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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
六章 料理学校編
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259話 血の果実の秘密

ファブレは学校での休憩時間中、職員から妙な噂を聞いた。王都内でゴブリンの目撃情報が何件もあるのだという。外壁付近、水路内、裏通りと場所はまちまちだが、ゴブリンは見つかったと分かるとすぐに逃げてしまうそうだ。

「校長はゴブリンと戦ったことがあるんですよね」

職員の問いにファブレは頷く。

「ええ、ですがボクの知るゴブリンは場所も人数差も関係なく、人を見かけたらすぐに襲い掛かってくるはずですけど・・」

帰ったらハヤミに聞いてみようと心に留めておく。だが帰宅するとファブレが口を開くより先にハヤミから話があると言われた。着替えを済ませてテーブルに着くファブレ。

「今日冒険者ギルドに言ったらハウザーに呼ばれてね。例の赤い実の件だ」

「はい」

「赤い実が腐ると人はダンジョンに入れない。一方、ゴブリンは腐った実が大好物なんだそうだ。栄養価の高い実がいくらでも転がっていて、天敵はいない。そんな訳で今ダンジョンはゴブリンが大繁殖しつつある。今後、集団で村や街を襲う可能性が高い」

「ええっ!」

ファブレは驚く。そして学校で聞いた話を思い出す。

「そういえば王都内でゴブリンの目撃情報があると聞きましたが・・」

ハヤミが頷く。

「うん、それは斥候だろうね」

斥候、つまりゴブリンが王都を襲う下見をしているというのだ。

「大変だ! どうしましょう!」

あわてて椅子から立ち上がったファブレをヨーコが諫める。

「ファブレ、とりあえず落ち着け。君に一つ頼みたいことがある」

ファブレは椅子に座りなおして深呼吸し、お茶の入った湯飲みを3人分召喚する。しばらくリビングにお茶を啜る音だけが響く。すっかり落ち着きを取り戻したファブレ。

「すみません。ボクは何をすればいいでしょう」

「うん、その前に一つ。君はゴブリンの行動がおかしいと思わなかったかな?」

「あ、それは思いました。ゴブリンが人を見ても襲い掛からずに逃げるなんて」

ハヤミが頷く。

「そうなんだ。王都で見つかったゴブリンが全て同一個体ということはないだろう。つまり複数のゴブリンが何らかの強力な命令を受けて行動している。まるで魔王軍に率いられている時のように」

「魔王軍・・ですか」

しかし魔王も大魔王も倒したばかりだ。女神からの神託があったという話も聞かない。ファブレは自分のすべき事と、何らかの理由でハヤミやヨーコの口からこうしてくれと言いづらいのであろう事も理解した。

「分かりました。オウマさんに聞きに行ってみます」

「話が早くて助かるよ」


あまり悠長にしている暇はない。ファブレはすぐに召喚のスクロールを開き、オウマとルリの元を訪ねた。

「ファブレ君いらっしゃい!」 

「ククク、師匠。料理学校は順調かな?」

二人とも料理学校の話を聞きたがったので軽く近況を伝える。そのあとでゴブリンの大繁殖と行動の違和感の話をした。腕組みして聞いていたオウマが口を開く。

「それは多分、ゴブリンたちのリーダーが生まれたのであろうな」

「あっ、なるほど! 他のゴブリンたちはそのリーダーの命令に従っていると」

オウマが頷いた。

「おそらく。だがこの件に関しては我よりも適任者がいる。そっちに聞いた方がいいだろう」

「誰でしょう? ラプターさん?」

「いや、ゴローだ」

ファブレはあっと声を上げた。ゴローはゴブリンの王、ゴブリンロードだ。

「そうでした! ゴローさんは今どちらに?」

オウマが顎をさする。

「さすがにこの家には護衛は不要だからな。一人旅に出ているがすぐに連絡を取ることはできる」

「お願いします!」

オウマがイヤリングを抑え呼びかけると、ファブレの耳にも緊張した返事とドタバタと用意をする音が聞こえるようだった。すぐにリビングの床に魔法陣が浮かび、その上に跪いたゴローが現れる。

「お呼びでしょうか、オウマ様、ルリ様!」

「ゴロちゃん久しぶり! 元気そうだね!」

「お主は臣下ではないと言っておろう。まぁよい。ひとまず師匠の話を聞いてくれ。協力の可否はゴローが判断してくれ。我らは強制しない」

ファブレがペコリと頭を下げる。

「ゴローさんお久しぶりです」

ゴローは怪訝な表情をする。

「ああ、アンタ・・勇者付きの料理人だったか。オレに何か用か?」


ルリが嬉しそうに全員分のカップと紅茶を用意する。ゴローは恐縮しきりだったが、ファブレの話を聞いた後は気が乗らないという表情で、ぶっきら棒に話した。

「その赤い実は、知恵の実と言われている。100年だか200年だか・・とにかく長い周期で一斉に花が咲き、実が成るんだ。それを食べたゴブリンは一時的に知性を高め、稀にリーダーとして目覚める者がいる。他のゴブリンはリーダーの命令に従う」

「一時的にということは、元に戻るんですか?」

「ああ。だがリーダーとして目覚めた者はそのままだ。つまりリーダーさえ殺せばいずれ元通りになる。増えた数を維持するのも難しいだろうしな」

誰よりもゴブリンの生態に詳しいゴローは非常に頼もしい。ファブレはゴローに頭を下げる。

「ゴローさん、今後質問がある度に召喚してもらうのは大変ですし、一緒に王都へ来ていただく訳にはいかないでしょうか?」

ゴローは即答する。

「断る。お前らからすればゴブリンは迷惑な魔物だという事は分かっているが、今回の件はただの自然の摂理で、責められる謂れはない。俺が人に与する理由はない」

全くゴローの言う通りだ。だがファブレも簡単には引き下がれない。

「おっしゃる通りです。ですが、ハヤミさんもラプターさんもファーリセスさんも、ゴローさんに会いたがってますよ。一度顔を出されてはいかがですか?」

その言葉は思いのほか効果があった。ゴローは狼狽える。

「うっ・・俺もラプターとまた話したいと思っていたんだ。しょうがない。ちょっとだけだぞ」

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