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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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25話 禁断のドラゴンステーキ

毎回4人分の食事をファブレが召喚しても遠征に支障がないか確認するため、

ヤマモトとファブレは久しぶりにパーティを組んでダンジョン探索に来ている。

他2人はどら焼きの時の顔見知り、男スカウトのスパークと、女神官のミリンダだ。


広場に溜まっていた大コウモリの最後の一匹をヤマモトが斬撃で叩き切り、スパークが周囲の安全を確認して休憩となった。

ファブレが沸かしたお茶をもらい、座って一息つくヤマモト。ふと地面の大コウモリを落ちていた枝でつつく。

「そういえば、こういった魔物を食材にすることはないのか?」

とスパークに聞く。

「あるぜ。そのコウモリみたいに動物と変わらないようなものは食べる。中には美味いのもいる。ゴブリンやオークとかの人型はよほどの事がない限り食わない。詳しく知らんが食べ続けるとよくないらしい。なんだか食べる気にもならないしな」

「ああプリオ・・いやそうだろうな。他はどうなんだ? 魔物ならではの形態・・スライムだとか、ドラゴンだとか」

会ったことはないがヤマモトでもファンタジーの代表格、スライムやドラゴンくらいは知っている。

スパークは少し驚いた顔でヤマモトとファブレを見る。

「ああ、あんたらは冒険者登録はしてなかったな。スライムは焼いたり煮たりすると溶けちまうからな。生で食うわけにもいかないし。ドラゴンは・・猛毒で食えないんだ」

「え、ドラゴンの肉って猛毒なんですか? 始めて聞きました」

「そんな見え見えの嘘じゃ子供も騙せんぞ」

ファブレとヤマモトのツッコミにうろたえるスパーク。

助けを求めるようにミリンダを見るが、ミリンダは背を向けてお茶を飲んでる振りをする。

「チッ。卑怯だぞ」

「どうしたんです?」

なんだか様子が変だ。ファブレも気になってくる。

スパークは言いづらそうだ。頭をガリガリを掻いて大きくため息をついた後に口を開く。

「いや、アンタはソロでドラゴンを倒せる可能性があるし知っておいた方がいいだろうな。ドラゴンは狩っちゃいけないし、絶対に食っちゃいけないんだよ。業界のルールだ」

「え、そうなのか。どうしてだ?」

「え、そうなんですか。どうしてです?」

ヤマモトとファブレの声がハモる。

スパークはファブレに尋ねる。

「坊主、例えば獣人の肉が大好物で、村にまで侵入してくる魔物がいたら獣人はそいつらをどうする?」

「すぐに討伐、根絶やしにするんじゃないでしょうか」

スパークは頷く。

「そうだろう。ドラゴンの肉はメチャクチャ美味いらしいんだ。一度食ったら必ず、どんな手段を使ってもまたドラゴンの肉を食いたくなる程にな。だがドラゴンからしたらそんな種族はどうだ?」

「あっ・・」

「なんと、そういうことか」

ヤマモトとファブレも納得する。スパークは話を続ける。

「だから絶対に肉を食わないように、どうしてもやむを得ない場合を除いて冒険者がドラゴンを狩ることも禁じられている。まぁもともと滅多にいないし、簡単に狩れる相手じゃないけどな」

「だが、人の生活圏を荒らしてるドラゴンを討伐することなどはあるだろう。そういう時はどうするんだ?」

ヤマモトがスパークに尋ねる。

「討伐隊は対ドラゴン用の猛毒の矢を大量に使う。それで肉は食えなくなって廃棄する。実際には食えなくもないらしいがな」

「なるほどな」

「そういうことだ。これは冒険者内の秘密だから絶対に口外するんじゃないぞ。冒険者はドラゴンは狩りませんなんて言えないからな。全く、ドラゴンスレイヤーに憧れて冒険者になる奴もいるのに、冒険者になったらドラゴンは絶対に狩るな、逃げろって言うんだぜ。いきなり目標が無くなっちまう」

「ほう、ドラゴンスレイヤーに憧れてたのか」

ヤマモトがスパークを茶化す。

「お、俺じゃねえし! 他の新入りの話だし!」

ミリンダも補足する。

「過去には王にドラゴンの肉を献上したのがきっかけで、ドラゴンを乱獲し始めて全面戦争になった国があるそうなのです。しかし飛翔するドラゴンの大群に対抗する術はほとんどなく、城も街も村も軍も、全て火炎のブレスで焼き払われたとか」

一体でも恐ろしいドラゴンが群れで、空中からブレスや魔法で攻撃してきたら人族に勝ち目はないだろう。

ファブレはその様子を想像して身震いする。

「うわぁ、恐ろしいですね」

スパークは真剣な顔でヤマモトとファブレを見る。

「二人とも冒険者登録はしてないから知らなかったんだな。ほんとに口外しないでくれよ。あと絶対に食うなよ」

「ああ分かった。ファブレもいいな」

「はい」

二人の約束にスパークも安堵して、ずっと持ったまま存在を忘れていたカップのお茶を啜る。

すっかり冷めてしまった。

「ドラゴンも普段は仲間が狩られても復讐なんてしないが、食われるために狩られるのは我慢ならんらしい。次は国じゃなくて種族が標的になるかも知れないからな」

真面目な顔で頷いたファブレへ、ヤマモトがイタズラな表情を浮かべてリクエストする。

「しかし何だか肉が食べたくなったな。夕飯はドラゴンステーキを召喚してくれないか?」

「駄目ですよ! 人の話を聞いてたんですか! 普通の牛のステーキにします」

「おっ、ソイツは楽しみだな。さて休憩は終わりだ。もうちょっと進むぞ」

スパークは荷物を持って立ち上がる。ファブレは焚火を消し、一行は探索を続けるべく通路の奥へと進む。

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