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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
五章 深淵の迷宮編
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210話 木とキノコ

スパークはすぐに次の粒を口に放り込む。そして目を閉じて味わいながら呟く。

「うーむ、この濃厚な味・・たまらんな。それに外側の、野性味の強いハーブがまた合う」

「スパークさん、ご飯もどうぞ。それにレモンをかけるとまた違った風味になりますよ」

「おっ、ちょうど欲しいと思ってたんだ。助かるぜ!」

スパークはファブレが召喚した、ちぎった焼き海苔の乗った白米をガツガツと掻きこむ。

そしてレモンを絞ってかけた粒を口に放り込み、また白米をむさぼる。

その繰り返しであっという間に全部平らげてしまった。スパークがファブレに向き直る。

「おか・・」

「すみません。この料理はあまり食べすぎるのも体に悪いので、おかわりはできません」

スパークはガッカリした顔になる。だが、

「夜にまた同じ数なら大丈夫です。それにお酒も出しますから。一杯だけですけど」

というファブレの言葉に、スパークが破顔する。

「おお、酒を飲みながら食えりゃあ最高だぜ! 夜が楽しみだ!」

スパークはすっかり元気になったようだ。上機嫌に鼻歌など口ずさんでいる。

他の皆は謎の料理の正体を知りたくてウズウズしていた。

「一体何なんだ? あの料理は」

「ファブレ君、あの料理が何なのか教えてくれるんだろうね?」

「私も食べてみたい!」

食欲がないと言っていたファーリセスも食べたくて仕方ないようだ。

「ではみなさんの分も。料理召喚!」

今度は大皿に、先ほどと同じ料理が整然と並んでいる。ヤマモトが料理を観察する。

「ふーむ、外側は大葉だな。個数制限にレモンのつけあわせ。中身は・・そうか、なるほどな」

ヤマモトは料理の正体が分かったようだ。

「とってもいい香りがしますね! いただきます!」

皆料理を楊枝で一つずつ取って口に運ぶ。

「うまい!」

ファーリセスの尻尾が逆立ち、ブルブル震えている。

「うわぁ、とっても美味しいですね! でもどこかで食べたことがあるような・・?」

「ミリアレフはカレーの時に食べただろう。うーむ、しみじみと美味いな」

「こ、こんなに美味い物があったとは・・」

ヨーコは茫然としている。

「おお、牡蠣だったのか! なるほど!」

ハヤミも一口食べてすぐ分かったようだ。料理は牡蠣をニンニクとバター醤油で炒めた、いわば牡蠣のステーキだ。それに大葉を巻いたものだった。ヤマモトが料理をハシで持ち上げて観察する。

「牡蠣は栄養豊富で貧血に効く。暴力的ともいえる濃い味を、大葉で調和して食べやすくしているんだな。それに見た目がいいとはいえない牡蠣を、大葉でくるむことでカバーしている。レモンは牡蠣と相性がいいのはもちろん、これも貧血に有効だ。そして先に味の濃い物を食べさせることで、白米も無理なく食べさせると言う訳だ。シンプルだが大した料理だな。ファブレ」

ヤマモトの手放しの賞賛に照れるファブレ。

「ありがとうございます。ご飯の欲しい方いますか?」

ファブレの言葉に全員が手を挙げた。


食後のお茶を飲みながら体を休める。ハヤミが口を開く。

「正直言うと牡蠣はあまり好きではなかったけど、さっきの料理は格別だったね。牡蠣があんなに美味い物だなんて知らなかった」

「とっても美味しかったですねぇ」

ミリアレフも思い出し笑みを浮かべる。ヤマモトがお茶を啜る。

「牡蠣は少し癖のある食材だからな。だがファブレの召喚では癖が全くなく、旨味だけが引き出されているから、苦手な人でも食べられるだろう」

「なるほど。好き嫌いの矯正にも使えるんだね」

ヨーコは牡蠣がよほど気に入ったのか、ファブレを質問攻めしている。

「あの牡蠣というのはどういう食材なんだ? 海にいる貝? 勝手に取っていいのか? 食べる限度があるのは何故だ?」

ファーリセスが目を丸くする。

「あんな必死なヨーコは初めて」

皆の視線に気づいたヨーコが我に返り、咳払いする。

「コホン、いや、私は冷静だぞ」

「ヨーコ。オルトチャックの見舞いが終わったら、海の街に寄って牡蠣や、他の美味い物をたらふく食べようか」

ハヤミの言葉にヨーコの目が輝く。

「ええっ、ホントですかハヤミ様! 約束ですよ!」

皆の笑い声が弾けた。


すっかり雰囲気がいつも通りになった一行は、森の探索を再開する。

いつの間にか川のせせらぎが耳に入るようになった。ファブレがヤマモトに尋ねる。

「近くに川があるんでしょうか」

「ファーリセスがここは谷間と言ってたしな。水は低きに集まるものだ」

「なるほど」

更に歩を進めると、小道が川と交わることも増えてきた。川といってもまたいで通れる程度のもので、通行に支障はない。

「おっと、止まってくれ」

先頭のスパークが合図し、前方を指さす。川の先が池のようになっており、その周囲に色とりどり、大小様々なキノコが群れているのが見える。大きい物ではファブレの身長ほどもある。

「マタンゴだな」

ファブレがマタンゴを見るのは二度目だ。魔王城へ行く途中の森の中でも見たことがある。

マタンゴたちはドスンドスンと体をぶつけあい、頭に生えている傘から粉のようなものを出して互いに浴びている。ファーリセスが簡単に説明する。

「あれはマタンゴの胞子。違うマタンゴの胞子を浴びると、子供が体から生えてくる。人には毒の場合もあるから吸わないで。あとみんなマタンゴって言うけど本当はファンガーだから」

スパークがフォローする。

「マタンゴは気まぐれでな。隣まで行っても何の反応もないこともあるし、遠くから走ってきて襲ってくる場合もある。まぁ攻撃は体当たりと胞子をばらまくくらいで、大した相手じゃないんだが。どうするかな」

ヤマモトが物騒な事を言う。

「ふむ、小手で一網打尽・・」

「ダメですよ! 火事になったらどうするんですか!」

すぐファブレに注意される。

眠りの雲(スリープクラウド)を使おう。私とヤマモト、ファーリセスの3人で使えば仕損じはないだろう」

「分かった」

「ああ、了解だ」

ヨーコの提案で、3人で泉の周りにいるマタンゴたちに眠りの魔法を唱える。

白い靄が池の周辺を包み込み、それを吸ったマタンゴたちはバタバタと寄り添いあうように倒れ、寝息を立て始めた。

しかし、一匹だけ立ち残っているマタンゴがいる。それは全身が黄金色に輝いていた。

「なんだアイツは?」

「魔法を抵抗(レジスト)された。魔法の効かない特殊な固体じゃないかな」

黄金色のマタンゴは倒れた仲間たちをキョロキョロと見る。そしてヤマモトたちの姿に気づいた。

「来るか?」

ヤマモトが聖剣を構える。だが黄金の色のマタンゴはどこからともなく角笛を出し、それを高らかに吹いた。

「なんだ・・?」

森の中にマタンゴの角笛が鳴り響く。すると周囲の木々の幹が、根が、枝が蠢き始める。節くれだった幹に人面のような模様が浮かび上がった。スパークが驚きの声を上げる。

「げっ! トレントだ!」

ヤマモトたちの周囲の木々は全て樹木の魔物、トレントとなり襲い掛かって来た。

トレントたちは何メートルも先から長い枝を鞭のようにしならせ、叩きつけてくる。

一行は自然と背中合わせの円陣を組み、各自で飛んでくる枝葉から身を守る。

「こりゃマズいな」

周囲を囲まれ、離れた場所から一方的に攻撃を受けている。飛んでくる枝を切り払ってもほとんど効果はない。枝などいくらでもあるのだから。

「調子に乗るな!」

ヤマモトの姿が消えたかと思うと包囲から飛び出し、手近なトレントの幹を聖剣で両断した。切り飛ばされたトレントは地響きを立てて地面に倒れ、ただの樹木に戻る。地面には切り株が残される。ヤマモトは続けざまに2体、3体とトレントを葬っていくが、森の奥からはザワザワと枝を揺らし、トレント達が迫ってくる音が聞こえる。

「ちっ、キリがないな。どうする?」

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