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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
六章 料理学校編
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235話 窮地のファブレ

ファブレが市場で買い物中、自称妹のジョゼフィーヌことジョゼフとばったりと出会った。

「あっ、兄さん!」

王都で買い換えたのだろう。以前よりも更に女の子っぽさを強調するような服装になっている。笑顔で手を振りながら走り寄ってくる様子はとても男には見えない。

無視する訳にもいかず、またファブレ自身気になっていた、ジョゼフの生活ぶりを尋ねてみる。

「ジョゼフ、君はどこで暮らしてるんだい?」

「んーと、僕を受け入れてくれるお姉さんのところ」

ファブレは愕然とした。

「ええ? 一人暮らしじゃなく誰かのとこに転がり込んでるの? しかも女の人?」

ジョゼフは平然と答える。

「うん。だって僕の歳じゃ部屋は借りれないでしょ?」

冷静に考えればそうだ。ジョゼフはファブレよりも幼く、一人暮らしをするより年上の誰かと生活を共にする方が自然ではある。

「でもそんな・・女の人と同居だなんて」

「何言ってるの。兄さんだってそうじゃない」

「うっ!?」

ジョゼフに痛いところを突かれ、ファブレが固まる。ジョゼフがニヤリと笑って追い打ちをかけた。

「それに僕は知ってるんだよ。ファリアちゃんの事。固そうに見えてやっぱり兄弟だよね。今日は約束があるからまたね、兄さん」

「な、なんでそれを! 待て!」

しかしジョゼフはもう背を向け、駆け出して行ってしまった。


「ミリアレフさん、ひどいじゃないですか! あの事をジョゼフにバラすなんて!」

「えっ? えっ?」

ミリアレフは目を丸くする。神官長室に息せき切って飛び込んできたのは、冷静さを失ったファブレだった。長い距離を走ってきたのだろう。荒い呼吸を繰り返している。こんなに取り乱したファブレを見るのは初めての事だ。

ミリアレフは新調した椅子から立ち上がり、ファブレを宥めようとする。

「ちょ、ちょっとファブレさん、落ち着いて下さい。私には何のことだか・・」

「ああ、もしヤマモト様に知られたらとんでもないことに! こうなったらもう奴を始末するしか・・」

頭を抱えて物騒なことを呟くファブレ。

「ファブレさん、気分が落ち着く魔法を使うので受け入れて下さい」

ミリアレフがファブレに鎮静魔法を使った後、ファブレは何度か深呼吸を繰り返し、ようやく普段の様子に戻った。

「ふう・・すみませんミリアレフさん。みっともない所をお見せしてしまって」

「とりあえず掛けて下さい。一体何があったんです?」


ファブレの話は簡単だった。ジョゼフがファリアの正体に気づいたというのだ。

「ファリアちゃんというと、まだ神殿が男子禁制のころ、ファブレさんが仕方なくメイドの恰好をしたときの偽名ですよね。でも私はジョゼフさんに話してませんよ。ジョゼフさんには余り近づかない方がいいと聞きましたので、軽く挨拶を交わす程度で、話はしていません」

「えっ! そうなんですか・・。すみません、てっきりミリアレフさんがいつも通りペラペラとしゃべったのかと」

ファブレが頭を掻き、ミリアレフが頬を膨らませる。

「もっと私を信頼してください! でもあの事を知ってるのは私とファブレさんだけ・・いえ、そういえば調理担当のメイデルが、ファリアちゃんはファブレさんの妹じゃないかと聞いてましたね」

「あっ、そういえばそんなことがありました!」

ミリアレフが頷く。

「一応他言しないよう釘を刺しておいたのですが・・ジョゼフさんは神殿の調理場に出入りすることもありますし、ファブレさんの妹という触れ込みですから、きっとメイデルがファリアちゃんの事を話したんでしょう」

「そうか・・実際にはファリアという妹はいないから、ジョゼフはファリアが僕だと気づいたんですね」

ファブレがテーブルを叩く。

「でも! それをヤマモト様に知られたら僕は破滅です! 何とかならないでしょうか? やはりジョゼフの口封じを・・」

ミリアレフが首を振る。

「ファブレさん、軽率な行動は慎んでください。私たちは勇者様の従者なんですから。それにジョゼフさんから勇者様に会いに行くのは禁じられているんでしょう?」

「はい。ですがヤマモト様が市中でジョゼフに会う可能性はあります。もしヤマモト様がジョゼフを呼び止めでもしたら・・」

ファブレが身を震わせる。ミリアレフは苦笑した。

「こういう時は仲間を頼ってもいいと思いますよ。私はどうすればいいかわかりませんが、スパークさんならきっといい方法が浮かぶでしょう」


ファブレはスパークに協力を仰ぐ事にした。料理人ギルドの一室を借り、事情を説明する。

驚いたことに、スパークはファリアの名前も、それがファブレの女装した姿だという事も知っていた。

「えっ、どうして知ってるんです?」

愕然とするファブレ。スパークは肩をすくめる。

「そりゃお前も男子禁制の神殿に報告に行ったって話を聞いたら、どうやったのか調べるさ。まぁ家にあったメイド服とウィッグを見りゃ簡単に想像はつくがな。念のためお前らとすれ違った神官に話も聞いて裏も取ってある」

ファブレは息を飲む。

「凄いです。そこまでやってるんですね・・」

「疑問に思ったことは何でも確認する、それが俺の仕事だ。まぁそのことは今日話を聞くまですっかり忘れちまってたけどな」

ファブレが椅子から立ち上がり、スパークの方へ身を乗り出す。

「それでスパークさん、僕はその事を絶対ヤマモト様に知られたくないんです。ジョゼフの口を封じる何かいい手はないでしょうか?」

スパークは手を頭の後ろで組み、ソファにもたれてため息をつく。

「はぁ・・んなもんバレてもいいだろと言いたいところだが、お前には借りがいくつもあるしな。協力してやるよ。まぁ奴と取引というのが現実的だろう。だが・・実は気になってることがある」

「なんですか? スパークさん」

スパークが身を起こし、ファブレと正面から向き合い、小声で伝える。

「どうも最近、ジョゼフを狙ってる連中がいるようだぞ」

ファブレはソファから飛び上がった。

「ええっ! 誰なんです? どんな理由で?」

スパークは口に指を当て、静かにするよう促す。

「すみません・・」

スパークは小声で話を続ける。

「相手はまだ分からない。だが殺そうとか傷つけようというのじゃないようだ。誘拐・・身柄を攫って何かをさせる、あるいは人質にするという類だろう。もし人質だとしたら要求はお前に来るはずだ。奴の身内はお前だけだからな。ファブレ、何か心当たりはあるか?」

思わぬ話に面くらうファブレ。少し俯いて考え込み、やがて口を開いた。

「もしかしたら・・最近、建築中の料理学校の資材置き場でボヤがあったそうで、親方が反対派のようなものがいるかも知れないと言っていました。もちろん無関係かも知れませんが・・」

スパークが頷く。

「なるほどな。まぁ奴の能力目当て、金目当ての可能性もあるが、料理学校の反対派という可能性もあると。確かに狙うならちょうどいいターゲットだな」

ファブレが昏い目で呟いた。

「誘拐されても、放っておきましょうか」

スパークがたじろぐ。

「おいおい・・そりゃ無理だ。ジョゼフが誘拐されたとヤマモトが知ったら、全力で救出しようとするだろ」

ファブレがため息をつく。

「じゃあ何もかも、ヤマモト様に知られず僕らでやるしかないんですね」

「そうなるな。やれやれ、妙な事になっちまったな」

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