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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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21話 魚市場

「ほう、どんなことだ? まず話を聞こうじゃないか」

周りに他の客もいるので、女将は小声で話す。

「実は内陸から来てる駐留軍のお偉いさんがうちに泊まってるんだけどね。

 魚料理は飽きた、もっと肉料理を食べたいっていうんだよ。

 私らは肉料理のレパートリーが少ないからさ、本格的な内陸の肉料理を

 いくつか教えてもらえればと思ってね。もし他の宿に行かれたらうちの評判が落ちちまうよ」

「なるほどな」

ヤマモトは顎に手を当てて少し考え込む。

「頼むよ。宿代の割引するからさ」

女将は本当に困っているようだ。

「いいだろう。ただし割引の代わりこの子にこっちの料理も教えてやって欲しい」

「もちろん構わないさ。ありがとう恩に着るよ」

女将はホッとした表情だ。

「その客のことをもう少し聞かせてくれないか?」

「え? そうだねぇ。下級貴族の三男だか四男だかで、まだ若いけど剣の腕はかなりのものみたいだよ。団長の補佐とか新入りの指導をしてるらしいね」

「なるほど、分かった。ありがとう」

明日市場に行く前にこちらが料理を教え、宿が夕食を作るときに見学させてもらうことにした。

部屋に戻ったファブレはヤマモトに聞く。

「ヤマモト様、どうしてそのお客さんの事を聞いたんですか?」

「ああ、人は環境によって嗜好が違うからな。貴族とはいえ軍の食事にも慣れていて、

 若くてガテン・・肉体労働系なら、街の労働者向け食堂のような

 ボリュームのあるものがいいだろう」

「凄いです!」

ファブレは素直にヤマモトを褒めたたえる。ヤマモトも満更ではない様子だ。

「フフ、料理は食べる人のことを考えるのが基本だぞ。ではおやすみ」

「おやすみなさい!」


翌朝、朝食の時間が終わると、宿の女将と料理担当の亭主に肉料理のレシピを教える。

羊肉の香草焼き、兎肉のシチュー、ビーフステーキ、鶏肉と卵炒め、豚肉のスペアリブ、

内臓の煮込みなど内陸のレストランでは一般的なものだ。

ヤマモトは補足があれば口を出す程度で、基本的にファブレに主導させる。

慣れない役割にファブレは落ち着かず、亭主から質問を受けると目を白黒させてしまう。

「こ、こんなところです」

「本当に助かったよ、ありがとう」

「おう、うちのメニューも増えて大助かりだ」

宿の女将と亭主が揃って礼を言う。

「いえ、大したものじゃありませんから・・」

「いや、こっちでは内陸のレシピは貴重なものだ。

 ぜひウチの料理も覚えていって内陸で広めてくれよな!」

女将に劣らず恰幅のいい宿の亭主が笑顔でバシバシとファブレの肩を叩く。

気に入ってもらえたようだ。

「フフ、ご苦労だったな。さあ市場に行こうか」

ヤマモトに労われ、一緒に市場に向かう。


「人に料理を教えるのは思ったより大変ですね」

「そうだな、自分でできることや分かっていることでも、

 それを他人に教えるためには情報を整理する必要がある。

 それによって気づくこともある。君の勉強にもなっただろう」

「はい。あ! あれが市場ですか?」

「そのようだ」

二人は市場に到着し場内を覗く。常に誰かしらの注文や金額のやり取りの怒声が聞こえ、

箱に入った魚を棒に引っ掛けて引きずって運ぶ人、箱をいくつも重ねて持ち運ぶ人、

何か周りに声を掛けながら紙片を持って小走りする人、などが行き交い活気に溢れている。

床には常に水が流され、時々海鳥が降りてきて落ちた小魚を拾って舞い上がる。

「こりゃあ凄いな」

「とても入っていける気がしません」

「どの道、長靴なしでは無理だな。一般向けはあっちのようだ。行ってみよう」

「はい」

一般客向けに商品が陳列された場外売り場にやってきた。

「うわあ、あんな大きな魚初めてみました!」

今日の目玉商品だろうか、ファブレの身長ほどもある大きな鯛が一番目立つ場所に置かれている。

赤や黒、黄色など何十種類もの華やかな魚はもちろん、石ころにしか見えない貝、

ぬめって糸を引く海藻、ガシャガシャと手足を動かすエビやカニ、

得体の知れない半透明で目がついた物、もう植物か動物か分からないような物など、

料理法が全く浮かばないも多く陳列されている。

「なんでしょうこれ、どうやって食べるんです?」

ファブレが球根を引き抜いたようなものを指差し、ヤマモトが答える。

「ホヤだな・・生で食べるんだ。日持ちしないから海のそばでしか食べられない。食べてみるか?」

「いやです! このぐんにゃりしたのは?」

「タコだな。茹でると固くなる。寿司の定番ネタでもある。隣がイカだ」

「これがイカですか。この帽子部分が輪っかになるんですね」

ファブレは次から次へとヤマモトに質問し、ヤマモトも分かる限り答える。

ヤマモトにもわからないものは店員に聞いてみる。

やがて質問責めに疲れたヤマモトが休憩を提案し、近くの食堂で昼食を取ることにする。

「ほう、海鮮丼があるのか。しかし醤油はないみたいだな」

テーブルには醤油刺しでなく塩の入った小さな壺が置かれている。

「ボクはエビの塩焼き定食が食べたいです」

「ああそれはいいな。私もそれにしようか」

二人は新鮮な海老に舌鼓を打ち、堪能する。

「そろそろ夕食の仕込みが始まるだろうし、少し休んだら宿に戻ろうか。

 明日は何か買ってみて宿で調理させてもらおう」

「はい! これいらないなら下さい!」

「ああいいとも」

ファブレはヤマモトの残したエビの尻尾をバリバリとかみ砕いた。

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