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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
五章 深淵の迷宮編
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214話 開かずの扉防衛戦 前編

「こりゃたまげたな。しゃべる猫なんて聞いたことがない。ファーリセス、知ってるか?」

スパークの問いにファーリセスが首を振る。

「私も始めて。猫の声帯でどうやって声を出してるんだろう。不思議」

ヤマモトが檻の前にしゃがみ込む。

「君は会話はできるのか? ちょっと話を聞いてもいいか?」

猫はシャーと怒りの声を上げた。

「話の前に檻から出さんか!」

ヤマモトが肩をすくめる。

「檻の鍵ならあるぜ」

スパークが見つけた鍵を使って檻を開けると、猫は優雅に檻から出てきた。

話しかけようとしたヤマモトを余所に、猫はファブレの方を見上げる。

「話の前に体も洗ってくれ。そこの小僧、お前に頼む」

ヤマモトが嘆息する。

「まぁ体を洗いたい気持ちは私も分からんでもない。ファブレ、お願いしていいか?」

「分かりました」

ファブレがタライとぬるま湯を召喚し、薄めた石鹸で猫の身体を洗い始める。猫は目を細めてされるがままだ。

「おお、湯とは気が利くのう。先ほどの食事といい、お主には見込みがある。儂の世話係にしてやろう。光栄に思うがよい」

ヤマモトが呆れる。

「はぁ、こんな偉そうにしてる猫は見たことがない」

猫がすまして答える。

「偉そうじゃなくて偉いんじゃ。儂はこの町の町長じゃからな」

「えっ? 猫が町長なんですか? じゃここは猫の町?」

ミリアレフがポカンと口を開ける。しかし今まで見てきた建物などはどう見ても人間の町だ。

「重要な書類などは儂が決済するのじゃ。こうしてな」

猫が前足をポンと地面に置く。判子替わりに肉球のスタンプを押すのだろう。

「ああ、お飾りの町長か。猫の駅長みたいな・・」

猫がヤマモトに猛然と反論する。

「お飾りではない! 儂のスタンプには誓約の魔法の効果があるんじゃ!」

黙ってやり取りを聞いていたハヤミが口を挟む。

「ちょっといいかな。余り悠長にしてられないんだ。ボクらは次のフロアに行く下り階段を探している。君は何か知ってるかい?」

「次のフロア? 何の話じゃ? だが下り階段は心当たりがある。開かずの扉じゃ。それは地面に設置された扉で、別の世界と繋がっているという伝承がある」

「ふむ、その開かずの扉とやらに階段があるのかな? 開かずの扉はどうやって開ければいいんだい?」

猫が答える。

「フフン、開かずの扉は壊すこともできず、儂にしか開けられん。だから囚われておったのじゃ。だが扉を開けるには鍵も必要じゃ! 鍵は魔物の襲撃で失われてしまい、今はどこにあるのか分からん」

「なるほど。じゃあコボルドはその鍵を探していたのか」

「鍵というと、もしかしてあれかな?」

ハヤミの言葉にヤマモトがポンと手を打つ。

「ああ、そういえば宝箱に入ってたな」

ヤマモトはゴソゴソと懐をさぐり、砂漠の地下通路で手に入れた小さな鍵を取り出した。それを見た猫が興奮する。

「おお、その鍵じゃ! どこで見つけたんじゃ?」

「ちょっと説明するのが面倒だからそれは省略させてもらう。これがあれば開かずの扉を開けられるんだな?」

「本来は開けてはならんから開かずの扉なんじゃが・・もう守るべき理由もない。助け出してくれた礼として扉を開けてやろう。じゃが儂も扉の先がどうなってるかは知らん。よし小僧、もういいぞ。体を拭いてくれ」

猫はタライからピョンと飛び出て激しく体を振る。周りの人に水がかかる事などお構いなしだ。

ヤマモトが慌てて体を引く。

「水を飛ばすな! なんて傍若無人な奴だ」

ヨーコが首を傾げる。

「しゃべるからすごく偉そうに見えるが、普通の猫もこんなもんじゃないか?」

「そうかも知れませんね」

ファブレが同意する。スパークも頷いていた。


猫が案内した開かずの扉は、街の中心の十字路にあった。

積もっていた瓦礫を綺麗に片付けると、丸い形をした扉だと分かる。

「これは盲点だったね。知らなければ探すのは大変だったろう」

「よし、鍵を差してくれ」

ヤマモトが鍵穴に鍵を差し込む。そして猫が鍵穴の横にある、猫の足跡のような模様に前足をかざす。

「なるほど、二重認証か」

扉に赤い光が灯った。細かい振動が走り、扉の上の小石が跳ねる。

だがそれと同時に、静寂を破ってけたたましい警報音が鳴り響く。一行は耳を塞いだ。

「うわっ!」

「なんだこりゃ、うるせえ!」

「地面が開くから注意しろって事なんだろう」

「だがこの音は・・マズくないか?」

一行は周りを見渡す。音は街の至るところから聞こえ、それが延々と鳴り響いている。

当然街の外にも聞こえているだろう。

「この音は止められないのか?」

「無理じゃな」

扉はようやく紙一枚が入る程度の隙間が空いたところだ。開く速度は限りなく遅い。

「ちっ、魔物が来やがったぞ!」

スパークが示す先に、翼の生えた魔物がこちらに向かって飛んでくるのが見える。

「こっちからも来たぞ!」

ヨーコがスパークとは反対側を指して警告する。飛んでくる魔物は赤銅色の肌に、山羊のような頭をしていた。四本の腕に槍や大鎌などを携えている。

「レッサーデーモンだな。グレーターほどじゃないが魔法を抵抗することがある。面倒な相手だぞ」

ヤマモトが指示を出す。

「扉が開くまで防衛する。飛んでる相手は飛び道具や魔法で落としてくれ。ハヤミは落ちた敵を頼む。私とヨーコは近づいてきた相手がいればそっちを優先だ」

「ああ、了解だ」

「集まって下さい。フレイヤズベール!」

ミリアレフが皆に防護魔法を掛ける。どうやら他の方向からも飛んできているようだ。乱戦は免れないだろう。

ファブレもスリングを握り締め、腰のショートソードと、ローブのホルダーにスクロールがあることを確認する。

「あっ、そういえば猫は?」

先ほどまで見えた猫の姿がない。だがすぐにファブレの背負い袋の中から声がする。

「ここじゃここ。ちゃんと儂を守れよ」

「はぁ・・」

もう他の誰かに預ける訳にもいかない。ファブレは猫を守りながら戦うことになってしまった。

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