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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
四章 王都グルメ編
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187話 謎の少女ファリア

ミリアレフのスクロールは飛ぶように売れた。

勇者と共に魔王や大魔王を倒した聖女というネームバリュー、それにスクロール屋の提案で女神の頂きを直すための寄付を兼ねていると発表したため、聖女のスクロールを持っているという事が裕福な人の一つのステータスになったのだ。

元々スクロールはポーションよりも輸送や保管が楽で値段も安い。皆競うように買い求め、常に入荷待ちの状態になった。

またミリアレフ以外の高位の神官が作ったスクロールの売れ行きも上々だった。

潤った資金で早速女神の頂きの修復作業の手配をする。見込みでは半年ほどで作業が完了するということだった。

ミリアレフはホッと安堵の溜息をついた。改革の滑り出しは順調だ。


女神の頂きを復旧するための業者と打ち合わせなどが増えたため、予定より早く神殿の男子禁制の規則も改定されることになった。

と言っても神官の恋人や友人知人、家族、見学者などの男性が入ることは許されない。

宅配業者や建具の修理者、あるいは使者や伝令などの正当な理由のある男性が必要な場所に入ってもいいというだけだ。今までも時間をかけた申請で通していたので実質は変わらない。これもすんなりと受け入れられた。

そしてとうとう、余った資金で食事の改善に取り掛かることになった。


神殿の調理担当、メイデルは憂鬱だった。その日は奇跡の料理人が料理を教えに来ることになっていたのだ。

彼女の敬愛するミリア姉様、神官長ミリアレフが食事や料理の事で他人に頼るのであれば、当然盟友である奇跡の料理人、ファブレに頼むであろうことは理解できる。

だがこれから額が増えるとはいえ、神殿で食事のために使える予算は多くはない。奇跡の料理人の絢爛豪華な、腕自慢の料理を教えられたとしても、それを作ることなどできないのだ。

「ファブレです。本日はよろしくお願いします」

ペコリと頭を下げた少年は、知らない人が見れば料理人と言われても見習いだと思い込むだろう。だがメイデルは当然、彼が王国で一、二を争うほど凄腕の料理人であることを知っている。

まずファブレが考えてきた、神殿で出す新しい食事のメニューを何品か作るという。

見本の料理を作り始めたファブレに、メイデルは驚いた。彼は不揃いや形の悪い野菜、あるいは収穫時期に大量に出回る物などの安く買える食材で料理を作りはじめ、端材もダシに使ったりして、メイデルたち以上に食材を無駄にしない。それでいてメイデル達には考えも及ばなかった、工夫をこらした料理を次々と作っていくのだ。失敗した場合の悪い見本を料理召喚で出してみたり、説明もなるべく専門用語を使わず、聞く人の事を考えた懇切丁寧なもので非常に分かりやすい。メイデルは彼を侮っていたことを悟り、自分の未熟さを思い知った。いつしか夢中で彼の教えを学んでいた。

休憩時間となり、ミリアレフも同席して、皆で感想を言いながらファブレが作った料理を食べる。

「お、美味しい・・」

「同じ材料でも、工夫することでこんなレストランみたいな料理が作れるんですね。全く思いつきませんでした」

「うわぁ、私これとっても好きです! 自分で作れるようにならなきゃ・・」

「ミリアレフさん、いかがですか?」

ファブレの問いにミリアレフが笑顔で答える。

「デザートまであるんですね。今までの神殿の食事からは考えられません。最高です!」

皆が食事を終え、一息ついたところでメイデルが立ち上がり、ファブレに頭を下げる。

「すみません! 私は奇跡の料理人様を誤解してました! てっきり贅を尽くした料理ばかり作るのとかと・・質素な食材であんなに美味しい料理を作るなんて、思ってもみませんでした!」

他の調理担当も皆同じ思いだったようで、口々にファブレに詫びる。

ファブレは笑って受け流し、自分の考えを話し始めた。

「いえいいんです。座って下さい。費用なんて気にせずひたすら美味を追求するのも料理人の目標ではありますけど、限られた費用や材料の中でいかに相手に喜んでもらえる料理を作るか。ボクはそちらの方が大事だと思ってます。なんせボクは神殿よりも遥かに貧しい孤児院で育ちましたからね。あ、言いにくいでしょうからファブレでいいですよ」

メイデルはファブレの考えにいたく感激した。

休憩後には調理担当の皆がファブレの考えた料理を作り、ファブレはそれを手助けやアドバイスして回る。メイデルは自分から積極的にファブレに質問をするようになった。

予定していた時間はすぐに過ぎ、ファブレが帰る時刻になった。調理担当の皆はファブレに礼を言い、メイデルが代表してミリアレフとファブレを廊下まで見送る。

(あれ・・なんだろう?)

メイデルを妙な感覚が襲った。以前にもこうして廊下に並んでいるミリアレフとファブレの姿を見た気がするのだ。しかしメイデルがファブレと直接会うのは今日が初めてだし、そんな場面を過去に見るはずがない。

(ああ! あの時だわ!)

メイデルが埋もれていた記憶を発掘した。ミリアレフが魔王を倒して神殿に戻って来た時に、ミハエル王子が付けてくれたという小間使い、内気なメイド服の少女を連れていた。その小間使いとファブレが非常に似ているのだ。名前は確かファリアと聞いた。それも似ている。メイデルが思わず声を掛ける。

「あのう、ファブレさん。つかぬ事をお伺いしますが・・」

「はい、なんでしょう?」

ファブレがにこやかに振り返る。だが、

「以前神殿に来られた、ファリアさんという方は妹さんですか? とても似ていると思うんですが」

というメイデルの言葉にファブレはピシリと固まってしまった。

似ているのは当然だ。ファリアはファブレが女装した姿なのだから。

ファブレはギギギとぎこちなく動いたあと、

「あっそうだ急用を思い出しました! あとはお願いしますミリアレフさん!」

と裏返った声で告げ、ガクンと頭を下げたあと、振り返ってピューと走り去っていった。

メイデルは茫然とそれを見送る。

「神官長様、私は何かマズい事を聞いてしまったのでしょうか?」

ミリアレフが苦笑する。

「メイデル、ファリアちゃんの事は私とあなたの共通の秘密にしましょうか。それに二人きりのときは以前のようにミリア姉様と呼んでも構わないのですよ」

「えっ!」

メイデルは驚いた。神殿内で共通の秘密を持つということは、姉妹のような特別な関係だということだ。

「は、はい! 喜んで! ミリア姉様!」

メイデルは天に舞い上がらんばかりに歓喜した。

ファリアが何者かということは、彼女に取ってもはやどうでもよかった。

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