24話 ポーション(ぶどう味)
「ヤマモト様、ちょっと思いついたことがあるんですが」
「ん、どうした?」
夕食の片付けをしつつファブレがヤマモトに相談する。
「ボクの能力でポーションが作れないかなあと思いまして」
ポーションは怪我をした場合や毒などの状態異常時に飲む特効薬だ。
冒険者には必須のアイテムで、ヤマモトの家にもいくつか置いてある。
「ポーション? ・・なるほど、食事というかドリンクと言えなくもないな。それは興味深い」
ヤマモトは顎に手を当てて考える。
料理召喚は味は再現できるが薬効はどうなのか?
それにポーションはただの液体でなく、作成には魔法を使っているはずだ。
しかし召喚した料理の栄養素はちゃんと吸収されているようだし、料理召喚も魔法だ。
とりあえず試してみるのがいいだろうという結論になった。
「それで、全くの想像だと再現は無理そうなので、一つポーションを飲んでみてもいいでしょうか?」
ポーションは高価で勝手に飲む訳にはいかない。
「ああ構わない。ただしかなりマズいぞ」
「そうらしいですね・・。ありがとうございます」
ファブレはヤマモトの許しを得て、倉庫から一般的な回復ポーションを持ってくる。
試験管のような細長いガラスのビンには紫がかった黒い液体が入っており、コルクで封がしてある。
ファブレは恐る恐るコルクを外し、ビンの中身を一気に呷る。途端に渋面になる。
「うわぁ・・苦くてドロッとしてて美味しくないですね。でも効果があるのは分かります」
すぐに水でうがいをして口の中の不快感を洗い流す。
「フフ、緊急時は背に腹は代えられないが、普段飲みたいものじゃないな。再現できそうか?」
「やってみますね」
どうせ保存できないので普通のグラスを2つ用意し、それに向けて召喚する。
「料理召喚!」
テーブルに魔法陣が浮かび、グラスの中は紫色の液体で満たされる。
ヤマモトとファブレでグラスを1つずつ手に持ち観察する。
「おや、ちょっと色が違うな」
「もっと黒かったですよね。それにサラッとしてるような・・」
ヤマモトが液体に指を付けて舐めてみる。
「甘いな。それに香りもいい」
「え?」
ヤマモトに言われ、ファブレがグラスを軽く揺すると、確かに甘い香りがする。
元のポーションは無臭だったはずだ。
「なんでしょう、失敗したのかな?」
意を決してグラスの中身を飲んでみるファブレ。それを見てヤマモトもグラスに口を付ける。
「あれ? 美味しい・・」
「ああ、これはぶどうのジュースだな。でもちゃんと効果はあるようだ」
ファブレにも先ほどのポーションと同じように、体力が回復する効果があるのは実感できた。
「もっと美味しければいいのに、と思ったのが原因みたいです」
「ポーション革命だな。これなら今のポーションよりも完全に上だ。
もし保存できて流通できれば大儲けできただろうに。レベルが上がればいくらでも・・
いや、これはマズいな」
そこでヤマモトは考え込む。ファブレが声をかける。
「どうしました?」
「いや、これはちょっと危険だと思ってな・・。 もっとレベルが上がって大量のポーションを
一度に作れるようになると、戦争や集団戦闘でかなり有効だろう?」
「そう、でしょうか」
ファブレにはすぐには思い浮かばない。
「ああ。レベルが上がれば残っている時間も伸びるようだし、
ほぼ無限にポーションを用意できることになる。素材不要で金がかからず、輸送の手間もない。
いちいち術者が怪我人のところに行く必要がある回復魔法よりも手軽だ。とんでもなく重宝されるだろう」
ファブレは泣きそうな顔になる。
「でも、ボクは戦地でポーションを召喚し続けるなんて嫌です」
「もちろんそうだろう。だからポーションが作れることは周りに言わないほうがいい。二人だけの秘密だ」
「分かりました。せっかく作れたのに残念ですね」
ファブレは肩を落とす。ヤマモトがポンポンと頭に触れる。
「いや、私も作る前に気づくべきだった。アイディアはよかったな。他にも何か浮かんだら教えてくれ」
「はい。ヤマモト様が気づいてくれて助かりました」
ファブレはまさか自分の能力が戦争で役立つなんて思ってもみなかった。
グラスをよく洗ってポーションの痕跡を残さないようにする。
「たくさん召喚できるなら、街のみんなに料理をふるまったほうがいいですね」
「フフ、そうだな。それが正しい使い方だ」




