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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
六章 料理学校編
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241話 従者の実力

ファブレは段々と腹が立ってきた。なぜ事実無根の妄想で悪人に仕立て上げられなければならないのか。

だが心の別の部分から冷静な答えが返ってくる。それは相手に侮られ、ペースを握られているからだと。ファブレはハッとした。自分は何を臆していたのだろう。第一王子相手といえど、自分が交渉のペースを握るのだ。ヤマモトが対峙してきた女神や大魔王と比べれば大した相手ではない。ギルガメスの目を見て毅然とした態度で言い返す。

「殿下、それらはとんでもない誤解です」

「なんだと?」

「まずあの料理学校の建築のために、僕が魔王退治、大魔王退治で陛下からもらった報酬を全てつぎ込んでいます。私腹を肥やすどころかもう僕には貯金がありません」

「むっ・・」

ギルガメスが少し首をひねった。

「それに料理学校の目的は料理や食品に対する正しい知識を覚えてもらうことで、卒業生は僕の配下という訳ではありません。例えば魔法学園の卒業生は、学園長の手下といえるでしょうか? そんなことはないと思います」

「むむっ・・」

ギルガメスが更に首をひねり、顎に手を当てて考え込む。エドワルドはほうという表情でファブレを見た。

今がチャンスだ。だが相手を責めるばかりではいけない。ファブレはヤマモトがマーマンの女王と対峙したときの事を思い返していた。相手の言い分を認めることも重要だ。

「しかし殿下のご不安は最もかと思います。人は権力を与えられると変わってしまうと聞きますから。頂いた言葉を忘れぬよう、肝に命じておきたいと思います」

そう言ってファブレは頭を下げる。

ギルガメスは鷹揚に頷いた。

「う、うむ。そこまで分かっているならばよい。だがもう一つ懸念がある。お前の実力だ。召喚術はともかくとして、料理人としての経歴が短い。その道何十年のベテランから見ればまだ駆け出しだろう。料理学校の校長にはもっと適した人物がいるのではないかとな」

これはファブレも納得できる理由ではある。

「分かりました。殿下にご納得いただける実力を示したいと思います。何かご要望はありますか?」

「うむ。では戦え」

「はい?」

予想外の言葉につい聞き返してしまうファブレ。料理の腕を見るのではないのか。

「お前の料理の腕が未熟でも、皆を黙らせる実力があればいいのだ。親衛隊の一人と戦って、勝てばお前が校長にふさわしいと認めてやろう」

「ええ? それは脳筋すぎるんじゃない?」

ジョゼフが小声で呟く。ファブレも同じ意見だった。ラプターが慌てて間に入る。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。もしファブレ君に手を出したら、ヤマモトが黙っていないぞ」

「ふん。女のスカートに隠れてるだけの小僧が、従者だの魔王討伐者だのを名乗るのはおこがましいにも程があるわ」

ギルガメスが嘲る。ファブレはそれをキッと見返した。

「殿下。従者と認められた者の力を侮るのは、勇者様への侮辱も同然です。お相手しましょう」


一行は屋敷の中庭へ移動する。そこは野外の訓練場になっていた。ファブレの相手はラプターの研究室に踏み込んできた男のようだ。準備をする二人を見てラプターがため息をつく。

「やれやれ、後でヤマモトに怒られないといいがな」

「ちょっと、ラプターさん! 兄さんは勝てるの? 怪我したりしない?」

ジョゼフが心配そうにファブレを見る。ファブレは落ち着き払ってルールを聞いているようだ。

「君はファブレ君が戦ってるのを見たことがないのかい? 心配しなくても一瞬で終わるさ。従者や勇者でもない人間が、本気のファブレ君に勝てる訳がない」

「ええっ? そんなに強いの?」

「始まるようだ。まぁ見てれば分かる」

審判役の開始の声と同時に、ファブレの対戦相手が宙に浮いた。すぐ地面に落ちてしたたかに体をぶつけ動けない。ファブレは倒れた相手の喉元に剣先を向けた。本当に一瞬で勝負がついてしまった。

「え? 何? 何が起きたの?」

「相手の足元に氷の柱を召喚して持ち上げ、それをすぐ消したんだろう。かなり手加減してあるよ。もっと高くまで上げて落とせば相手は死ぬし、同じ氷柱を上から落としたら相手はぺちゃんこだ」

ファブレは呆然と口を開けるギルガメスに伝える。

「僕の勝ちですね」


広間へ戻り玉座に座ったギルガメスは、すぐにファブレを勧誘する。

「ファブレ、俺の部下になれ」

ファブレは即答した。

「いえ、お断りします」

ギルガメスは立ち上がる。

「なぜだ! 俺は王と正妃の血を引く第一王子だぞ! あんな薄汚い血統のミハエルよりも、俺の方がずっと王にふさわしい!」

ファブレは静かに答える。

「僕が殿下の部下にならないのは、価値観があまりに違うからです」

「価値観だと?」

ファブレは頷く。

「はい。殿下は血統を大事にされてますよね。ですが僕は孤児で両親の顔も知らないんです。だから僕には血統というものの価値が分かりません。そんな僕が殿下のお心に添えるとは思えません」

「・・・」

ギルガメスが渋面になる。エドワルドが口を挟んだ。

「しかし君には弟がいる。甘やかして大事にしているように見えるが」

ファブレは首を振る。

「いえ・・ジョゼフは背格好が似ていて同じような召喚術が使えるので、おそらく弟だろうというだけで、本当に血がつながっているかは分からないのです」

「なっ!?」

エドワルドが絶句した。

ラプターが苦笑する。

「ファブレ君の言う通り、君達とファブレ君では何もかもが違いすぎる。他の世界の住人と思って係わるのはこれきりにしてくれないかな。あんまりしつこいと怖ーい保護者が怒鳴り込んでくるぞ」

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