23話 クラムチャウダー
ヤマモトとファブレは海辺の街から家に帰り、いつも通りの暮らしに戻った。
今日はリンとテオドラも来ていてリビングはとても賑やかだ。
ファブレは気後れして三人が座ったテーブルから距離を置き、皿磨きなどをしている。
以前ファブレを攫ったテオドラが当主と共に謝罪に来て、ヤマモトは謝罪を受け入れた。
その際ヤマモトににいつでも遊びに来いと言われ、たまにテオドラが家に来るようになったのだ。
テオドラは年齢の近いリンともすっかり仲良くなり、ヤマモトの事を何故かお姉さまと呼んでいる。
「そうでしたか、しばらく海に」
「ああ、これはお土産だ」
ヤマモトは小さい貝殻のイヤリングをリンとテオドラに渡す。
「わあ素敵!」
「お姉さまからプレゼントを頂けるなんて、感激ですわ!」
二人とも大喜びだ。いろんな角度から眺めたり、互いに着けてみた感想を言い合う。
イヤリングを大事そうにしまい込んだリンがヤマモトに尋ねる。
「ファブレくんの魚介料理の勉強はどうでした?」
「ああ。おかげで大分上達したようだ。そうだ、今日は勉強の成果を二人に見せてやってくれ」
「分かりました。何にしましょうか?」
ファブレがヤマモトに尋ねるが、
「今日は君にお任せにしよう。宿で肉料理のレシピを選んだときのことを覚えているか?」
「ああ、はい。覚えています」
あの時は問題の客に合わせて肉体労働者向けの食堂のようなメニューを選んだ。
食べる人の事を考えたメニューにしろということだ。
「うーん・・」
ファブレは考える。三人はお茶もお菓子もつまんでいるし、昼食と夕食の中間なので軽いものがいいだろう。
それでいて魚介類の旨味が分かるもの。
「決めました!」
ファブレはテーブルにカップを並べ始める。
「フフ、お手並み拝見といこうか」
ヤマモトは微笑みながら、リンとテオドラも興味津々で見守る。
「料理召喚!」
4つ並べたカップの下に魔法陣が浮かび上がり、光が収まるとカップの中には乳白色のスープが満たされている。ファブレは3人の前にカップとスプーンをそれぞれ置いて回る。
「うわあ、いい香り! これはもしかして・・」
「ほほう、クラムチャウダーか」
「なんですの? この料理は。スープのようですが」
リンとヤマモトはすぐわかったが内陸育ちのテオドラには馴染みがないようだ。
「ファブレ、説明してあげてくれ」
「はい。これはクラムチャウダーと言って、貝の旨味を閉じ込めたスープです。
宿で食べたものがとても美味しかったので真似してみました。冷めないうちにどうぞ」
「うむ、頂こう」
ヤマモトのいつもの手を合わせる動作を見て、リンもテオドラも同じように手を合わせる。
そしてスプーンをカップに入れ、口に運ぶ。
「美味い!」
「うーん、最高!」
「! 美味しいですわ!」
三者三様に感想を述べ、それ以降三人ともしばらく無言でスプーンを動かしてスープを味わう。
ファブレはその様子を見て自分の分を食べてみる。思ったように貝の味が充分に出ていて安心する。
「ごちそうさま。美味かったぞ」
一番早く食べ終わったヤマモトがまた手を合わせる。ほどなくリンとテオドラも食べ終わる。
「ファブレくん、とっても美味しかったよ!」
「私、このスープとても気に入りましたわ。毎日でも食べたいくらいです」
手放しの絶賛にファブレは照れて顔を赤くし、後ろを向いてしまう。
「お、お口に会いましたか。よかったです・・」
ヤマモトがファブレの背中に声をかける。
「もっと胸を張れ。皆が菓子など食べていたから軽いものにしたんだろう? いい気配りだ。
皿でなくカップにしたのも意味があるのかな?」
ファブレはうつむいて、テーブルに指で丸を描きながら答える。
「はい、お皿だと食事の一品というイメージもありますし、軽い一杯という感じにしたかったんです。それにカップのほうがスープが冷めにくいので」
「ファブレくん、凄い!」
「まぁ、素晴らしい心配りですわ」
リンとテオドラも感心する。
「君もいっぱしの料理人になったな。私も嬉しいよ」
ヤマモトは後ろからファブレを抱き寄せて頭を撫でる。
ファブレはとうとう気恥ずかしさに我慢できなくなり、
「じゃ片付けますね!」
とテーブルの上のカップやスプーンをガチャガチャと急いで回収し、ピューと流しに逃げてしまった。
「お、お姉さま! 私も撫でて下さいまし!」
テオドラがヤマモトに頭を差し出す。リンもそれに続く。
「あ、私も撫でて欲しいです」
「まぁ構わんが・・なんだ、この状況は」
ヤマモトは微妙な表情で左右の手でそれぞれの頭をしばらく撫で続けた。




