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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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2話 パンが降ってきた

ファブレはハーフかクォーターか、獣人の血が混じっている。

といっても犬のような耳がある以外、人間とほぼ変わらない。

物心ついたときには孤児院におり、両親の顔も分からなかった。

隙間風や雨漏りを何とか塞ぎ、震える中で皆で体を寄せ合って寝るようなオンボロ孤児院では

食事もパン一かけらが一日二回、という最低限のものしかなく、

子供たちも外に出てゴミ捨てや薪拾いなどでなけなしの小銭を稼ぎ、何とか食いつないでいた。

たまの楽しみはシスターがしてくれるお話だった。ファブレが特に夢中になったのは

異世界から召喚された勇者が魔王を倒す話、そして異世界の食べ物の話だった。


その日のファブレは特に空腹だった。何日も続いた雨で薪拾いの仕事がなく、

ゴミ捨ては他の孤児院が独占しており、ファブレの孤児院の子供がやっているのが見つかると集団で殴られた。冒険者の荷物持ち、という仕事もあるが冒険者が逃げる際に囮にされた、ケガをしたら置き去りにされた、などという話は日常茶飯事だ。

ファブレは孤児院に戻る最中、森の際にウサギを見つけた。ウサギなど狩ったことは無いのだが、もし持って帰れれば皆で肉にありつける。忍び足で近づき抑え込もうと思った瞬間に気づかれ、ウサギが駆け出す。

ファブレも必死で追いすがるが追いつけるはずもなく、ウサギを見失ってしまう。

ファブレは座り込んだ。空腹と疲労で立ち上がることすら億劫だ。地面に転がる石ですらパンに見える。

あれがもしパンだったらなぁ、と思った瞬間、地面に文様が浮き出て、宙からパンが一つ現れ地面に落ちた。

ファブレが何が起こったのか分からなかったが、手にした物は間違いなくいつも食べているパンだ。

しかも一かけらではなく1つ丸ごとだ。

ファブレは神に感謝し、ありがたくパンをいただくことにした。

一瞬持って帰ることも考えはしたのだが、どう考えても孤児院まで口をつけずに持っていくことは無理だった。

パンを食べ終わった後、パンが現れたときと同じように座ったり、念じたりしてみたがもうパンが現れることはなかった。

思いがけない幸運と、疑念に駆られてファブレは孤児院に帰った。


何日か経ち、パンが降ってくる条件が分かってきた。またこれが召喚魔法であることも。

1度使うとしばらくの間使えなくなる。1日3回が限度のようだ。

そしてスープが飲みたいと念じたときは、たまに食事で出される薄味で具が欠片しかないスープが落ちてきた。ただし器がないため床に広がり、ファブレは泣いた。

また出てくるのはパンなら一個、スープなら一人前と決まっており、増やすことはできなかった。

一番美味しいもの、と念じると祭りのときに屋台で食べた串焼きが落ちてきた。

ファブレは歓喜したが、食べ終わるとこれが世界で一番美味しいものではないだろうと考えた。

王様や貴族たちは見たこともないもっと贅沢な料理を食べているはずだ。

つまり自分が体験した、あるいは想像できる範囲の食べ物しか出ないのだ。

また食べ物はある程度時間が経つと消えてしまうことが分かった。

ファブレの能力は孤児院では貴重だったが、この能力で独り立ちするのは難しいと思えた。

冒険者なら食料を持つ必要がないという大きなメリットがあるが、女の子のように華奢で小柄なファブレにはとても冒険者など務まりそうもない。

他に可能性があるのは料理人だが、一人分だけを作ってもしょうがないとその考えは捨てられた。


そしてファブレもそろそろ孤児院を出なくてはならない年齢になった頃、どこからかファブレの噂を聞きつけた勇者ヤマモトがやってきたのだ。

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