したハヤミ様もお年を召したので、今はキャナルで暮らしています。ですのでキャナルで学校と同じように授業を受けつつ、冒険者としての指導もしてもらうというのはどうでしょうか?」

ヒスイが目を輝かす。

「あっ、それいい! 最高! パパ、ママ。私そっちに行くから!」

ヒスイの中ではもう決定事項のようだ。カンディルが苦虫を嚙み潰したような顔になる。

「うーむ、ヒスイには普通の学校に通って欲しかったが・・もうテコでも動きそうにないな」

「すみませんカンディルさん。でもボクからもヒスイにはキャナルに行って欲しいんです」

「ん? どうしてかな?」

「実は・・アベルとセラフィもキャナルに行くことになりまして。二人の手綱を握れるのはヒスイだけだと思うんです」

「ええっ!」

アベルとセラフィとヒスイは同年代で、時折一緒に遊ぶこともある仲だ。片や元魔王の息子、片や国王と神官長の息子だが、なぜか二人ともヒスイには頭が上がらないようだった。

「ファブレおじちゃん、二人のことは私に任せて!」

ヒスイが胸を叩く。ファブレはその頼もしい姿にヤマモトの面影が見えた気がした。

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