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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
四章 王都グルメ編
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173話 襲撃者

カシルーンと共に城の地下通路を進むファブレは、自分が罠にかけられたことを悟った。

二人が通り過ぎた扉が閉まり、通路の先に重装備の屈強な男が現れたのだ。

「くそっ、開かないぞ!」

カシルーンが扉を開けようとするがビクともしない。ファブレは男から目線を離さなかった。

男は燃えるような赤髪を無造作に後ろに流している。ファブレの額に汗がにじんだ。

ファブレはカシルーンを後ろにかばい、腰のショートソードに手を添える。

カザンは虚ろは表情のまま、抑揚のない声で告げた。

「ファブレとか言ったか。お前は従者にふさわしくない。お前を殺し、俺が従者になる」

ファブレは困惑した。カザンは何を言っているのだろう。

「ボクを殺しても、ヤマモト様がボクの変わりに貴方を従者にすることはありません。それにもう魔王も大魔王もいないんです。従者になったとしても、戦う相手はいませんよ」

「いいや、お前を殺して魔王を復活させればすむことだ」

ファブレにはカザンの言うことが理解できない。だがカザンが赤黒く禍々しい形の剣を抜いたため、やむを得ずファブレもショートソードを抜いて構える。

しかし力量差は歴然だ。ファブレが受けに回れば一撃で致命傷を負うことは無いだろうが、すぐに重症を負い、その後の攻撃は防ぎきれない事は明白だ。

(やはりこの程度か。こんな弱者が従者になって、俺がなれないのは間違っている)

カザンは抜き身の剣を握って無造作にファブレに歩みよる。剣が振動し不気味な唸り声を発している。生贄を前に歓喜に震えているかのようだ。

しかしファブレの目には怖れはなく、命乞いをすることもない。

予想外の落ち着いた反応にカザンは戸惑いを覚えた。


ファブレは大魔王討伐後に行った、ハヤミとの訓練を思い出していた。

「ファブレ君。これからの君の想定敵は僕やヤマモト、あるいは他の従者たちだ」

「ええっ? とてもボクが勝てるとは思えませんが・・」

ハヤミはあっさりと頷く。

「もちろんまともに剣で戦ったら勝ち目はない。だから別の戦い方を考えなくてはならない」

「別の戦い方ですか?」

ファブレが剣の他に使えるのはスリングと、スクロールくらいだ。それらを用いてもやはりヤマモトやハヤミ、他の従者に勝てるとは思えない。

「前に氷の塊を落とすという話をしたのを覚えているかな? 君が強者と戦って生き延びるには、料理召喚を使うしかないと僕は思う」

「でも・・」

ハヤミがファブレの言葉を手で遮った。

「料理召喚を戦いや、人を傷つけることに使いたくないという君の気持は分かる。しかしヤマモトがいない時に、君が強者に襲われる可能性は充分にあるんだ。現実的な話として、君は料理召喚で戦う他ない。でなければすぐにやられてしまうよ」

俯いていたファブレは、ハヤミの言葉に顔を上げる。

「・・・ハヤミ様の言う通りです。ボクは甘えていたようです」

ハヤミが微笑む。

「分かってくれるかい。まずは僕と一緒に料理召喚を使った戦法をいくつか考えようか」


「料理召喚!」

ファブレの言葉と同時に、ファブレとカザンの間の通路が透明な塊で塞がれた。

カザンの目が驚きに見開かれる。透明な塊にカザンが剣を振るうとガツンという音とともに破片が飛び、白い蜘蛛の巣状のヒビが入る。

(これは・・氷か!?)

それは厚さが何メートルもある氷の壁だった。床から天井まで詰まっており、完全に通路を塞いでいる。ズシンという地響きにカザンが後ろを振り向くと、通路の後ろ側も同じように氷の壁で塞がれていた。

(ん、なんだ?)

カザンが冷たい感覚に足元を見下ろすと、いつのまにか床に水が溢れている。それは見る間にくるぶし、膝、腿と水位を上げていった。

(溺れされる気か!)

カザンは剣を大きく振りかぶって溜めを作ると、目の前の氷へと全力で叩きつけた。

「カアッ!」

剣が不気味な唸りを上げ、分厚い氷をビキビキと横断するようにヒビが走り、氷の塊が砕け散った。

同じように後ろの氷の壁も破壊する。行き場を見つけた水が流れ出て、水位が下がっていく。

カザンがふぅと吐息をもらしたところに、今度は天井から巨大な氷の塊が落ちてきた。

「うおっ!」

とっさに頭上に上げた両手で氷を支えるカザン。氷の塊はすさまじい重量だったが、カザンは渾身の力を込めて、氷の塊を投げ捨てた。

(くそっ、距離を詰めなければ!)

目の前の氷の残骸に剣を叩きつけるカザン。脆くなった氷がスパスパとバターのように切れ、一人分が通れるだけのトンネルが作られる。

「もう逃げられんぞ」

カザンが氷のトンネルをくぐり、ファブレ達へと迫る。

「ファブレ、開いたぞ!」

カザンが目にしたのはカシルーンが後ろの扉を開け、ファブレと共に扉の奥へ駆け出そうとしているところだった。

(バカな、あの扉を開けられるはずがない!)

扉は王族が城から脱出する際に、追手を遮るためのものだ。開けられないことを前提に作られている。だがそんなことを考えてもしょうがない。実際に開いてしまっているのだ。カザンは浮かんできた疑問を頭を振って追い出す。

「逃がさん!」

カザンは一瞬で間合いを詰めて、今まさに扉をくぐろうとしているファブレに切りかかる。

すんでの所でファブレは鋼鉄製の扉の隙間をスルリと抜け、カザンの剣は火花を散らし、扉に大きな傷を作るだけにとどまった。

すぐに追いかけようとするカザンだが、ズルリと足元が滑って膝をつく。いつのまにか水浸しだった床が乾き、今度は油まみれになっている。

「くそっ、小細工を!」

カザンは起き上がりつつ扉に目をやる。錠や継ぎ目の部分に小さな穴がいくつも開いている。扉の下には飾り気のないレイピアが落ちていた。

(まさかこれで錠を壊したのか? しかもなぜ置いていく? 鋼鉄製の扉を貫通するほどの魔法の装備品ではないのか?)

カザンには疑問ばかりが浮かぶが答えを得られるはずもない。

「クソがっ!」

起き上がって腹いせまぎれに扉に剣を叩きつける。ガゴン!とすさまじい破壊音が響き、重厚な扉はひしゃげて吹っ飛んだ。

カザンは通路の奥、ファブレたちが逃げた方へ駆け出した。

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